319 / 355
After Story1 ー新しい命の誕生ー
10
しおりを挟む
バルーンは投薬ではなく、風船を中に入れて膨らませるものだから、陣痛促進剤よりはリスクが低いはず。それで子宮口が広がるなら、陣痛促進剤は使う必要がないんだ。
それを受け、薫子は小さく頷いた。
「分かり、ました」
「もし、バルーンを使用しても子宮口が開かない場合、陣痛促進剤を使うことも頭に入れておいて下さい。陣痛促進剤は、子宮収縮を促して陣痛を引き起こす薬で、点滴で投与します」
それから、使用する陣痛促進剤の種類や副作用について説明された。
薫子は、おそるおそる医師に尋ねた。
「どうしても、陣痛促進剤は使用しないといけないですか」
「本人の意思により決定しますから、強制ではありません。ただ、自然分娩であってもこれらのことは起こりえますし、陣痛促進剤を使用しないと先ほどあげた感染症の危険や母体への影響などのリスクが高まります。それをよく考えた上で、決めてください」
そう告げた後、医師は去っていった。
医師が去った後、薫子が呟くように言った。
「悠、どう思う? どうしたら、いい?」
薫子は、子供のために一番いい選択をしたいと思いつつも、何を選べばいいのか分からなかった。
悠は考え込むように俯いてから、慎重に話し始めた。
「確かに、陣痛促進剤を使用することで副作用の危険性はあるけど......それを使わなければならない状況であるってことは、それが母体にとって最良の選択だから、ってことも言えるよね」
「う、ん.....」
それでも、もし副作用が起こったとしたらと考えると、恐い。
悠は、薫子に手を伸ばした。
「でもそれは、子宮口が開かなかった時の話だから。まだ時間はある」
「そうだね」
静音は、黙ってふたりの会話を見守っていた。
医師の指示に従い、看護師が子宮頚管拡張バルーンの準備を始めた。
チューブの先にシリコン製の玉のようなものが2つついている。このシリコンに生理食塩水を注入することで風船のように膨らみ、内子宮口、外子宮口の両方から圧力を持続的にかけ、頸部を広げていくのだ。
医師が看護師からバルーンを受け取り、膝の間から薫子に声を掛ける。
「今から入れますから、力を抜いて下さいね」
「ッ……」
冷たい器具と、中を押し広げられる感触に思わず顔が歪む。バルーンを挿入する際に痛みはあったものの、中に入ってしまえば違和感は感じるが痛みはなかった。
「バルーンの最大留置時間は12時間になりますので、これを夜通しつけてもらって、朝に外しにきますね」
看護師の説明を聞き、これからいったい、赤ちゃんが産まれるまでにどれぐらいの時間がかかるのだろうと薫子は不安になった。
美姫からもらった安産の御守りをギュッと握ると、チリンと鈴が鳴った。
悠の手が、薫子に触れて包み込む。薫子は掌を返し、悠の手を握った。
陣痛がくると、緩んでいた薫子の手がギュッと力強く握られる。苦しそうな息が漏れるのを聞きながら、悠は自分の無力さを感じていた。
手術をキャンセルまでしたのに、俺は薫子に何もしてあげられない......
それを受け、薫子は小さく頷いた。
「分かり、ました」
「もし、バルーンを使用しても子宮口が開かない場合、陣痛促進剤を使うことも頭に入れておいて下さい。陣痛促進剤は、子宮収縮を促して陣痛を引き起こす薬で、点滴で投与します」
それから、使用する陣痛促進剤の種類や副作用について説明された。
薫子は、おそるおそる医師に尋ねた。
「どうしても、陣痛促進剤は使用しないといけないですか」
「本人の意思により決定しますから、強制ではありません。ただ、自然分娩であってもこれらのことは起こりえますし、陣痛促進剤を使用しないと先ほどあげた感染症の危険や母体への影響などのリスクが高まります。それをよく考えた上で、決めてください」
そう告げた後、医師は去っていった。
医師が去った後、薫子が呟くように言った。
「悠、どう思う? どうしたら、いい?」
薫子は、子供のために一番いい選択をしたいと思いつつも、何を選べばいいのか分からなかった。
悠は考え込むように俯いてから、慎重に話し始めた。
「確かに、陣痛促進剤を使用することで副作用の危険性はあるけど......それを使わなければならない状況であるってことは、それが母体にとって最良の選択だから、ってことも言えるよね」
「う、ん.....」
それでも、もし副作用が起こったとしたらと考えると、恐い。
悠は、薫子に手を伸ばした。
「でもそれは、子宮口が開かなかった時の話だから。まだ時間はある」
「そうだね」
静音は、黙ってふたりの会話を見守っていた。
医師の指示に従い、看護師が子宮頚管拡張バルーンの準備を始めた。
チューブの先にシリコン製の玉のようなものが2つついている。このシリコンに生理食塩水を注入することで風船のように膨らみ、内子宮口、外子宮口の両方から圧力を持続的にかけ、頸部を広げていくのだ。
医師が看護師からバルーンを受け取り、膝の間から薫子に声を掛ける。
「今から入れますから、力を抜いて下さいね」
「ッ……」
冷たい器具と、中を押し広げられる感触に思わず顔が歪む。バルーンを挿入する際に痛みはあったものの、中に入ってしまえば違和感は感じるが痛みはなかった。
「バルーンの最大留置時間は12時間になりますので、これを夜通しつけてもらって、朝に外しにきますね」
看護師の説明を聞き、これからいったい、赤ちゃんが産まれるまでにどれぐらいの時間がかかるのだろうと薫子は不安になった。
美姫からもらった安産の御守りをギュッと握ると、チリンと鈴が鳴った。
悠の手が、薫子に触れて包み込む。薫子は掌を返し、悠の手を握った。
陣痛がくると、緩んでいた薫子の手がギュッと力強く握られる。苦しそうな息が漏れるのを聞きながら、悠は自分の無力さを感じていた。
手術をキャンセルまでしたのに、俺は薫子に何もしてあげられない......
0
お気に入りに追加
152
あなたにおすすめの小説
【R18】十六歳の誕生日、許嫁のハイスペお兄さんを私から解放します。
どん丸
恋愛
菖蒲(あやめ)にはイケメンで優しくて、将来を確約されている年上のかっこいい許嫁がいる。一方菖蒲は特別なことは何もないごく普通の高校生。許嫁に恋をしてしまった菖蒲は、許嫁の為に、十六歳の誕生日に彼を自分から解放することを決める。
婚約破棄ならぬ許嫁解消。
外面爽やか内面激重お兄さんのヤンデレっぷりを知らないヒロインが地雷原の上をタップダンスする話です。
※成人男性が未成年女性を無理矢理手込めにします。
R18はマーク付きのみ。
性欲のない義父は、愛娘にだけ欲情する
如月あこ
恋愛
「新しい家族が増えるの」と母は言った。
八歳の有希は、母が再婚するものだと思い込んだ――けれど。
内縁の夫として一緒に暮らすことになった片瀬慎一郎は、母を二人目の「偽装結婚」の相手に選んだだけだった。
慎一郎を怒らせないように、母や兄弟は慎一郎にほとんど関わらない。有希だけが唯一、慎一郎の炊事や洗濯などの世話を妬き続けた。
そしてそれから十年以上が過ぎて、兄弟たちは就職を機に家を出て行ってしまった。
物語は、有希が二十歳の誕生日を迎えた日から始まる――。
有希は『いつ頃から、恋をしていたのだろう』と淡い恋心を胸に秘める。慎一郎は『有希は大人の女性になった。彼女はいずれ嫁いで、自分の傍からいなくなってしまうのだ』と知る。
二十五歳の歳の差、養父娘ラブストーリー。
性欲の強すぎるヤクザに捕まった話
古亜
恋愛
中堅企業の普通のOL、沢木梢(さわきこずえ)はある日突然現れたチンピラ3人に、兄貴と呼ばれる人物のもとへ拉致されてしまう。
どうやら商売女と間違えられたらしく、人違いだと主張するも、兄貴とか呼ばれた男は聞く耳を持たない。
「美味しいピザをすぐデリバリーできるのに、わざわざコンビニのピザ風の惣菜パンを食べる人います?」
「たまには惣菜パンも悪くねぇ」
……嘘でしょ。
2019/11/4 33話+2話で本編完結
2021/1/15 書籍出版されました
2021/1/22 続き頑張ります
半分くらいR18な話なので予告はしません。
強引な描写含むので苦手な方はブラウザバックしてください。だいたいタイトル通りな感じなので、少しでも思ってたのと違う、地雷と思ったら即回れ右でお願いします。
誤字脱字、文章わかりにくい等の指摘は有り難く受け取り修正しますが、思った通りじゃない生理的に無理といった内容については自衛に留め批判否定はご遠慮ください。泣きます。
当然の事ながら、この話はフィクションです。
【R18】もう一度セックスに溺れて
ちゅー
恋愛
--------------------------------------
「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」
過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。
--------------------------------------
結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~
taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。
お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥
えっちめシーンの話には♥マークを付けています。
ミックスド★バスの第5弾です。
【R18 大人女性向け】会社の飲み会帰りに年下イケメンにお持ち帰りされちゃいました
utsugi
恋愛
職場のイケメン後輩に飲み会帰りにお持ち帰りされちゃうお話です。
がっつりR18です。18歳未満の方は閲覧をご遠慮ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる