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After Story1 ー新しい命の誕生ー

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 看護師は、産科病棟の場所を案内するとすぐに立ち去った。美姫が薫子の手を取り、その後ろをばあやがゆっくりとついて歩いた。

「ッッ......」

 いた、い......

 廊下を歩いていた薫子の足が急に止まり、手を壁につき、顔を顰めた。陣痛が、始まったのだ。

 すごく下半身がズキズキして、重くて痛い。息をするのが、苦しい......

「薫子、大丈夫?」

 美姫はどうしていいのか分からず、ただ薫子のもう一方の手を握った。その手にギュッと力が込められる。後ろから歩くばあやも、心配そうに薫子を見つめた。

「やはり、車椅子を...」

 言いかけたばあやに、大丈夫だというように薫子が手を挙げた。

「だい...じょう、ぶ......もう、おさまったから。いこ......」
「う、うん」

 美姫は手を添えながら、薫子が大きいお腹を抱えながらゆっくり歩く姿を不安そうに見つめた。

 陣痛って、どのぐらいの痛みなんだろう。しかも、これから更に酷くなるんだよね。
 私は、ただ見守ることしか出来ないけど.....頑張って、薫子。

 途中、何度も立ち止まりながらも、ようやく薫子たちは産科の病棟へと足を運ぶ事ができた。

 ナースステーションの前には、入院の手続きをすませた悠人が待っていた。

「案内しよう」

 悠人が先導し、病室へと入る。そこはLDRと呼ばれる、陣痛(Labor)から分娩(Delivery)、産後(回復=Recovery)までのすべての期間を同じ部屋で過ごすことのできる特別個室だった。

 広さは悠の病室と同じくらいあり、大きな2つの窓にはペールピンクの明るいカーテンがかかっている。ベッドが2台置いてあり、そのうちの1台には両側に手すりがついていた。いよいよ出産となった時にはフラットな台が持ち上がり、分娩台となるのだ。その横には冷蔵庫があり、ベッドを挟んだ向かい側の扉にはゆったりと足を伸ばして入れるジャクジー機能のついたバスタブや、手すりがめぐらされた洗面所とトイレがある。壁際には大きなTVにローテーブルには花が生けられ、ゆったりとしたソファが置いてある。ソファは下を引けばクイーンサイズのベッドになるため、付き添い人もそこで寝る事ができようになっていた。

 LDRは病棟に何室もあるわけではない。しかも、他の病室に比べたら料金も相当かかる。

「気を遣って下さって、申し訳ありません」

 ベッドに横たわった薫子が心苦しそうに言うと、悠人は微笑んだ。

「君はもう僕たちの家族なんだから、そんな遠慮することはないんだよ」

 その言葉に、美姫が「ぇ......」と言った。

 そういえば、さっき悠のお母様が悠に『あなたが夫として薫子さんを支えてあげて』って言ってた気がする。
 ってことは......

 薫子が美姫に向き直り、微笑んだ。

「私たちもね、入籍したの」
「そうなんだ、おめでとう! いつ?」
「昨日、なの......ッ、ごめ......」

 再び陣痛が来た薫子は、表情を顰めた。苦しそうに息を吐く状態が続き、それから少しずつ呼吸が整っていく。

 薫子は、大きく息を吐き出した。

「本当はね、今日会った時に美姫と大和に報告しようと思ってたの。でも、悠の手術のことが心配で堪らなくて、頭からすっかり抜けちゃってた」

 それを聞き、美姫は驚いた。

 薫子のことは分かったけど、いつも冷静沈着な悠まで忘れてたなんて、意外......あの時、落ち着いているように見えたけど、悠も内心では不安でいっぱいだったんだ。

「悠のおばさま、認めて下さったんだね」

 ホッとしたように美姫が言うと、薫子が嬉しそうに頷いた。

「実は、おば様から婚姻届を渡されたの」

 悠人が薫子の話を引き継いだ。

「一昨日、悠の角膜移植の手術が決定した時にね。静音が、『もうすぐ赤ちゃんが産まれるのに、父親の欄が空白のままじゃ可哀想でしょ』って言って。
 僕も静音が婚姻届を用意していたことを知らなかったから、正直驚いたよ。きっと彼女は随分前からふたりを認めていたけど、言い出すことが出来ずにそのタイミングを待っていたんじゃないかな」

 悠は早くに籍を入れようとしたのだが、薫子は静音に入籍を認めてもらえるまではとずっと保留にしていたのだった。

 静音から渡された婚姻届の夫となる人の母親の欄には、既に静音の名前が書かれていた。それを見た時、薫子は自分の願いがようやく叶ったことを知り、胸が熱く震えそれが全身へと広がっていくのを感じた。
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