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悪魔のように美麗な執事に恋に堕ちてしまった私は、悪役令嬢となって婚約者をヒロインに差し出すことにいたしました

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 ハナ嬢を待つ間、私の躰が小刻みに震え、心臓がバクバクと打ち鳴らします。

 もう、やるしかないのですわ……

 ハナ嬢が向こうから歩いてくるのが見えてきて、フゥと大きく息を吐き出しました。

「ビアンカ嬢、まさかお茶会に再び呼んでいただけるなんて思ってもいませんでしたので、嬉しいですわ」

 可愛らしくハナ嬢が微笑み、小さく膝を折って挨拶しました。前回と違って制服ではなく、ラベンダー色のドレスを着ています。

「ごきげんよう、ハナ嬢。いらしてくださって、嬉しいですわ」

 ハナ嬢はきょろきょろと周りを見回しました。

「他の方は、いませんの?」
「えぇ……今日は、ふたりきりでお話がしたくて。
 どうぞ、掛けてください」

 ハナ嬢に椅子を勧め、お茶の用意をします。ガーデンの窓ガラスからリチャードがじっと私たちを覗いているのが見えて、背筋が震えました。

 ティーポットやティーカップを温めるためにお湯を掛けようすると、手先が狂って熱湯が私の手に飛び跳ねました。

「熱っっ!」

 その声を聞き、ハナ嬢がガタンと立ち上がりました。

「ビアンカ嬢、大丈夫ですか!?」

 ハナ嬢が私の手を取り、冷たい水で冷やしてくれます。それから私の手を確認して、呟きました。

「美しい手に、痕が残らないといいのですが……」

 優しい労りに、胸がチクチクと痛みます。

「もう、大丈夫ですから……」

 顔を逸らして手を引っ込めると、ハナ嬢が気にしつつも席に戻りました。

 ティーポットに茶葉を入れ、一気にポットにお湯を注ぎます。本日選んだのはホワイル・ムートン社のキーマン紅茶を使用したアールグレイティーです。お湯を注いだ途端にベルガモットが香り立ちます

 マーガレット柄のついた可愛らしい2つのティーカップにアールグレイティーを注ぎます。

 ドレスのポケットに手を入れると、小瓶を掴みました。

 この一方に毒薬を入れれば……ハナ嬢は麻痺状態となり、半死する。

 小瓶をポケットから取り出すと蓋を取り、ゴクリと唾を飲み込みました。全身が震え、恐怖に怯えます。

 小瓶をテーブルに置き、ハァ……と大きく息を吐き出しました。

 その時、首元にチリリと焼けつくような痛みが走りました。昨夜の交わりを思い出せとリチャードに言われているように感じました。

 再び瓶を手に取り、ティーカップに傾けて垂らそうとしますが……出来ませんでした。

 私には、無理。無理、ですわ……

 小瓶を戻そうとすると、背後から声が聞こえました。

「失礼いたします」

 振り向くと、リチャードがケーキスタンドの載ったワゴンを押してきました。

 リチャード……

 その時、彼の声が頭に響きました。

『さぁ、私がハナ様にケーキスタンドのセッティングをし、説明している間にお茶のご用意を』

 その『お茶のご用意』には、毒薬を仕込むことが含まれていることを嫌でも感じます。

 リチャード、私には……無理です。
 とても出来ません。

 心の中で訴えると、彼の声が再び響きました。

『昨夜、私が欲しいと言ったあの言葉は、嘘だったのですか?
 このままでは、貴女はアンソニー様と婚姻を結ぶことになるのですよ。
 そうしたら、私は……ビアンカ様の元を去り、二度と会うことは叶いません』

 そ、そんなの嫌です!!

 そう思ったら、衝撃的に瓶をティーカップに傾けていました。すると、ドボッと液体が入ってしまいました。

 ど、どうしましょう……入れすぎましたわ。

 別のティーカップを持ってきてやり直そうとしましたが、リチャードが横からサッとティーカップを奪い、トレイに載せました。

「あとは、私が」

 流麗な動きで毒薬の入ったティーカップをハナ嬢の目の前に置き、もうひとつを私の前に置きました。

「さ、ビアンカお嬢様。お座りください」

 にこりと微笑んだリチャードが椅子をひき、私を座らせました。

 あぁ、とうとう……ハナ嬢に毒薬を盛ってしまいました。
 しかも、あんなに……あれを飲んだら、ハナ嬢はいったいどうなってしまうのでしょう。

 全身が小刻みに震え、心臓がバクバクし、爪先から頭まで冷えていきました。
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