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婚約者に妹を紹介したら、美人な妹の方と婚約したかったと言われたので、譲ってあげることにいたしました
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これからイルアード侯爵の元に嫁ぐまでに、ジェイコブ様とお顔を合わせるのが辛いですわ。もういっそ、今すぐにここから逃げ出してしまいたい……
そんなことを考えながら窓辺から月を眺めておりますと、ジェイコブ様が馬に乗って駆けてきました。
慌てて窓を開けます。
「まぁっ、ジェイコブ様! こんなお時間にどういたしましたの!?
マリアンヌでしたら、西側の部屋ですわ。でも、こんな時間に女性を訪問するだなんて……非常識ですわ」
まさか……夜這い、でしょうか。でも、あのジェイコブ様に限って。
それとも、そこまで思い詰めるほどにマリアンヌを愛しているということでしょうか。
そう考えて、心が暗闇で覆われました。
「明日の朝、出直してくださいませ」
ピシャリと窓を閉めようとしますと、ジェイコブ様が叫びました。
「待ってくれ!
リリー、イルアード侯爵と婚約し、遠方に嫁ぐというのは本当なのか!?」
「ぇ……なぜ、それをジェイコブ様がご存知ですの?」
「マリアンヌが早馬で知らせてくれたんだ」
私を慕っているマリアンヌは、なんとかして私を引き留めようと、ジェイコブ様にまでお願いしたのでしょう。私のジェイコブ様への想いなど知らず……知らぬこととはいえ、残酷ですわね。
ジェイコブ様だけには、知られたくありませんでしたのに。
「えぇ、そうですの。
これで、ジェイコブ様に婚約破棄された私も、晴れて婚約して侯爵夫人となりますわ」
「ック……」
ジェイコブ様が顔を歪めました。伯爵家の二番目の子息であるジェイコブ様よりも格上の縁談を私がお受けしたことが、彼のプライドを傷つけたのかもしれません。
「僕は、バカだ……」
ジェイコブ様が拳を握り締め、俯かれました。
「なにを突然……」
「僕は、ずっとリリーのことが好きだったのに、自分に自信がなくてそれを言い出せず、勇気を出して両親を通じて婚約の申し入れをして受け入れてもらえて喜んでいたのに、僕に対して冷たい態度を取るリリーが寂しくて、僕のことなど気にもかけていないのだと焦って……リリーに嫉妬してほしくて、マリアンヌが婚約者だったらよかっただなんて馬鹿な嘘をついて……」
ぇ。なにを……仰っていますの!?
「マリアンヌと婚約してからもまだリリーのことが諦められなくて、君の気を引こうと毎日家に通い、声をかけようとして……もう嫌われていることなど、分かっていたというのに」
だって、それは……マリアンヌのことが好きだから毎日訪ねていたのではないですの?
「……僕は、かっこよくないし、勉学だって優れていないし、剣術もまるっきりだめで、臆病で、弱虫で……美しく賢いリリーには相応しくないと分かっている。
それでも、僕は……僕は、君が好きなんだ!! 婚約する前から、ずっと君を好きだった!!」
「な、なにを仰ってますの!?
貴方はもう、マリアンヌの婚約者ですのよ? マリアンヌを裏切るおつもりですか? 私は、これからイルアード侯爵と婚約を交わし、嫁ぎますのよ!
今更……ッグ……私の心を、かき乱さないでください!!」
ジェイコブ様が、ガバッと顔を上げました。
「リリー、心がかき乱されるってことは、僕のことを少しでも思ってくれているのか?」
ハッとし、顔を逸らしました。
「昔の、話ですわ……
私は、妹のマリアンヌが大切なのです。あの娘を裏切ったら、いくらジェイコブ様でも許しませんわ。マリアンヌは私などよりずっと美人で素直で優しくて……私を慕ってくれているのです。
私は、マリアンヌに幸せになってほしいのです」
ガサッと茂みから音がして、誰かがジェイコブ様の元へと歩いてきます。それは、マリアンヌでした。
あぁ、マリアンヌに私たちの会話を聞かれてしまいましたわ……どういたしましょう。
そんなことを考えながら窓辺から月を眺めておりますと、ジェイコブ様が馬に乗って駆けてきました。
慌てて窓を開けます。
「まぁっ、ジェイコブ様! こんなお時間にどういたしましたの!?
マリアンヌでしたら、西側の部屋ですわ。でも、こんな時間に女性を訪問するだなんて……非常識ですわ」
まさか……夜這い、でしょうか。でも、あのジェイコブ様に限って。
それとも、そこまで思い詰めるほどにマリアンヌを愛しているということでしょうか。
そう考えて、心が暗闇で覆われました。
「明日の朝、出直してくださいませ」
ピシャリと窓を閉めようとしますと、ジェイコブ様が叫びました。
「待ってくれ!
リリー、イルアード侯爵と婚約し、遠方に嫁ぐというのは本当なのか!?」
「ぇ……なぜ、それをジェイコブ様がご存知ですの?」
「マリアンヌが早馬で知らせてくれたんだ」
私を慕っているマリアンヌは、なんとかして私を引き留めようと、ジェイコブ様にまでお願いしたのでしょう。私のジェイコブ様への想いなど知らず……知らぬこととはいえ、残酷ですわね。
ジェイコブ様だけには、知られたくありませんでしたのに。
「えぇ、そうですの。
これで、ジェイコブ様に婚約破棄された私も、晴れて婚約して侯爵夫人となりますわ」
「ック……」
ジェイコブ様が顔を歪めました。伯爵家の二番目の子息であるジェイコブ様よりも格上の縁談を私がお受けしたことが、彼のプライドを傷つけたのかもしれません。
「僕は、バカだ……」
ジェイコブ様が拳を握り締め、俯かれました。
「なにを突然……」
「僕は、ずっとリリーのことが好きだったのに、自分に自信がなくてそれを言い出せず、勇気を出して両親を通じて婚約の申し入れをして受け入れてもらえて喜んでいたのに、僕に対して冷たい態度を取るリリーが寂しくて、僕のことなど気にもかけていないのだと焦って……リリーに嫉妬してほしくて、マリアンヌが婚約者だったらよかっただなんて馬鹿な嘘をついて……」
ぇ。なにを……仰っていますの!?
「マリアンヌと婚約してからもまだリリーのことが諦められなくて、君の気を引こうと毎日家に通い、声をかけようとして……もう嫌われていることなど、分かっていたというのに」
だって、それは……マリアンヌのことが好きだから毎日訪ねていたのではないですの?
「……僕は、かっこよくないし、勉学だって優れていないし、剣術もまるっきりだめで、臆病で、弱虫で……美しく賢いリリーには相応しくないと分かっている。
それでも、僕は……僕は、君が好きなんだ!! 婚約する前から、ずっと君を好きだった!!」
「な、なにを仰ってますの!?
貴方はもう、マリアンヌの婚約者ですのよ? マリアンヌを裏切るおつもりですか? 私は、これからイルアード侯爵と婚約を交わし、嫁ぎますのよ!
今更……ッグ……私の心を、かき乱さないでください!!」
ジェイコブ様が、ガバッと顔を上げました。
「リリー、心がかき乱されるってことは、僕のことを少しでも思ってくれているのか?」
ハッとし、顔を逸らしました。
「昔の、話ですわ……
私は、妹のマリアンヌが大切なのです。あの娘を裏切ったら、いくらジェイコブ様でも許しませんわ。マリアンヌは私などよりずっと美人で素直で優しくて……私を慕ってくれているのです。
私は、マリアンヌに幸せになってほしいのです」
ガサッと茂みから音がして、誰かがジェイコブ様の元へと歩いてきます。それは、マリアンヌでした。
あぁ、マリアンヌに私たちの会話を聞かれてしまいましたわ……どういたしましょう。
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