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悪魔のように美麗な執事に恋に堕ちてしまった私は、悪役令嬢となって婚約者をヒロインに差し出すことにいたしました

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 翌朝、学校の門の前でリチャードに見送られていると、その後ろでアンソニー様の車が停まりました。昨日のこともあり、声を掛けるか躊躇っていると、後部座席からアンソニー様だけではなく、ハナ嬢も一緒に出てきました。

「やぁ、ビアンカおはよう」
「……ご機嫌よう、アンソニー様。今朝は、ハナ嬢もご一緒ですのね」

 ハナ嬢は一瞬チラッとリチャードを横目で見てから、私に向き直りました。

「えぇ、そうなんです。歩いていたら、リチャード様が車の窓を開けて、私を送ってくださると言って……」
「ハナは家から歩いて30分もかけて、登校しているそうなんだ。もし良かったら、これから毎朝乗っていくといいよ」
「えぇっ、いいんですか!? わぁ、アンソニー様って優しいんですねっ」

 嬉しそうに微笑むハナ嬢に、アンソニー様が顔を赤らめました。

 なんだか、このおふたり……とても気が合いそうですわね。

 3人で教室に向かって歩いていますと、ハナ嬢が窺うように話しかけました。

「あの……先程の男性って、ビアンカ嬢の恋人なのですか?」

 先程の男性? あぁ、リチャードのことですわね。
 恋人だなんて……そんな風に、ハナ嬢には感じたのですね。

 再び、罪悪感に襲われます。

 それは……私たちが、人に言えないような秘事をしているから……ですの?

 教室の扉を開きながら、動揺を抑えて答えました。

「いえ、リチャードは……私の、執事ですわ」

 真実を話しているというのに、胸がズキッと痛みました。

「そうだったんですか! 執事の方ととてもお似合いでしたので、てっきり恋人同士なんだと思っていましたわ!!」

 ハナ嬢の屈託のない大きなはっきりとした声が、教室中に響き渡ります。そこにいた全員が一斉に息を呑み、シーンと静まりかえりました。

「どうしましたの?」

 アンソニー様が下がり気味の眉を更に下げ、笑みを見せました。

「ハナは昨日転入してきたばかりだから知らないだろうけど、僕とビアンカは婚約者なんだ」
「え! そうでしたの!?
 そうとは知らず、私ったらなんて失礼なことを……申し訳ございません!!」
「謝らなくても大丈夫ですわ。勘違いなんて、誰にもありますもの」
 
 私がにっこりと微笑んでそう言うと、ハナ嬢が申し訳なさそうに私を見つめました。

「ビアンカ嬢とアンソニー様って、全然恋人らしい雰囲気がなくて、ただのご友人だと思っていましたの。私、ビアンカ嬢の婚約者であるアンソニー様の車に乗せていただいて、図々しくもこれから毎日送って頂こうとしていただなんて……本当に申し訳ございません!!」
「どうぞ、お気になさらず。アンソニー様の通学路にハナ嬢のご自宅があるようですし、徒歩で通学なんて大変ですし、危険ですわ。アンソニー様の車で送迎していただくと、いいですわ」
 
 ハナ嬢が可愛らしくチラッとアンソニー様を上目遣いで見つめると、アンソニー様が力強く頷きました。

「婚約者のビアンカ嬢がそう言ってくださるなら……お言葉に甘えさせていただきますね」

 ハナ嬢は嬉しそうに微笑みました。

 周囲がざわつく中、ニーナ嬢が私の元へ駆け寄りました。

「ビアンカ様!
 あんなこと言って、よろしいですの!?」
「あんなことって……アンソニー様がハナ嬢を送迎することですか?
 いいも何も……そうするのが、一番かと思いまして」

 私の返事に、ニーナ嬢が腹立たしげな表情を浮かべました。

「これをきっかけに、アンソニー様とハナ嬢の仲が近付くかもしれませんのよ!!
 まったくハナ嬢ったら、なんて図々しいのでしょう!」
 
 どうしてニーナ嬢は、怒っていらっしゃるのかしら。アンソニー様がハナ嬢に優しくされるのは、とてもいいことですのに。

 視界に、アンソニー様とハナ嬢が楽しげに話している姿が映りました。

 ハナ嬢……転入されたばかりで心細かったでしょうが、アンソニー様が気を遣って下さっているようで、良かったですわ。
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