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潜入
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と、にかく……落ち着かなくちゃ……
鼓動が、呼吸が乱れる。
ドンッ!!!
突然、後ろから突き飛ばされて、ジュリアンの躰が大きくよろめいた。
「っ!」
「なにこんなとこでボサッと突っ立てんだ! 危ねーだろがっ!!」
ぶつかってきたのは向こうなのに……
そう思いつつも、こんなに大勢の人々で犇めく中、いつまでも立ち尽くしているわけにいかない。
どこか、座れる場所は……
キョロキョロと見回すと薄暗い酒場でもより暗い、奥のテーブルに空いている椅子を見つける。
なんとか人混みを掻き分けるように進み、その椅子へ腰を下ろす。
僕、何やってるんだろう……リアムはすぐそこにいるというのに。
ジュリアンは頬杖をつき、テーブルに肘をついた。
すると、すぐ近くに黒い大きな影と気配を感じ、嫌な予感を感じながらその影の主を見上げた。
そこには、ニヤニヤと薄笑いを浮かべながらジュリアンを見つめる、騎士団の中にもこれ程の者はいないぐらいの図体の大きい男を中心に、いかにも荒くれ者といった男達がジュリアンを囲むように立っていた。
図体の大きい男の右隣にいた背の高いひょろっとした顔色の悪い、目をギョロギョロとギラつかせた男がジュリアンに近寄る。
「おいっ! こんなところに女が一人でいるぜぇ!」
「ぼ、僕は男だ!」
ここから、早く逃げ出さないと……
頭ではそう思うのに、躰が硬直して指先一本動かすことができない。全身の血液が流れることをやめてしまったかのように、足先から冷えていくのを感じた。
「嘘だろ。こんな華奢な体つきしてるくせに。フードで顔が見えねぇな」
そう言って、男が外套のフードに手を掛けようとする。
あっ!
「やめろっ!!」
顔を見られてエレンザードの王子だということが知られたら大変なことになるという危機感がジュリアンの躰を突き動かし、手を払いのける。剣を抜こうかと思ったが、こんなところで騒ぎでも起こせば、それこそ一大事になる。
ギョロ目の男が更に大きい目を飛び出しそうなくらいの勢いでこちらを向いて剥き出し、ボロボロで黄色くなった歯を見せながら罵声を上げる。
「っんだ、このアマ! 殺されてぇーのか!!」
すると、真ん中にいた図体の男が、ユラリ、ユラリと歩きながらこちらに来る。そのとてつもなく大きい影に呑み込まれ、まるで捕らえられたかのように手がピタッと止まる。
男の傷だらけの骨張った大きい手が、ジュリアンの頭に触れる。
ま、ずい……
バサッ
フードが外され、頭を覆っていた温かい熱が逃げていくと同時に、冷たい風が吹き込む。ジュリアンの顔は、薄暗い店内で男達の前に晒されてしまった。
王子だと知られたら、どうなってしまうのだろう……
警告を知らせるように、ジュリアンの心臓が早鐘を打つ。
鼓動が、呼吸が乱れる。
ドンッ!!!
突然、後ろから突き飛ばされて、ジュリアンの躰が大きくよろめいた。
「っ!」
「なにこんなとこでボサッと突っ立てんだ! 危ねーだろがっ!!」
ぶつかってきたのは向こうなのに……
そう思いつつも、こんなに大勢の人々で犇めく中、いつまでも立ち尽くしているわけにいかない。
どこか、座れる場所は……
キョロキョロと見回すと薄暗い酒場でもより暗い、奥のテーブルに空いている椅子を見つける。
なんとか人混みを掻き分けるように進み、その椅子へ腰を下ろす。
僕、何やってるんだろう……リアムはすぐそこにいるというのに。
ジュリアンは頬杖をつき、テーブルに肘をついた。
すると、すぐ近くに黒い大きな影と気配を感じ、嫌な予感を感じながらその影の主を見上げた。
そこには、ニヤニヤと薄笑いを浮かべながらジュリアンを見つめる、騎士団の中にもこれ程の者はいないぐらいの図体の大きい男を中心に、いかにも荒くれ者といった男達がジュリアンを囲むように立っていた。
図体の大きい男の右隣にいた背の高いひょろっとした顔色の悪い、目をギョロギョロとギラつかせた男がジュリアンに近寄る。
「おいっ! こんなところに女が一人でいるぜぇ!」
「ぼ、僕は男だ!」
ここから、早く逃げ出さないと……
頭ではそう思うのに、躰が硬直して指先一本動かすことができない。全身の血液が流れることをやめてしまったかのように、足先から冷えていくのを感じた。
「嘘だろ。こんな華奢な体つきしてるくせに。フードで顔が見えねぇな」
そう言って、男が外套のフードに手を掛けようとする。
あっ!
「やめろっ!!」
顔を見られてエレンザードの王子だということが知られたら大変なことになるという危機感がジュリアンの躰を突き動かし、手を払いのける。剣を抜こうかと思ったが、こんなところで騒ぎでも起こせば、それこそ一大事になる。
ギョロ目の男が更に大きい目を飛び出しそうなくらいの勢いでこちらを向いて剥き出し、ボロボロで黄色くなった歯を見せながら罵声を上げる。
「っんだ、このアマ! 殺されてぇーのか!!」
すると、真ん中にいた図体の男が、ユラリ、ユラリと歩きながらこちらに来る。そのとてつもなく大きい影に呑み込まれ、まるで捕らえられたかのように手がピタッと止まる。
男の傷だらけの骨張った大きい手が、ジュリアンの頭に触れる。
ま、ずい……
バサッ
フードが外され、頭を覆っていた温かい熱が逃げていくと同時に、冷たい風が吹き込む。ジュリアンの顔は、薄暗い店内で男達の前に晒されてしまった。
王子だと知られたら、どうなってしまうのだろう……
警告を知らせるように、ジュリアンの心臓が早鐘を打つ。
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