上 下
113 / 124
もう、離れたくない

しおりを挟む
 車を降りた先には、小型のジェット機が迫っていた。美姫がウィーンに発つ秀一を見送った、ガルフストリームG550。

 今日は一緒に秀一と乗ることが出来るのだと思うと、感慨深い思いが美姫の胸に広がった。


 客室乗務員に挨拶し、秀一に続いてタラップを上がる。

 入ってすぐに黒大理石のバーカウンターがあるのは一緒だったが、ソファは以前のベージュの革張りのものから黒革のソファベッドに変わっていた。

「晴れて離婚して独身になったことですし、もうこれで待つ必要はなくなったでしょう?
 これだけ私を待たせたのですから、もちろん覚悟は出来てますよね? ロングフライトは退屈せずに済みそうです」

 秀一に耳元で囁かれ、美姫は思わず顔を真っ赤にした。

 離陸に備え、機内席に並んで座る。

「本当に、いいのですね。貴女は、この国も捨てることになるのですよ」

 念を押す秀一に、美姫はしっかりと頷いた。

「はい、その覚悟は出来ています」

 飛行機が滑走路へ向かい、動き出す。機体が進行方向を変え、いよいよ滑走路に辿り着き、加速度を上げて行く。

 美姫は息を詰めて窓からの景色を見つめた。

 景色がぐんぐん後ろへと流れていき、ふわっと胃が持ち上げられるような感覚が起きる。滑走路の白いマーキングが見え、周りの景色が広がっていく。空港の飛行機が小さくなっていき、どんどん地上との距離が遠くなる。

 美姫は小さく息を吐いた。
 
 飛行機が雲の上を飛び、地上の景色が見えなくなると、美姫は窓から視線を外した。少し憂いを帯びたその表情を見つめた秀一は、ベルト着用サインが消えると間の手摺を上げ、美姫の手に自らの手を重ねた。

「本当に、ここに美姫がいるのですね」

 美姫の指の間に秀一の長い指が入り込み、その存在を確認するように握られる。そんな仕草に美姫の胸がキュンと締め付けられ、秀一を見上げた。

「これからは、ずっと傍にいます。
 傍に、いさせて下さい」

 カチャッと自らのシートベルトを外し、美姫のベルトに指を掛ける。

「ようやく、貴女の肌に触れられる……」

 もう片方の腕が、美姫の躰を引き寄せる。美姫は秀一の胸元に、躰を預ける形になった。秀一の甘くセクシーな匂いに包まれ、美姫の全身が熱くなった。

 美姫は秀一を見上げ、慌てた。

「ちょちょちょ……ちょっと、待って下さい。
 客室乗務員の方だっているし、まさか……最後までは、しないですよね? ただ、抱き合ったりするだけ、ですよね?」

 秀一は、美姫の背中に指を沿わせた。美姫の背中が猫のようにしなる。

「私がそんな戯れだけで、満足するとでも? 乗務員席はカーテンで仕切られていますし、呼び出しと緊急時以外は来ないように伝えてあります。
 Mile High Club(搭乗中のセックス)は、極上の快楽を与えてくれるそうですよ」

 秀一の唇が、美姫の耳元に寄せられた。

「二人で、極上の快楽に溶けていきましょう」
「ンンッァ」
 
 耳朶に甘く噛みつかれ、美姫は切ない声を上げた。

 秀一は意地悪そうに目を細めた表情から一転、切なさの混じるライトグレーの瞳で美姫を見つめた。

「この日を、どれだけ待ち侘び、何度夢見たことか。
 本当に、夢ではないのですね。美姫が、私の腕の中にいるんですね……」

 それまでの苦しく辛かった秀一の思いが流れ込み、美姫は絞られるような痛みと溢れ出る愛おしさを胸に、秀一に唇を寄せた。

「私も、夢のようです。
 秀一さんの胸に抱かれているなんて……」



 もう、決して離れたくない……



 そんな思いを胸に、再び美姫は秀一に唇を寄せた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

甘々に

緋燭
恋愛
初めてなので優しく、時に意地悪されながらゆっくり愛されます。 ハードでアブノーマルだと思います、。 子宮貫通等、リアルでは有り得ない部分も含まれているので、閲覧される場合は自己責任でお願いします。 苦手な方はブラウザバックを。 初投稿です。 小説自体初めて書きましたので、見づらい部分があるかと思いますが、温かい目で見てくださると嬉しいです。 また書きたい話があれば書こうと思いますが、とりあえずはこの作品を一旦完結にしようと思います。 ご覧頂きありがとうございます。

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

溺愛ダーリンと逆シークレットベビー

葉月とに
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。 立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。 優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?

獣人の里の仕置き小屋

真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。 獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。 今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。 仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。

副社長氏の一途な恋~執心が結んだ授かり婚~

真木
恋愛
相原麻衣子は、冷たく見えて情に厚い。彼女がいつも衝突ばかりしている、同期の「副社長氏」反田晃を想っているのは秘密だ。麻衣子はある日、晃と一夜を過ごした後、姿をくらます。数年後、晃はミス・アイハラという女性が小さな男の子の手を引いて暮らしているのを知って……。

10のベッドシーン【R18】

日下奈緒
恋愛
男女の数だけベッドシーンがある。 この短編集は、ベッドシーンだけ切り取ったラブストーリーです。

処理中です...