<完結>【R18】愛するがゆえの罪 10 ー幸福の基準ー

奏音 美都

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不意打ち

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 美姫は秘書の内田と共に『KURUSU』海外2号店視察のため、ソウルを訪れていた。場所は、東大門市場(トンデムンシジャン)に去年できたショッピングモール内だ。

 従来のファッションビルに入ったごちゃごちゃした店舗と違い、北米型のスタイルを取っており、ひとつひとつの店舗スペースが広い。ここの1階から3階を店舗として構えるのだが、既に入っている店舗の後を引き継ぐ形になるので、新たに店を立ち上げるよりもオープンにそれほど時間がかからないのが利点だ。

 ソウルのショッピング天国である東大門市場には様々なファッションビルが立ち並び、若者たちの流行発信地でもある。眠らない街として24時間営業の店も数多くあり、深夜まで賑わっている。『KURUSU』の店舗が入る予定のショッピングモールは、そんな東大門市場のほぼ中心にある。

 去年オープンしたばかりの北米型のショッピングモールであることと、今まで韓国になかったブランド店が幾つか入っていることから、注目度はかなり高い。そういった他の店目当ての者たちからの集客も狙えることが、大きな魅力でもある。

 支店長は日本人ではなく、現地採用した韓国人だ。ソウル在住の人気モデルであり、ソウル大学にて英語でMBA(経営学修士)を取得した才女でもあるチャン ソユンは、『KURUSU』の熱烈な愛好者であり、たびたび日本にも訪れていた。その際にソウル支店をオープンすることをオフレコで知り、支店長として採用して欲しいと募集をかける前に自ら志願してきたのだった。

 若者からは「オルチャム」として絶大な支持を集めており、彼女のフォロワーは韓国だけでなく世界中にいる。そんな彼女がソウル支店長となれば、『KURUSU』の知名度と人気はますます上がることだろう。

 ソユンとはモール内で待ち合わせていた。彼女の周りには人だかりができており、どこにいるのか一目瞭然だった。

 ソユンは、美姫を見つけると嬉しそうに手を振った。その仕草に、皆は彼女の視線の先を追う。

 美姫は周囲の視線を一身に受け、たじろぎそうになるのを抑え、にこやかに笑みを浮かべた。ソユンほどではないが、美姫はファッションに関心のある韓国の若者たちの間でも有名だ。美姫を知る人々の中から騒めきが起こった。

 ソユンは『KURUSU』のアシンメトリーの薄いニットに花柄のテニススカートを合わせて着ていた。細くて真っ直ぐな白い脚が短いテニススカートから伸び、脚の美しさが際立っていた。韓国には脚の綺麗な女性が多いというのが、美姫の印象だった。

「みきさぁん! おひさしぶりです」

 独学で勉強したと思えないほど、日本語が堪能だ。

『KURUSU』が入る予定の店舗を見て回る。既存の店では閉店に向け、セールを行っていた。東京の本店と比べれば狭いが、それでもかなりの広さはある。

『KURUSU』はオープン当初は若い女性向けのみだったが、現在はメンズも展開している。今は、新たにローティーンラインの準備を進めているところだ。中高生だけでなく、おしゃれを意識する小学生も増え、そんな彼女たちからローティーン(10歳から14歳ぐらい)向けの洋服を販売して欲しい、と要望されたのがきっかけだった。
 ソウル支店オープンまでに間に合わせ、海外2号店とローティーンラインの発表を同時にするのが目標だった。

 その後、ソウルで人気のファッションブランド店をソユンに案内してもらう。

「さいきん、たくさんすてきなおみせ、オープンしたんですよ」

 人気モデルであり、ファッションリーダーでもあるソユンは韓国の流行事情に詳しく、これからのソウル支店進出に向けて役立ちそうなことをたくさん収集することが出来た。また、ファッション業界に知り合いが多くいるので、ソウル支店のオープン記念パーティーでは業界の人間に声を掛けてくれると約束してくれた。

 ソユンは来月から東京の本店で3ヶ月、研修を受けることになっている。いち早くソユンがソウル支店長となることを聞きつけたTV業界のプロデューサーからは、彼女の密着リポートをさせて欲しいと依頼が来ていた。それもまた、大きな話題作りとなるだろう。
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