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出逢い

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 歌い終わると彼女が僕の方を向いて、邪気のない瞳で見つめた。

「ひとりだけのクリスマスキャロルを聴いてくれてありがとう」

 そう言って花が綻んだかのような笑顔を見せた。

 その瞬間、まるで彼女の周りだけが白日に照らされたかのように輝いて見えた。

「あなた、名前は?」

 突然名前を聞かれ、これが現実なのだという実感と共に心臓の鼓動が速まる。慌てて頬を伝った涙を袖で拭うと、粉雪がついていたために以前より濡れてしまった。

「ル、ネ……」

 ただ名前を答えるだけで精一杯の自分が情けない。

「素敵な名前ね。私はアンジュ」
「Ange……やっぱり君は天使だったんだ……」

 フランス語でAnge=天使という名前に、僕の思いは確信へと変わっていた。

「えっ?」

 彼女が不思議そうな顔をする。

 しまった。心の声が外に出てた……

「いや、ここを通る時に掌を天に翳してクリスマスキャロルを歌う君が、本物の天使みたいに見えたんだ」
「ふふっ、それって最高の褒め言葉よ。ありがとう、ルネ」

 名前を呼ばれてドキン、と鼓動が跳ね上がる。

 そんな自分が居たたまれなくなり、俯くと……なんと彼女はこの極寒の空の下、部屋履き用のブーツしか履いていなかった。

「アンジュ、これで外に出たの?」

 驚いてアンジュに尋ねると、彼女は少し困ったように答えた。

「うん。部屋にこれしかなくて……」

 もしかして、家出少女とかなのかな……

 彼女の家庭の事情はどうあれ、ここにずっといたら生命の危険にまで及んでしまう。

「家はどこ? 送って行くよ」

 そう言って歩くのを促そうとするが彼女は動こうとしない。

 やっぱり、家出かな……

「帰るとこなんて、ないの。
 だって、私…天使だから……空から舞い降りてきたの」

 悪戯っぽく浮かべるアンジュの笑顔に少しの翳りが見られた。

 放っておくわけにはいかないよな……

「僕の家、すぐそこなんだ。暖まるぐらいは出来るから……来て」

 そう言って、彼女の手をとった。

 その手は驚くほど冷たく、華奢だった。指なんて、細すぎて少しでも衝撃を与えたら折れてしまうんじゃないかと思った。
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