<完結>【R18】愛するがゆえの罪 10 ー幸福の基準ー

奏音 美都

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差し伸べられるふたつの手

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 暗闇の中、美姫は立っていた。足元は覚束なく、足場はとても狭く、今にもバランスを失って落ちそうだった。

 見下ろせば、そこには更に深い闇が今にも美姫を呑み込もうと待ち構えている。それは恐ろしくもあり、また魅惑的でもあった。

 ここに堕ちれば、或いは楽になれるかもしれない......

 そんな思いが過った瞬間、美姫の足元がバラバラと崩れ落ちた。

「ッッ!!!」

 落ちるっ!!!


『美姫っっ!!!』


 二人の男性の声が同時に響いた。

 美姫の右手を秀一が、左手を大和が、それぞれ両端から掴んでいる。

「さぁ美姫、私の手を掴むのです!」
「美姫! 俺の元に来い!」

 二人からそれぞれに引っ張られ、美姫の躰が悲鳴を上げる。どちらかの手を離さなければ、美姫の躰は引き裂かれそうだった。

 それでも美姫は、ただ痛みに泣くことしか出来ずにいた。


 ふと目を覚ますと、美姫は秀一の手を痛いぐらいに握り締めていた。

「ご、ごめんなさい!!」

 慌てて手を離す。

 秀一はずっと握られていた手を押さえた後、笑みを浮かべた。

「気分はどうですか?」
「もう、大丈夫です。仕事に戻れます」

 美姫が半身を起こすと、秀一のジャケットが掛けられていた。

 秀一はそれを手にすると羽織り、美姫に手を差し伸べた。

「では、行きましょうか」

 美姫が恐る恐る手を伸ばすと、力強く引き上げられた。

 この手を、本当に取ることが出来たら......どんなに、幸せだろう。

 でも、出来ない。
 私にはそんなこと、出来ないんだ。

 美姫は睫毛を伏せ、それから力強く真っ直ぐ前を向いた。

 せめて、秀一さんのツアーが素晴らしいものとなるよう、私は精一杯仕事に取り組もう。それだけが、私が秀一さんに出来ることなのだから。

 美姫は秀一の後ろ姿を見つめ、唇を結んだ。
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