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潜入

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 なるべく顔を見られないように顔を俯かせていると、水分の無い、カサカサしたゴツい指がジュリアンの顎にかかり、上向かせる。

 ヒューッと口笛が響いた。

「これはこれは、綺麗な顔の坊ちゃんだな。女でもここまでの極上は、めったにお目にかかれねぇ」

 ヘヘヘヘ……という厭らしい笑い声とともに溢される。

 図体の大きい男の周りにいた男達も、後ろから覗き込むようにしてジュリアンの顔を舐めるように見てきた。

「は、なして……」

 必死に抵抗しようとするものの弱々しい声しか出ず、その声さえ喧噪に掻き消されてしまう。

 図体の大きい男の左隣にいた背の低い猫背の年老いた男が、皺とシミだらけの骨と皮しかないような骨張った手でジュリアンのフード付きのマントを突然グイッと引っ張った。

「っ!!」

 バランスを崩して倒れそうになるのを、必死で堪える。ジュリアンのダブルの5つ金ボタンのついたフロックコートが露わになる。

「かしら、この外套、上質なビロードだ。相当高くつきそうですぜっ!」

 それを聞いて、『かしら』と呼ばれた図体の大きい男は満足そうに頷いた。

「その下も調べておけ」
「い、やだっ!」

 抵抗してその手をよけようとすると、

「おっと、抵抗するなよ」

 ニヤニヤと笑いながら、かしらの後ろに控えていた2人の男にそれぞれの手を拘束された。腰に差していた剣は、あっさり奪われてしまった。

 老いた男はジュリアンの着ていたフロックコートを脱がせると、その下に着ていた大きなリボンのブラウスとフロックコートと同色のベストに皺くちゃの顔を寄せる。ポケットから老眼鏡を出し、フムフム……と、値踏みした。

「上質のシルクを使っているな。これも相当の高値で売れそうだ。
 どうやら、かなり身分が高いらしいな」

 その言葉に、ジュリアンの額から冷たい汗が流れる。

「くくっ……なんでこんなとこにいたのかは知らねーが、これはいい拾いもんだな」

 図体の大きい男がニヤニヤと気色の悪い笑みを浮かべながら、捩じれ曲がった鼻をジュリアンに寄せる。

 や、だ……


「売春宿にでも売り込んでマージンをもらうつもりだったが、やめだ。闇市で売り飛ばした方が、金になりそうだな」

 売り、飛ばす!?

 情報屋であるリアムがエレンザードには裏社会があると以前に話したことはあったが、どこか遠い国の世界のように聞いていた。エレンザードで売春宿や人身売買の話を聞くこと自体信じられなかったし、ましてやそれがまさに今、こうして自分の身に降り掛かっていることが信じられなかった。

 もし城に戻ることが出来たら、絶対に騎士団にこのことを報告して、一網打尽にしてやる……

 そう考えるものの、今のジュリアンには何の手立てもなかった。

「とりあえず、アジトに連れて行け。そこから闇市のルートを探る」

 かしらの声を合図に、ジュリアンの手を拘束してた男達が腕を掴んで強引に歩かせようとする。

「大事な商品だ。傷つけるなよ」

 かしらの声が響く。

 こんなところで、捕まるわけにはいかない……

 胸元の内ポケットに隠した護身用の短剣を取り出そうとしたその時、図体の大きい男の後ろから、低い声が重く響いた。

「おい、厄介事なら他でやってくれ」
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