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悪魔のように美麗な執事に恋に堕ちてしまった私は、悪役令嬢となって婚約者をヒロインに差し出すことにいたしました
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朝、目を覚ますと夜着を纏っていました。ベッドのシーツは清潔なものに変えられ、乱れた形跡は一切ありません。
けれど、私の躰の奥に残る鈍い痛みと気怠さが、昨日のことが現実なのだと知らしめていました。
扉がノックされ、爽やかにリチャードが入ってきました。
「ビアンカお嬢様、おはようございます」
「お、おはよう……リチャード」
昨日の痴態を思い出し、まともに顔が見られません。
そんな私の耳元に、リチャードが唇を寄せました。
「昨夜の貴女はとても素敵でしたよ。まだ、お目覚めの口付けをご所望ですか?」
ビクンと耳を震わせ、首を振りました。
「い、いえ……大丈夫、ですわ」
「クスッ……では、お目覚めの紅茶を。
今朝は英国王室御用達のフォート&メイヤーズ社のイングリッシュ・ブレックファスト・ティーをご用意致しました。昨日は結局夕食を抜かれましたので、少しでも食べていただけるよう、焼き立てのブレッドにバターとウィルソン&ムーン社のブラックカラント(カシス)ジャムを添えております。ご要望でしたら、フルブレックファストをご用意しますが」
「いえ、ブレッドとジャムだけで結構よ。ありがとう」
食欲はありませんでしたが、王室御用達の高級ジャムメーカーのウィルソン&ムーン社のブラックカラントジャムと聞き、手を伸ばす気になりました。リチャードは私の好みをよく把握していますわ。
「それから、こちらをどうぞ。
あ、お嬢様はくれぐれもご自分で使用なさらぬように」
小さなガラス瓶をテーブルに置かれ、摘み上げました。
「これは、なんですの?」
「一滴垂らせば、躰を24時間麻痺させて半死させることができます。その後は後遺症もなく、元通りになりますのでご心配なく」
あまりの驚きに、ガラス瓶を落としてしまいそうになりました。
「そんな、恐ろしい物……」
私に、使えと仰るの!?
衝撃を受けて愕然とする私を前に、リチャードが優美な笑みを浮かべました。
「ビアンカ様の手立てになればとご用意させていただいただけですので、使うかどうかはビアンカ様次第です」
「つ、使いませんわ!!」
リチャードに突き返そうとすると、胸の谷間に押し込まれました。
「持っているだけなら……損はないでしょう?」
リチャードの美麗な顔が迫り、私を映す瞳に呑み込まれます。
「わ、かりましたわ……」
学校に着き、教室に入りますと、一番後ろの廊下に近い端の席にハナ嬢が座っていました。
ハナ嬢、元気がありませんわ。
気にしつつも、自分がハナ嬢にした仕打ちを思うと話しかけられません。席に座り、溜息を吐いていると、横から声を掛けられました。
「おはよう、ビアンカ」
アンソニー様が、隣の席に腰掛けます。もう捻挫は完治し、手助けは必要なくなりました。
「先生に話をして、席を変わってもらったんだ」
「わ、たくしは……アンソニー様の隣など、望んでいませんでしたわ!」
「うん、いいんだ……僕が、そうしたかったのだから」
アンソニー様が眉を下げて力なく微笑みました。
授業中、アンソニー様はチラッと後ろを振り返ってハナ嬢を見て、すぐに前に向き直りました。
きっと今朝は、ハナ嬢を迎えに行っておらず、帰りも送らないつもりなのでしょうね……
その後もアンソニー様は、教室移動の際も私と一緒に並び、昼食の際にも私に声を掛け、終業後も一緒に帰ります。私が冷たい態度を取ろうと、辛辣な言葉を掛けようと、困ったように微笑むだけです。
ハナ嬢には声を掛けないどころか、見向きもしません。
突然態度を変えたアンソニー様に、ハナ嬢は戸惑いを隠しきれない様子で、見ているこちらが辛くなります。
「アンソニー様、別に私、ハナ嬢と喋ってはいけないと禁止しておりませんわよ」
あぁ、計画が台無しですわ。これでは、私は婚約者を粗末に扱うだけの悪者ですもの。
『ハナ嬢』と聞いただけで、アンソニー様が激しく動揺し、肩が大きく震えました。
「いいんだ。僕はもう、彼女に関わらないと決めたのだから。
お互いのために、そうする方がいいんだ……
ビアンカ、君もハナ嬢のことにはもう関わらないでくれ」
アンソニー様はご自身を犠牲にしてまでも、ハナ嬢を守ろうとしているのだと伝わってきます。
もしリチャードが彼の立場なら……彼は、アンソニー様のようにはしないでしょう。自らの手を汚すことなく、私に指示して策略を働かせるリチャード。それでも私は、彼を憎むことが出来ません……それもまた、彼の愛なのだと信じていたいのです。
愛情とは、なんと厄介なものなのでしょう。
ハナ嬢はお茶会以来、クラスの女子全員から無視されています。まぁ、私の差し金なのですが。
男子側では……同情しながら、遠巻きに見ているといった感じでした。
ところが、そんな日々に変化が訪れました。
ーーハナ嬢に話しかけ、近づく殿方が現れたのです。
けれど、私の躰の奥に残る鈍い痛みと気怠さが、昨日のことが現実なのだと知らしめていました。
扉がノックされ、爽やかにリチャードが入ってきました。
「ビアンカお嬢様、おはようございます」
「お、おはよう……リチャード」
昨日の痴態を思い出し、まともに顔が見られません。
そんな私の耳元に、リチャードが唇を寄せました。
「昨夜の貴女はとても素敵でしたよ。まだ、お目覚めの口付けをご所望ですか?」
ビクンと耳を震わせ、首を振りました。
「い、いえ……大丈夫、ですわ」
「クスッ……では、お目覚めの紅茶を。
今朝は英国王室御用達のフォート&メイヤーズ社のイングリッシュ・ブレックファスト・ティーをご用意致しました。昨日は結局夕食を抜かれましたので、少しでも食べていただけるよう、焼き立てのブレッドにバターとウィルソン&ムーン社のブラックカラント(カシス)ジャムを添えております。ご要望でしたら、フルブレックファストをご用意しますが」
「いえ、ブレッドとジャムだけで結構よ。ありがとう」
食欲はありませんでしたが、王室御用達の高級ジャムメーカーのウィルソン&ムーン社のブラックカラントジャムと聞き、手を伸ばす気になりました。リチャードは私の好みをよく把握していますわ。
「それから、こちらをどうぞ。
あ、お嬢様はくれぐれもご自分で使用なさらぬように」
小さなガラス瓶をテーブルに置かれ、摘み上げました。
「これは、なんですの?」
「一滴垂らせば、躰を24時間麻痺させて半死させることができます。その後は後遺症もなく、元通りになりますのでご心配なく」
あまりの驚きに、ガラス瓶を落としてしまいそうになりました。
「そんな、恐ろしい物……」
私に、使えと仰るの!?
衝撃を受けて愕然とする私を前に、リチャードが優美な笑みを浮かべました。
「ビアンカ様の手立てになればとご用意させていただいただけですので、使うかどうかはビアンカ様次第です」
「つ、使いませんわ!!」
リチャードに突き返そうとすると、胸の谷間に押し込まれました。
「持っているだけなら……損はないでしょう?」
リチャードの美麗な顔が迫り、私を映す瞳に呑み込まれます。
「わ、かりましたわ……」
学校に着き、教室に入りますと、一番後ろの廊下に近い端の席にハナ嬢が座っていました。
ハナ嬢、元気がありませんわ。
気にしつつも、自分がハナ嬢にした仕打ちを思うと話しかけられません。席に座り、溜息を吐いていると、横から声を掛けられました。
「おはよう、ビアンカ」
アンソニー様が、隣の席に腰掛けます。もう捻挫は完治し、手助けは必要なくなりました。
「先生に話をして、席を変わってもらったんだ」
「わ、たくしは……アンソニー様の隣など、望んでいませんでしたわ!」
「うん、いいんだ……僕が、そうしたかったのだから」
アンソニー様が眉を下げて力なく微笑みました。
授業中、アンソニー様はチラッと後ろを振り返ってハナ嬢を見て、すぐに前に向き直りました。
きっと今朝は、ハナ嬢を迎えに行っておらず、帰りも送らないつもりなのでしょうね……
その後もアンソニー様は、教室移動の際も私と一緒に並び、昼食の際にも私に声を掛け、終業後も一緒に帰ります。私が冷たい態度を取ろうと、辛辣な言葉を掛けようと、困ったように微笑むだけです。
ハナ嬢には声を掛けないどころか、見向きもしません。
突然態度を変えたアンソニー様に、ハナ嬢は戸惑いを隠しきれない様子で、見ているこちらが辛くなります。
「アンソニー様、別に私、ハナ嬢と喋ってはいけないと禁止しておりませんわよ」
あぁ、計画が台無しですわ。これでは、私は婚約者を粗末に扱うだけの悪者ですもの。
『ハナ嬢』と聞いただけで、アンソニー様が激しく動揺し、肩が大きく震えました。
「いいんだ。僕はもう、彼女に関わらないと決めたのだから。
お互いのために、そうする方がいいんだ……
ビアンカ、君もハナ嬢のことにはもう関わらないでくれ」
アンソニー様はご自身を犠牲にしてまでも、ハナ嬢を守ろうとしているのだと伝わってきます。
もしリチャードが彼の立場なら……彼は、アンソニー様のようにはしないでしょう。自らの手を汚すことなく、私に指示して策略を働かせるリチャード。それでも私は、彼を憎むことが出来ません……それもまた、彼の愛なのだと信じていたいのです。
愛情とは、なんと厄介なものなのでしょう。
ハナ嬢はお茶会以来、クラスの女子全員から無視されています。まぁ、私の差し金なのですが。
男子側では……同情しながら、遠巻きに見ているといった感じでした。
ところが、そんな日々に変化が訪れました。
ーーハナ嬢に話しかけ、近づく殿方が現れたのです。
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