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ストリートチルドレンだった俺が王太子殿下の命を狙ったら、護衛係として雇われることになりました

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「ック……しつこい奴らだ」

 ユリアーノは追ってから逃れ、荒い息を吐き出した。

 ユリアーノが幼かった頃、正義感が強かった父は、国王の独裁政治に反対する暴動に加わって命を落とした。母は亡くなった父の分も働こうと長年無理をしたつけがたまって病気になり、亡くなってしまった。

 孤児になったと知ると役人が来て子供たちを労働力として鉱山や工場などに連れて行き、タダ同然で重労働させられることをユリアーノは知っていた。だから、母が亡くなると家を捨て、ストリートチルドレンとして城下に住み着いた。

 だが、そこで待っていらのは平穏な暮らしとは程遠いものだった。

 ストリートチルドレンになると、大抵人買いに捕まって奴隷として売られるか、野党や密売者の一味となって自分の身の安全と食料を保証してもらうかになる。ユリアーノはそのどちらも選ばず、たった一人、窃盗を繰り返しながらその日、その日を生き延びていた。時には人買いに追われることもあったし、美しい容姿から強姦されかけたこともあった。常に危険と背中合わせの毎日だった。

 こんな暮らしを強いられるようになったのも、すべてあの悪名高い国王のせいだ……

 ユリアーノは父を失う原因となった国王を憎み、密かに復讐する機会が訪れるのを窺っていた。城下に住んでいたのは、そのためでもあった。

 
 そんなある日、ユリアーノが一台の荷車の前を通ろうとしている時に会話が耳に入ってきた。

「ソリティアーノ地方までわざわざ出向いて仕入れたワインを、国王様にこれから献上するんだ」
「あぁ、国王様は極上のワインしか召し上がらないからな」
「まったく、国民が水さえ手に入れるのも難しいってのに……」
「言うな。誰かに聞かれたら、生きていられないぞ」
「そ、そうだな」

 ユリアーノは荷台に目を向けた。ワイン樽が載っていると思われる荷台には布が被せられていた。

 これなら……うまくいけば、城内に忍び込めるかもしれない。

 ユリアーノは縛られた布の隙間を縫って入り、樽と樽の間に潜り込んだ。

 しばらくすると荷台が揺れ、荷車が動き始めた。時折布を捲って外を眺めると、城へと向かっているようだった。

 見つからなければ、いいけど。

 やがて荷車が止まった。

「ソリティアーノ地方のワインをお届けに伺いました」

 先ほどの男の声が聞こえてきた。

「検閲書を渡せ」

 門番と思われる男の声が聞こえ、足音が近づいていくる。

 縛られている紐が外され、布が捲られる。

 ……ヤバい、見つかる!!

「……行ってよし」

 樽の間に隠れていたユリアーノの姿は門番には見えなかったようだ。再び荷車が動き出した。

 だが、このまま荷車に乗っていたら、見つかってしまう。布を捲って外を伺い、誰もいない道に出たことを確認すると、そっと荷車から下りて茂みに隠れた。

 敷地には入れたが、まだ城の中には入れていない。城は厳重に守られているだろう。

 どうやったら、国王のところに辿り着けるんだ……

 そう考えていると、向こうからひとりの男が歩いてくるのが見えた。茂みから覗き込んだユリアーノは、彼の顔を見た途端、息が止まりそうになった。

「ッッ!!」

 あの、顔……国王にそっくりだ。でも、見た目が若いってことは……息子、か。
 俺が惨めな暮らしをしてる中、こいつは庶民の暮らしなど考えることなく、のうのうと贅沢な生活に溺れているに違いない……

 ギリッと歯を鳴らすと、ユリアーノは短剣を握った。

「死ねぇぇぇっっ!!」

 ユリアーノはいきなり飛び出すと、クロードに向かって剣を切りつけた。剣術はストリートで生きていくために独学で身につけたものだが、元々センスが良かったのか、今まで誰にも負けたことがなかったし、これで幾度も救われてきた。

「ッッ……」

 クロードはすぐに腰に差していた剣を抜くと、いとも簡単にユリアーノの剣を交わした。

 こいつ、できる……でも、お前を絶対に殺してやる!!

 ユリアーノは渾身の力を込めてクロードの喉を目掛けて短剣を向けた。

 ……だが、その前にクロードの剣がユリアーノの鼻先すれすれまで向けられていた。

 殺される……

 そう思ったユリアーノに掛けられたのは、思いがけない提案だった。

「面白い。お前、私の下で働かぬか」
「だ、誰が!! お前は国王の息子、俺の敵だ!
 お前の下につくぐらいなら、この場で殺された方がマシだ!!」

 威勢よく答えたユリアーノに、クロードが剣を下ろし、腰元へと戻した。

「この場でなくしてよいと思う命なら、私に委ねてみよ」
 
 拒絶したいと思うのに……できなかった。

 クロードのあまりのカリスマ的オーラに圧倒されたのだ。彼には、有無を言わさず人を惹きつける魅力があった。

 答えることも身動ぐこともできずにいるユリアーノに、クロードが顔を近づけ、耳元に唇を寄せた。

「国民を苦しめる国王は……私にとっても敵だ。
 信頼できる味方が必要なのだ」

 ユリアーノはビクッと肩を震わせた。

 国王が、敵って……本気、なのか?

 だとしたら、クロードは父である国王に対して反旗を翻そうとしていることになる。そんなことを、どこの馬の骨ともしれない、ストリートチルドレンであるユリアーノに告白するなんて、信じられなかった。

「俺が……もし、国王にバラしたらどうするんだ」
「国王を殺そうとしたお前が、そんなことなどしない」

 あぁ、そうだ……

 なにもかも、クロードに見透かされているような気持ちになった。

「お前、名はなんと申す?」
「ッッ……ユリアーノだ」
「お前はこれから私と行動を共にしろ。忠誠を誓えば、私はお前に誓おう。
 必ず国王を倒し、この独裁国家体制を崩すと」

 ユリアーノはクロードを見上げた。彼の美しく煌くライトグレーの瞳に、虚実など感じられなかった。胸が熱くなり、涙が瞳の奥から溢れ出そうになった。

「ち、誓います……」

 無意識に片膝をつき、クロードを見上げていた。

「私はクロードだ。
 この国の、新しき国王となる男だ。よろしくな」

 クロードが口角を上げた。ユリアーノの頬が上気する。

 あぁ……この人に、ついていこう。
 一生を、この人のために捧げよう……国王を倒し、クロード様が新国王となるために。
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