<完結>【R18】愛するがゆえの罪 10 ー幸福の基準ー

奏音 美都

文字の大きさ
上 下
16 / 124
不意打ち

しおりを挟む
 ホテルに戻っての打ち合わせが終わったのは、午後7時だった。

「みきさぁん、ごはんたべにいきましょー!」

 ソユンが食事に誘ってくれたが、美姫は眉を下げた。

「せっかくだけど、ごめんね。友達と会う約束してるから」

 ソユンは内田と一緒にご飯に出かけることになり、美姫とは別のタクシーに乗り込んだ。

「じゃ、また明日ね」
「はぁい!」
「来栖チーフ、お気をつけて」

 美姫は日本で約束した通り、今夜小百合と会うことになっていた。タクシーの運転手は日本語も英語も通じなかったが、お店の名前と地図を見せると分かってくれたようだった。

 小百合から指定されたのは、学生街である新村(シンチョン)にある焼肉屋だった。黄色の看板にコミカルな豚が親指を立てている絵が描かれており、庶民的な店だった。

 中に入ると狭い店内にはテーブルが8つしかなく、満席で賑わっていた。待っている客もいる。 

 きょろきょろする美姫を見つけた小百合が大きく手を振る。

「オルチャーム!」

 周りにいた客たちが一斉に美姫を振り返り、恥ずかしさで顔を赤らめつつ、小さく手を挙げた。

 各鉄板の中央には煙を吸い取るための換気扇が天井からぶら下がっているので煙は抑えられているものの、匂いはかなり服に染み込みそうだった。客層は学生街らしく若い男女で溢れており、中には日本からの留学生もいるらしく、日本語が聞こえてきた。

 小百合の座っているテーブルにつくと、彼女の隣にはスマホで見せてもらったのとは違う男性が座っている。

「チョウム ペッケッスムニダ?(はじめまして)」

 慣れない韓国語で挨拶すると、男性は少し困惑した表情を浮かべながら笑みを見せた。

「あ、俺日本人っす」

 小百合が嬉しそうに紹介する。

「日本から韓国に留学で来てる、ヨシくんです。私たち、1週間前から付き合い始めたの。
 やっぱり日本人同士の方が習慣とか文化とか同じだし、親のこととか考えるといいかなぁって思って」
「そ、そっか......」

 塩顔男子くんのこと、夢中になってるみたいだったのに。
 すごいな、小百合さん......恋愛体質って、こういう人のことを言うんだろうな。

「さっ、焼肉食べよー! 日本では牛肉が人気だけど、韓国なら絶対豚肉だよ!
 とりあえず、さっき適当にオーダーしといたから、オルチャムもどんどん食べて!! ここのサムギョプサル(三枚肉)は肉が分厚くて柔らかいのー!! さぁ、いっぱい食べるぞぉっ!!」

 小百合はヨシくんと紹介した彼氏に腕を絡ませ、頬を緩ませた。

 炭火で焼いた分厚い肉を、コチュジャンで味付けされたネギと焼いたニンニクと一緒にサンチュ(チシャ菜)に包む。タレは韓薬や果物等を溶かし込んだ秘伝の醤油タレときな粉、焼き塩、ごま油の4種類がある。

 ジューシーな肉汁が口の中に広がり、それが甘辛のタレと上手く絡み合う。しつこく感じないのは一緒に巻かれたサンチュの程よい苦味とネギの辛みのお陰だ。にんにくを丸ごと食べることに抵抗があったが、焼いたにんにくはじゃがいものようにほくほくして柔らかく、肉の美味しさをより引き出していて、癖になりそうな美味しさだった。

「んんぅ、おいしぃっっ!!」

 感激のあまり、思わず歓声を上げた。

「でしょー? ほら、まだお肉追加するから、どんどん食べて!!
 オルチャム痩せすぎだから、もっと食べないと!!」

 小百合は自身も食べながら肉をどんどん焼き、彼氏の世話も焼いた。
 
 久々に美姫の食欲が刺激され、次々に手が伸びる。食事と一緒にマッコリを勧められ、いつの間にか飲むピッチも上がっていった。

 マッコリは、米を主原料とする韓国伝統のにごり酒だ。アルコール度数はビールと変わらないほど低めだが、繊維質が豊富でビタミンやミネラル、乳酸菌、タンパク質が他の酒よりも豊富。低カロリーで美容や便秘効果もあることから、若い女性にも人気がある。

 小百合との会話は楽しかった。学生らしく奔放なさゆりの発言に戸惑いながらも、そんな彼女を羨ましく眩しくも感じる。美姫は久々に心から楽しむことが出来た。

 1週間前に付き合い始めたというヨシは日本の大学からの短期留学生で、8月末には日本に戻るという。

 ヨシの地元も小百合と同じ東京なので遠距離にならなくていいと安心していたが、彼女の父である長谷川が本社に戻るのは来年4月だから、日本に戻るのは3月になる。それを思うと、9月から7ヶ月間遠距離になる間にふたりが別れてしまうのではないかと美姫は密かに心配になった。

 もっとも、小百合の恋愛観はあっけらかんとしていそうなので、心配することはないのかもしれないが。

「もっとゆっくり会いたかったんだけど、どうしても今夜しか調整がつかなくてごめんね。
 でも、会えてよかった」
「私も! 今度は東京で会おうよ!」

 小百合にバーに誘われたが、美姫はこれ以上お酒を飲む気にはなれず遠慮することにした。焼肉を食べながら飲んだマッコリが、結構きいたようだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

雪井しい
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。 【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】 ☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆ ※ベリーズカフェでも掲載中 ※推敲、校正前のものです。ご注意下さい

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

処理中です...