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恋の自覚
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アンジュは僕の心に揺さぶりをかける。
「分かったよ……」
僕は簡単に陥落した。
アンジュが携帯ラジオの電源をつけると、再びクリスマスキャロルが聞こえてきた。
「この部屋、少し寒いのね……」
アンジュが身を震わせる。
「ベッドに入って足を入れたらいいよ」
アンジュはその言葉に従い、ベッドに入って半身を起こすと毛布を掛けた。
「ルネは寒くないの?」
「僕は大丈夫だよ。もう慣れた」
本当は革靴で歩き回った足が未だに冷えていたけど、まさかアンジュと同じベッドに入るわけにもいかず、強がってみせた。
「嘘。本当は寒いくせに! ほら、ルネも入って!」
アンジュが僕が入れるように毛布を持ち上げて誘う。毛布の下からは彼女の白い肢体が艶かしくチラリと見えた。
いや、いくらなんでもそれは……
躊躇する僕に、アンジュが強い視線と共に再度促す。
「ほら。私もルネが入ってくれたほうがもっと温かいから」
なんで僕はアンジュの言葉に弱いんだろう……
結局僕は、アンジュの隣に座って毛布を分け合った。
なるべくアンジュに触れないように距離を離して毛布に潜り込んだけれど、彼女の体温が毛布を通して伝わってくるように感じた。
温かい……
「ねぇ、もっと近づかないと温まらないでしょ」
アンジュはベッドの隅に座る僕にそう言うと、すぐ隣に来い、と合図するように自分のすぐ横をポンポンッと叩いた。
「う、ん」
躊躇しながらも、アンジュは言い出したら引かなさそうだったので、素直にもぞもぞと移動し、彼女のすぐ隣に座る。途端に彼女のブロンドの髪から清潔で爽やかな香りが鼻を擽る。
「ねぇ、これ何の香り……」
言いかけた僕は、真っ赤になって途端に口を噤む。
何を言ってるんだ、僕は……
髪に手を当て、クシャクシャっとすると、アンジュが毛布を引き上げてふふっと微笑んだ。
「この毛布、ルネの匂いがする……」
「僕の、匂い?」
「うん。
すごく温かくて、居心地がよくて、優しい気持ちになれる匂い……」
そんなことを言われたのは初めてで、胸の奥が熱くなる。
アンジュが僕の頬を華奢な手で包み込む。外で彼女に触れた時よりは温かくなっているものの、まだ冷たくてひんやりする。
「本当に願いが叶うなんて夢みたい……」
「願い?」
じゃあ、あの時アンジュが掌を天に翳していたのは、願い事をしていたのか......
「うん……あの公園で、神様にお願いしてたの。
どうか私に『人を愛する』という感情を教えて下さいって……」
その言葉に心臓が飛び跳ねる。
「人を、愛する……」
『どうか私に『人を愛する』という感情を教えて下さい』ーーそう、願ったアンジュの思い。
彼女も、僕と同じタイプの人間なのだろうか。今まで、誰にも愛されず、愛することなく育ってきて……僕が愛という感情を知らなかったように、彼女もまたその感情を知らず、恋い焦がれていたのだろうか。
「そう……
そしたらね、ルネが迎えに来てくれたの……」
アンジュは天使のような柔らかな微笑みで僕を包み込んだ。
「でも……僕たち、さっき出会ったばかりだ」
昂る感情をアンジュに悟られないようにしながら僕は言った。
アンジュに強く惹かれる自分を感じながらも、それを認めるのが怖い自分もいる。まだ出会ったばかりの彼女に恋をするなんて、ありえないことだ。否定しなければ……そんなもう一人の臆病な自分が、歯止めをかける。
「ルネは、私のこと嫌い?」
「分かったよ……」
僕は簡単に陥落した。
アンジュが携帯ラジオの電源をつけると、再びクリスマスキャロルが聞こえてきた。
「この部屋、少し寒いのね……」
アンジュが身を震わせる。
「ベッドに入って足を入れたらいいよ」
アンジュはその言葉に従い、ベッドに入って半身を起こすと毛布を掛けた。
「ルネは寒くないの?」
「僕は大丈夫だよ。もう慣れた」
本当は革靴で歩き回った足が未だに冷えていたけど、まさかアンジュと同じベッドに入るわけにもいかず、強がってみせた。
「嘘。本当は寒いくせに! ほら、ルネも入って!」
アンジュが僕が入れるように毛布を持ち上げて誘う。毛布の下からは彼女の白い肢体が艶かしくチラリと見えた。
いや、いくらなんでもそれは……
躊躇する僕に、アンジュが強い視線と共に再度促す。
「ほら。私もルネが入ってくれたほうがもっと温かいから」
なんで僕はアンジュの言葉に弱いんだろう……
結局僕は、アンジュの隣に座って毛布を分け合った。
なるべくアンジュに触れないように距離を離して毛布に潜り込んだけれど、彼女の体温が毛布を通して伝わってくるように感じた。
温かい……
「ねぇ、もっと近づかないと温まらないでしょ」
アンジュはベッドの隅に座る僕にそう言うと、すぐ隣に来い、と合図するように自分のすぐ横をポンポンッと叩いた。
「う、ん」
躊躇しながらも、アンジュは言い出したら引かなさそうだったので、素直にもぞもぞと移動し、彼女のすぐ隣に座る。途端に彼女のブロンドの髪から清潔で爽やかな香りが鼻を擽る。
「ねぇ、これ何の香り……」
言いかけた僕は、真っ赤になって途端に口を噤む。
何を言ってるんだ、僕は……
髪に手を当て、クシャクシャっとすると、アンジュが毛布を引き上げてふふっと微笑んだ。
「この毛布、ルネの匂いがする……」
「僕の、匂い?」
「うん。
すごく温かくて、居心地がよくて、優しい気持ちになれる匂い……」
そんなことを言われたのは初めてで、胸の奥が熱くなる。
アンジュが僕の頬を華奢な手で包み込む。外で彼女に触れた時よりは温かくなっているものの、まだ冷たくてひんやりする。
「本当に願いが叶うなんて夢みたい……」
「願い?」
じゃあ、あの時アンジュが掌を天に翳していたのは、願い事をしていたのか......
「うん……あの公園で、神様にお願いしてたの。
どうか私に『人を愛する』という感情を教えて下さいって……」
その言葉に心臓が飛び跳ねる。
「人を、愛する……」
『どうか私に『人を愛する』という感情を教えて下さい』ーーそう、願ったアンジュの思い。
彼女も、僕と同じタイプの人間なのだろうか。今まで、誰にも愛されず、愛することなく育ってきて……僕が愛という感情を知らなかったように、彼女もまたその感情を知らず、恋い焦がれていたのだろうか。
「そう……
そしたらね、ルネが迎えに来てくれたの……」
アンジュは天使のような柔らかな微笑みで僕を包み込んだ。
「でも……僕たち、さっき出会ったばかりだ」
昂る感情をアンジュに悟られないようにしながら僕は言った。
アンジュに強く惹かれる自分を感じながらも、それを認めるのが怖い自分もいる。まだ出会ったばかりの彼女に恋をするなんて、ありえないことだ。否定しなければ……そんなもう一人の臆病な自分が、歯止めをかける。
「ルネは、私のこと嫌い?」
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