【R18】聖夜に舞い降りた天使

奏音 美都

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別れ

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 隣のベッドで寝ていたお婆さんが誰に話しかけるともなく、話し出す。

「アンジュが急にわけのわからないうわ言を言い出したかと思ったら、苦しみ出してねぇ……わたしゃ怖くなって急いでナースコール押したんだけども、長い時間誰も来てくれなくて……看護婦さんが来て、慌ててバルトさん呼びに行ったけんど、それからすぐに……」

 僕はふらふらとアンジュのベッドのすぐ傍に行き、彼女の手を握った。

 まだ、温かい……

 バルト医師が向かい側からアンジュの死亡確認を始め、酸素マスクを外した。先程まで苦しんでいたとは思えないほど、安らかな微笑みさえ浮かべていそうな、まだ頬に赤みのさしている彼女の顔を見つめる。

 バルト医師が呟く。

「敗血症を起こしてから1時間以内に適切な抗菌薬を投与できていれば、助かる確率はかなり高かったんだが……」

 まともな状態で聞いていたら……怒りがこみ上げ、バルト医師を殴りつけていたかもしれない。

 一体、誰のせいで敗血症を起こしてから治療までにこんなに時間がかかったんだ、と。

 だが僕は……ただ呆然とアンジュの美しい顔を眺めるだけだった。

 何も、考えられなかった……

 僕は感情が欠落している。

 バルト医師は次の患者を診る為、僕を目で気遣いながらも出て行った。看護師たちは素早くアンジュの身体中に張り巡らされた管を回収すると、ストレッチャーを持ってきて彼女ごと連れ去ってしまった。

 だが僕は、アンジュのいなくなったベッドから離れることができず……未だ、真っ白なシーツを見下ろしていた。

 ……どれぐらいたったのか、カチャッという遠慮がちな扉の音とともに年配の男女が入ってきた。ようやくその音に意識を取り戻した僕は、ゆっくりと立ち上がった。

 中年の女の人が僕の傍へ近づく。

「アンジュの叔母です。貴方がアンジュを見つけて病院へ運んでくれたって聞きました。ありがとう……
 バルト医師の話では、貴方はアンジュの友人、と…?」
「……えぇ」

 僕は曖昧に頷いた。

 彼女は僕の顔をじっと見つめ、しばらく沈黙した後……持っていた鞄から紙とペンを取り出した。ベッドの脇のサイドテーブルに筆を走らせて紙を4つに折ると、僕の手に握らせた。

「よかったら……来て下さい……」

 そして先に歩き出した男に続いて再び扉へと向かうと、一瞬だけ僕をチラリと見て扉を閉めた。

 ふたりの足音が遠ざかる……

 アンジュのいたベッドへと視線を移すと、サイドテーブルにアクアマリンのブレスレットが置かれていた。

 ブレスレットを手にすると、ようやく僕も扉へと向かった。
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