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懇願
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パーティーが終わって家に帰るとぐったりしていた。秀一が姿を見せ、美姫とダンスをして瞬く間に帰ってしまった事件は招待客たちに大きな衝撃を与え、暫くの間どよめきが収まらなかった。
大和と美姫はそんな中なんとかその場を乗り切り、無事パーティーを終えたのだった。誠一郎と凛子は秀一のことには何も触れないまま、別れた。
自宅の扉を開け、靴を脱いで上がると、大和に後ろからガバッと抱き締められた。美姫の躰が大きくビクン、と震える。
以前のような嫌悪感はないものの、美姫はそれを受け入れることも出来ずにいた。大和からは、お酒の香りがしていた。
「明日も早いから、もう寝ないと......」
優しく宥めるように言い聞かせようとしたが、大和は更に美姫をきつく抱き締めた。
「美姫、好きだ......」
大和の言葉に、胸を針で刺されたような痛みが走る。
「大和......」
「分かってる。お前がもう、そんな気持ちになれねぇってことは。
けど、傍にいて欲しいんだ。俺の隣にただいてくれるだけでいいんだ。
お前が、必要なんだ......」
美姫は、大地の1周忌法要の時に大和を夫として愛せなくても、家族として愛することはできると思った。家族として彼を愛し、支えていこうとも。
けれど今日の大和の言動は、そんな美姫の思いを脅かした。
大和の腕から逃れて正面を向き、大和を見上げながら瞳を潤ませ、躰を震わせた。
「大和は......本当に、ただ私が側にいるだけでいいと思ってるの?
だったらどうして、私の気持ちを知りながらお父様やお母様、みんなの前で子供が欲しいだなんて言ったの? そんなこと公然と言われたら、否定なんて出来るはずない。そうしたら、お父様とお母様は孫の誕生を期待してしまう。心待ちにしてしまう。
ック......だって、お父様の夢は早くに引退し、孫の面倒をみることなんだよ?」
「んなこと、俺だって知ってるよ!!」
大和が声を荒げた。
「俺は、お父さんが退院してから財閥の仕事を引き継ぐまでの二年半、毎日ずっと一緒にいたんだぞ。
お父さんと酒を酌み交わしながら、聞かされるんだ。
『早く社長職を大和くんに引き継いで、孫の世話をしながらのんびり過ごすのが夢なんだ』って。嬉しそうに目を細めて言うんだ。『本当に、娘と一緒になってくれてありがとう、ありがとう』って。
そう聞かされた時の俺の気持ちが分かるか!? 俺たちの夫婦関係が悪化していく中、俺は必死にそれをお父さんやお母さんに知られないようにしてたんだ。お前との関係を取り戻そうと足掻いてたんだ。
必死に、『来栖家』を守ろうとしてたんだ。
お前だけがお父さんやお母さんのことを考えてるって思ってんのか? 俺、だって......お父さんの夢を叶えたいって思ってんだ!」
美姫は溢れ出る涙を止めることが出来なかった。
今まで、大和が両親の元で働けることを羨ましいと思っていた。今の仕事に充実感を感じながらも、一方で疎外感も感じていた。
大和は、私の盾になってくれていたんだ......だから、私は今まで両親に子供のことを聞かれることはなかった。
大和はお父様とお母様のことを私と同じように気に掛け、心を配ってくれていたんだ。
この二年半、どれだけ大和が父の側にいて辛い気持ちを味わってきたのかと思うと、美姫は心苦しくなった。大和は一度もそれを、美姫に愚痴を零すことはなかった。改めて、どれだけ自分が大和に想われていたのかを感じた。
大和は、美姫の肩に顔を埋めた。
「ッハァ......ごめん。つい、感情的になっちまった。
辛い。辛いんだ......
俺が悪いってのは十分分かってんだ。あんな酷いことして、美姫を傷つけちまったってことも。
ごめ......ごめん。
なぁ......お前は、いつになったら許してくれる?
どれだけ謝れば、どれだけ誠意を見せれば許してくれる?
俺は、どうすればいい?
ッグ美姫......お前を裏切ったこと、本当に後悔、してんだ......
教えてくれよ。どうしたら、また俺を好きになってくれるのか......」
「ック......」
これ以上ないぐらいに美姫の胸が絞られて、痛みでキリキリした。
違う。違うんだよ、大和。
悪いのは、全部私なの......
許しを請うのは、私の方。
どれだけ謝ったって許されない。
ごめんね。
ごめんね......
あなたの人生を、奪ってしまってごめんなさい......
大和と美姫はそんな中なんとかその場を乗り切り、無事パーティーを終えたのだった。誠一郎と凛子は秀一のことには何も触れないまま、別れた。
自宅の扉を開け、靴を脱いで上がると、大和に後ろからガバッと抱き締められた。美姫の躰が大きくビクン、と震える。
以前のような嫌悪感はないものの、美姫はそれを受け入れることも出来ずにいた。大和からは、お酒の香りがしていた。
「明日も早いから、もう寝ないと......」
優しく宥めるように言い聞かせようとしたが、大和は更に美姫をきつく抱き締めた。
「美姫、好きだ......」
大和の言葉に、胸を針で刺されたような痛みが走る。
「大和......」
「分かってる。お前がもう、そんな気持ちになれねぇってことは。
けど、傍にいて欲しいんだ。俺の隣にただいてくれるだけでいいんだ。
お前が、必要なんだ......」
美姫は、大地の1周忌法要の時に大和を夫として愛せなくても、家族として愛することはできると思った。家族として彼を愛し、支えていこうとも。
けれど今日の大和の言動は、そんな美姫の思いを脅かした。
大和の腕から逃れて正面を向き、大和を見上げながら瞳を潤ませ、躰を震わせた。
「大和は......本当に、ただ私が側にいるだけでいいと思ってるの?
だったらどうして、私の気持ちを知りながらお父様やお母様、みんなの前で子供が欲しいだなんて言ったの? そんなこと公然と言われたら、否定なんて出来るはずない。そうしたら、お父様とお母様は孫の誕生を期待してしまう。心待ちにしてしまう。
ック......だって、お父様の夢は早くに引退し、孫の面倒をみることなんだよ?」
「んなこと、俺だって知ってるよ!!」
大和が声を荒げた。
「俺は、お父さんが退院してから財閥の仕事を引き継ぐまでの二年半、毎日ずっと一緒にいたんだぞ。
お父さんと酒を酌み交わしながら、聞かされるんだ。
『早く社長職を大和くんに引き継いで、孫の世話をしながらのんびり過ごすのが夢なんだ』って。嬉しそうに目を細めて言うんだ。『本当に、娘と一緒になってくれてありがとう、ありがとう』って。
そう聞かされた時の俺の気持ちが分かるか!? 俺たちの夫婦関係が悪化していく中、俺は必死にそれをお父さんやお母さんに知られないようにしてたんだ。お前との関係を取り戻そうと足掻いてたんだ。
必死に、『来栖家』を守ろうとしてたんだ。
お前だけがお父さんやお母さんのことを考えてるって思ってんのか? 俺、だって......お父さんの夢を叶えたいって思ってんだ!」
美姫は溢れ出る涙を止めることが出来なかった。
今まで、大和が両親の元で働けることを羨ましいと思っていた。今の仕事に充実感を感じながらも、一方で疎外感も感じていた。
大和は、私の盾になってくれていたんだ......だから、私は今まで両親に子供のことを聞かれることはなかった。
大和はお父様とお母様のことを私と同じように気に掛け、心を配ってくれていたんだ。
この二年半、どれだけ大和が父の側にいて辛い気持ちを味わってきたのかと思うと、美姫は心苦しくなった。大和は一度もそれを、美姫に愚痴を零すことはなかった。改めて、どれだけ自分が大和に想われていたのかを感じた。
大和は、美姫の肩に顔を埋めた。
「ッハァ......ごめん。つい、感情的になっちまった。
辛い。辛いんだ......
俺が悪いってのは十分分かってんだ。あんな酷いことして、美姫を傷つけちまったってことも。
ごめ......ごめん。
なぁ......お前は、いつになったら許してくれる?
どれだけ謝れば、どれだけ誠意を見せれば許してくれる?
俺は、どうすればいい?
ッグ美姫......お前を裏切ったこと、本当に後悔、してんだ......
教えてくれよ。どうしたら、また俺を好きになってくれるのか......」
「ック......」
これ以上ないぐらいに美姫の胸が絞られて、痛みでキリキリした。
違う。違うんだよ、大和。
悪いのは、全部私なの......
許しを請うのは、私の方。
どれだけ謝ったって許されない。
ごめんね。
ごめんね......
あなたの人生を、奪ってしまってごめんなさい......
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