世界が終わる前に、もう一度お別れのキスを

奏音 美都

文字の大きさ
9 / 25
第一章 世界は明日、終わりを告げる

しおりを挟む
 校長先生が再びマイクを手に取る。

「これから皆さんは保護者の方に連絡をし、学校まで迎えに来てもらって下さい。迎えが来た生徒から保護者と一緒に下校します。連絡手段を持っていない生徒は、代わりに教師が保護者に連絡しますので舞台袖に集まって下さい。

 連絡が取れた生徒は速やかに担任教師に報告するように。保護者の方がすぐに迎えに来られない生徒は、ここで待機して下さい。決して一人では帰らないで下さい」

 高校生にもなって親に迎えに来てもらうとかありえない。普通ならそんな反感が出てもおかしくないけど、校長先生の固い声と厳格な雰囲気がそれを押さえ付けた。

 殆どの生徒はスマホやガラケーを手にしていて、舞台袖へと移動したのは僅か数人の生徒だけだった。

「お母さん、迎えに来てくれるって。まさっちは、大学から来てくれるって言ってた。大学でも凄い騒ぎになってるって」

 通話を終えたくまっちが顔を上げる。雅っち先輩は私たちが1年の時に3年だった先輩で、卒業式にくまっちから告白して付き合い始めた。

 大学でも、と聞いて、やっぱりこれは本当に現実に起こったことで、もう世界中に知れ渡ってるんだと思った。現実だと分かっているのに、これからも私はこうやって何度もその事実を突き付けられる度に『やっぱり本当なんだ』と思ってしまうのだろう。

「そっか。雅っち先輩、家に来てくれるんだ。良かったね」

 心の暗雲を押し払い、笑顔でそう答えた私を、くまっちが心配そうに見つめた。

「ミッキーは、電話しないの?」
「うん。私は大丈夫」

 張り付いた笑顔を浮かべ、頷いた。

 電話なんてしなくても、お母さんが迎えに来られないのは分かってる。それは、私に愛情がないからだとか、そういう問題ではないことも。

 報道番組のディレクターを務めているお母さんには、私を迎えに来る余裕なんて、一瞬たりともない。お母さんは私よりももっと過酷な24時間を過ごすことになるだろうから。娘か仕事かの選択を迫ることなんて、私には出来ない。

 くまっちが電話してる時に、お母さんにはLINEで『安全の為、学校でみんなで待機することになった』って入れておいた。そっとスマホを起動してLINEを確認すると、やっぱり未読のままだった。

 ほのちゃんは章吾と交互にスマホを渡しながら親に連絡した後、小さく息を吐いた。

「章くんのママが、章くんと私を迎えに来てくれるって」
「わっ、さっすが両親公認!!」

 自分だって彼氏が家に来るのに、くまっちが大げさに声を上げた。

「そんなんじゃなくて。うち、二人とも共働きで会社も遠いし、すぐには迎えに来られないだろうからって言ってくれたの」

 ほのちゃんは、僅かに震えていた。

「私たち、これからどうなっちゃうんだろう。ブラックホールだなんて、そんなこと、ほんとにあるのかな、信じられない」

 皆がシンとする。信じられない、信じたくないという思いから口に出せなかった言葉をほのちゃんが口にしてしまったことで、恐ろしい現実に足首を掴まれ、底なし沼に引き摺られていく。

 返事が出来ずに唇を震わせる私とくまっちに、ほのちゃんがシマッタというように俯いた。

「ご、め」
穂花ほのか、心配すんな。俺がずっといてやるから」

 普段自分から滅多にほのちゃんに話しかけることのない章吾が眉に力を入れ、彼女の手を強く握り締めた。章吾の強い思いに応えるように、ほのちゃんがコクリと小さく頷く。そこには、目に見えないけれど確かな信頼と安心があった。

 いつも穏やかでのんびりしてて、みんなの癒し的な存在のほのちゃんと、無口でぶっきらぼうな章吾。ほのちゃんから章吾と付き合ってるって聞いたときは意外な気がしてたけど、今はこの2人が凄くお似合いのカップルだって感じてる。言葉を交わさずとも、2人の間にはいつも特別な空気が流れていた。

 そんな2人を見つめているところに、翔が突然私の両肩を掴み、顔を寄せた。



「美輝!! 俺ん家に来い!!」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

処理中です...