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私情とビジネス
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昨夜、秀一が帰った後、美姫は考えた末に母に電話した。記者会見発表ともなれば、遅かれ早かれ母に知られることになるので、その前に相談しようと思ったのだ。
事の次第を聞いた凛子は、落ち着いた声で美姫に静かに尋ねた。
『美姫、あなたはこの仕事を引き受ける自信がありますか』
そんな自信など、ない。
けれど、秀一との契約を反故にすれば、どんな仕打ちを受けるか分からない。
それに、ビジネスでもいいから秀一に会いたいという狡い思いも抱えていた。
「はい、あります......」
凛子は少し考えてから、言った。
「分かりました。
今から、あなたの家に向かいますので、そこで大和くんも含めて話し合いましょう」
凛子を含めた3人での話し合いの中、秀一がコンサートの衣装デザインを依頼していることや、そのコンセプトについて説明した。
大和はピリピリしていたが、声を荒げるようなことはしなかった。さすがに凛子の前で感情を露わにすることは出来ないからだ。
美姫は冷静に話し合いが出来、ホッと胸を撫で下ろした。
この依頼を受け入れることで『KURUSU』にとって大きなビジネスチャンスとなり、これから控えているソウル支店オープンやローティーンファッション展開にも弾みをつけることが出来ると凛子は分析した。
その上で、美姫に確認した。
「この仕事を引き受けるつもりなら、私情は一切挟まないこと。
分かっていますね?」
「はい、分かっています」
まるで美姫の気持ちを読んでいるかのような凛子の発言に、ドキッとした。そして、凛子にも大和にも嘘をついていることに背徳感がのし上がってくる。
私情を一切挟まないなんて、無理だ。
秀一の存在自体が麻薬なのだ。
一度覚えてしまったら、それを忘れることなど出来ない。
近くにいれば、手を伸ばしてしまいたい衝動に駆られる。
渇望する。
けれど、そんな正直な気持ちを吐露するわけにはいかなかった。
母娘のやりとりを聞いていた大和が、口を開いた。
「明日の記者会見、俺も出るよ」
「え、大和も!?」
美姫は、嫌な予感しかしなかった。また、創立記念パーティーのような綱渡りのやり取りが目の前で行われるのかと思うと、生きている心地がしなかった。
美姫は助けを求めるように凛子を見つめた。だが、凛子は大和の意見に反対しなかった。
「そうね、ここでスキャンダル疑惑が再燃するわけにはいきませんから、大和くんも一緒に記者会見に同席してもらいましょう。
......分かりました。今回の来栖秀一の来日ツアーの後援企業として、来栖財閥がつくことにしましょう。それならマスコミから怪しまれることもなく、私たちの関係が良好であるアピールにもなりますから。
私から、秀一さんにその話をつけておきます」
どうやって......と思ったが、凛子は秀一の連絡先を抑えていた。秀一も上手だが、凛子もまた上手だと美姫は感じた。
「美姫......お前、来栖秀一に直接会ったのか」
凛子が電話している間に大和に小声で尋ねられ、美姫の心臓が跳ねた。
「うん......店に来て、そこで仕事の依頼をされたの......」
「そっか」
嘘は、ついていない。だが、誰もいない店内で二人きりで会っていたという事実を隠そうとしていることに美姫は罪悪感を覚え、大和の顔を見られずにいた。
凛子が秀一との電話でのやり取りを終え、戻ってきた。
「話をつけました。
来栖財閥は、来栖秀一来日ツアーの協賛企業になることに決定しました」
「先ほどは後援って言ってましたが、協賛になるとどう変わるんですか」
美姫が凛子に尋ねた。
「後援はイベントに箔を付けたり、社会的信用を得るための単なる名義貸しであることが多いです。協賛は催し物の趣旨に賛同し、協力することで、いわゆるスポンサーのことを指します。名義貸しである後援とは違い、金銭的援助を中心に、人的・物的・サービス等の提供も行います。
今回、来栖財閥は特別協賛企業として『来栖財閥プレゼンツ 来栖秀一来日ツアー』と銘打ってツアーを立ち上げることになりました」
来栖財閥プレゼンツ......
いきなり大規模になった財閥の関わりに、美姫だけでなく、大和も驚きを隠せなかった。
「これはお互いにとって、ウィンウィンの契約です。秀一さんは、来栖財閥という大企業のスポンサーを得て金銭的にも援助してもらえる。来栖財閥にとっても、『来栖秀一』の名を借りて企業の大きな宣伝効果を得ることが出来ます。美姫がデザインした『KURUSU』ブランドの秀一さんが着る服も大きな話題を呼ぶでしょうし、売れるでしょう。
このチャンスを生かさない手はありません」
凛子は母としての顔ではなく、ビジネスウーマンの顔として語った。
やっぱりお母様は凄い......
私もこんな風に考えられたら、どんなにいいだろう。
母を尊敬しつつも、複雑な心情に駆られた。
事の次第を聞いた凛子は、落ち着いた声で美姫に静かに尋ねた。
『美姫、あなたはこの仕事を引き受ける自信がありますか』
そんな自信など、ない。
けれど、秀一との契約を反故にすれば、どんな仕打ちを受けるか分からない。
それに、ビジネスでもいいから秀一に会いたいという狡い思いも抱えていた。
「はい、あります......」
凛子は少し考えてから、言った。
「分かりました。
今から、あなたの家に向かいますので、そこで大和くんも含めて話し合いましょう」
凛子を含めた3人での話し合いの中、秀一がコンサートの衣装デザインを依頼していることや、そのコンセプトについて説明した。
大和はピリピリしていたが、声を荒げるようなことはしなかった。さすがに凛子の前で感情を露わにすることは出来ないからだ。
美姫は冷静に話し合いが出来、ホッと胸を撫で下ろした。
この依頼を受け入れることで『KURUSU』にとって大きなビジネスチャンスとなり、これから控えているソウル支店オープンやローティーンファッション展開にも弾みをつけることが出来ると凛子は分析した。
その上で、美姫に確認した。
「この仕事を引き受けるつもりなら、私情は一切挟まないこと。
分かっていますね?」
「はい、分かっています」
まるで美姫の気持ちを読んでいるかのような凛子の発言に、ドキッとした。そして、凛子にも大和にも嘘をついていることに背徳感がのし上がってくる。
私情を一切挟まないなんて、無理だ。
秀一の存在自体が麻薬なのだ。
一度覚えてしまったら、それを忘れることなど出来ない。
近くにいれば、手を伸ばしてしまいたい衝動に駆られる。
渇望する。
けれど、そんな正直な気持ちを吐露するわけにはいかなかった。
母娘のやりとりを聞いていた大和が、口を開いた。
「明日の記者会見、俺も出るよ」
「え、大和も!?」
美姫は、嫌な予感しかしなかった。また、創立記念パーティーのような綱渡りのやり取りが目の前で行われるのかと思うと、生きている心地がしなかった。
美姫は助けを求めるように凛子を見つめた。だが、凛子は大和の意見に反対しなかった。
「そうね、ここでスキャンダル疑惑が再燃するわけにはいきませんから、大和くんも一緒に記者会見に同席してもらいましょう。
......分かりました。今回の来栖秀一の来日ツアーの後援企業として、来栖財閥がつくことにしましょう。それならマスコミから怪しまれることもなく、私たちの関係が良好であるアピールにもなりますから。
私から、秀一さんにその話をつけておきます」
どうやって......と思ったが、凛子は秀一の連絡先を抑えていた。秀一も上手だが、凛子もまた上手だと美姫は感じた。
「美姫......お前、来栖秀一に直接会ったのか」
凛子が電話している間に大和に小声で尋ねられ、美姫の心臓が跳ねた。
「うん......店に来て、そこで仕事の依頼をされたの......」
「そっか」
嘘は、ついていない。だが、誰もいない店内で二人きりで会っていたという事実を隠そうとしていることに美姫は罪悪感を覚え、大和の顔を見られずにいた。
凛子が秀一との電話でのやり取りを終え、戻ってきた。
「話をつけました。
来栖財閥は、来栖秀一来日ツアーの協賛企業になることに決定しました」
「先ほどは後援って言ってましたが、協賛になるとどう変わるんですか」
美姫が凛子に尋ねた。
「後援はイベントに箔を付けたり、社会的信用を得るための単なる名義貸しであることが多いです。協賛は催し物の趣旨に賛同し、協力することで、いわゆるスポンサーのことを指します。名義貸しである後援とは違い、金銭的援助を中心に、人的・物的・サービス等の提供も行います。
今回、来栖財閥は特別協賛企業として『来栖財閥プレゼンツ 来栖秀一来日ツアー』と銘打ってツアーを立ち上げることになりました」
来栖財閥プレゼンツ......
いきなり大規模になった財閥の関わりに、美姫だけでなく、大和も驚きを隠せなかった。
「これはお互いにとって、ウィンウィンの契約です。秀一さんは、来栖財閥という大企業のスポンサーを得て金銭的にも援助してもらえる。来栖財閥にとっても、『来栖秀一』の名を借りて企業の大きな宣伝効果を得ることが出来ます。美姫がデザインした『KURUSU』ブランドの秀一さんが着る服も大きな話題を呼ぶでしょうし、売れるでしょう。
このチャンスを生かさない手はありません」
凛子は母としての顔ではなく、ビジネスウーマンの顔として語った。
やっぱりお母様は凄い......
私もこんな風に考えられたら、どんなにいいだろう。
母を尊敬しつつも、複雑な心情に駆られた。
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