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第一章 世界は明日、終わりを告げる

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 1つの扉の閂が外され、体育教師の中西先生がリストを手にその前に立ち塞がる。

 マイクを通して迎えが来た生徒の名前が呼ばれ、一人、また一人と講堂から生徒がいなくなっていく。

「2年1組、鈴森章吾、秋中穂花。保護者の方が迎えにみえていますので、出口に来て下さい」

 章吾とほのちゃんの名前が呼ばれ、ほのちゃんの手を握って座っていた章吾が立ち上がり、ほのちゃんは引っ張られるように体をゆっくり起こした。

「京ちゃん、くまっち、ミッキー。
 ねぇ、また会えるよね? これが最後じゃないよね?」

 まだ、ここにいる誰もが、この状況を受け止めきれていない。まるで白昼夢の中にみんなで呑み込まれてしまったかのようだった。

 だって、明日には地球が滅びるなんて。全てがブラックホールに呑み込まれてなくなってしまうなんて、誰が想像出来る?

 それでも、さっき見た映像が固まった血の塊のように瞼の裏にこびり付いていた。私たちもあんな風に、あっけなく終わりを迎える。そしてそれは、どんどん迫ってきてるんだ。

「会える。会えるよ、きっと」

 ほのちゃんをギュッと抱き締める。確証なんてなくても、そう言うしかない。祈りを込めて、力となるように、真実となるように。

 くまっちが外から私たちを抱き締め、京ちゃんもそれに続く。伝わって来るみんなの熱が、息が、生きているのだと感じさせてくれる。

 死にたくない。死にたくなんて、ないよ。

 ほのちゃんと章吾を出口まで見送る。翔は私たちから離れたところにいたけど、親友の章吾にさよならを言うために戻ってきて、私とは離れたところで立っていた。

「あれっ、健一は?」

 くまっちの言葉に、みんなが健一を探してキョロキョロと見回す。

「ぁ、いた! ほら、あそこ」

 京ちゃんが、指をさす。健一は、講堂の隅に置かれているマットに体育座りで膝を抱えて俯いていた。翔が駆けて行き、私たちもそれに続く。

 翔は笑顔で健一の頭を軽くはたき、腕を掴んで引き上げようとした。

「おら、何やってんだ。章吾と穂花、見送りに行くぞ」

 けれど、健一は大きな身体を小さく丸めたまま、立ち上がろうとしない。

「……く、ねぇ」
「え!? 何て言ったんだ?」

 翔同様、みんな健一が何を言ったのか聞き取れずに耳を澄ますと、健一のボソボソとした弱々しい声が聞こえてきた。

「死にたくねぇ。死にたく、ねぇよ。俺ら、まだ16だぞ。なんで、なんでだよ……どうして俺たちが明日死ななくちゃいけねぇんだよ……ウッ、ウッ、ウグッ……」

 健一はますます身体を縮ませ、背中を震わせた。

 皆、何も言えず黙りこくっていた。誰も、健一を励ます言葉など持っていなかった。翔がゆっくりと健一の腕を離し、背中をポンと撫で、立ち去っていった。章吾も、ほのちゃんも、くまっちも、京ちゃんも同じように背中を撫でる。

 最後に私も、健一の背中を撫でた。



 同じ、だよ。
 みんな、同じ気持ちでいるよ。


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