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ばあやの告白
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すべての、元凶って......
あまりにも強い言葉に衝撃を受けた薫子だったが、ばあやが土下座の姿勢を崩さないのに気づき、膝を曲げると、彼女の腰に手を当てた。
「ばあや。どうか、顔を上げて」
だが、ばあやは更に激しく頭を床に擦り付けた。
「いいえ、上げません!
薫子様......そして、華子様に、私はお詫びしなければなりません!」
自分に対しての詫びは、きっと悠とのことを母親に報告していたことだろうと推察できたが、母に対してなぜ詫びなければいけないのか、薫子には分からなかった。
「なぜ......お母様に、謝らなければならないのですか」
ばあやが、ようやく力なく顔を上げた。その表情には、苦悶が滲んでいる。
「悠様のお父様である悠人様は、華子様を裏切ったのではありません」
それを聞き、薫子の眉がピクッと痙攣した。
「ぇ?」
悠のお父様は、救いを求めたお母様を無視して、逃げる様にイギリスに渡ったんではないの!?
ばあやが、苦しそうに声を絞り出す。
「悠人様は、華子様を連れてイギリスへと駆け落ちされるおつもりでした。そして、その手紙を私に託されたのです。
箱入り娘として育ち、世間知らずの華子様がそんな異国の地で暮らしていけるはずなどない。華子様がもし駆け落ちし、そのことを知ったらどんなに先代の旦那様と奥様が悲しみ、嘆かれるか。そう考えたら、私にはおふたりの駆け落ちの橋渡しなど、とても出来ませんでした。
悠人様からの想いが込められたその手紙を、私は......華子様の為だと、お家の為だと、握り潰したのです......」
そ、んな......
母の悠の父親への憎しみがここから始まったのだと思うと、薫子はやりきれない気持ちになり、睫毛を震わせた。
「薫子様が初めて悠様を連れて屋敷に遊びにいらした時、まるで生き写しの様にお父上にそっくりな悠様を見て、私は心臓が止まりそうな程に驚きました。私は、悠様に薫子様と関わって欲しくないという牽制を込め、櫻井家と風間家が対立しているというお話をしました。けれど、おふたりの反応から薫子様と悠様は互いに想い合っているのだと気付き、なんという運命の悪戯かと思いました。
華子様に悠様のことをご報告したのは、おふたりを離れさせたい思いがあったからです。けれど、穏便に事を運ばせたかった私は、旦那様に話すことはしませんでした」
ばあやは悠に出会った時点から既に、私たちを離れさせようとしていたんだ......
薫子は、胸が突かれる思いだった。
「私の心配とは裏腹に、薫子様と悠様の仲は年を重ねるごとに近づいていると感じておりました。華子様も密かに薫子様と悠様の関係に胸を痛めながらも、『大人になれば薫子さんは、櫻井家の人間として政略結婚せねばならない身。今はそっとしておいてあげましょう』と、手を打つことはされませんでした。私は華子様のご意見を尊重することにしたものの、心の中ではじれじれとした思いを抱えておりました。
華子様は......間違いなく、薫子様とご自身を重ねて見てらっしゃいました。たとえいつかは別れなければならない運命だと分かっていても、今だけは......今のうちだけは、薫子様に素敵な思い出を作ってもらいたいと、願っておられたのです」
ばあやから聞かされる母の話は、以前に駆け落ちを止めようとした際に母が漏らした言葉とは印象が違っていた。
自分と同じような運命を辿る娘に心を痛め、思い悩みながらも、それでも青春を謳歌させてあげたいという、切ない母の思いをそこに感じた。
あまりにも強い言葉に衝撃を受けた薫子だったが、ばあやが土下座の姿勢を崩さないのに気づき、膝を曲げると、彼女の腰に手を当てた。
「ばあや。どうか、顔を上げて」
だが、ばあやは更に激しく頭を床に擦り付けた。
「いいえ、上げません!
薫子様......そして、華子様に、私はお詫びしなければなりません!」
自分に対しての詫びは、きっと悠とのことを母親に報告していたことだろうと推察できたが、母に対してなぜ詫びなければいけないのか、薫子には分からなかった。
「なぜ......お母様に、謝らなければならないのですか」
ばあやが、ようやく力なく顔を上げた。その表情には、苦悶が滲んでいる。
「悠様のお父様である悠人様は、華子様を裏切ったのではありません」
それを聞き、薫子の眉がピクッと痙攣した。
「ぇ?」
悠のお父様は、救いを求めたお母様を無視して、逃げる様にイギリスに渡ったんではないの!?
ばあやが、苦しそうに声を絞り出す。
「悠人様は、華子様を連れてイギリスへと駆け落ちされるおつもりでした。そして、その手紙を私に託されたのです。
箱入り娘として育ち、世間知らずの華子様がそんな異国の地で暮らしていけるはずなどない。華子様がもし駆け落ちし、そのことを知ったらどんなに先代の旦那様と奥様が悲しみ、嘆かれるか。そう考えたら、私にはおふたりの駆け落ちの橋渡しなど、とても出来ませんでした。
悠人様からの想いが込められたその手紙を、私は......華子様の為だと、お家の為だと、握り潰したのです......」
そ、んな......
母の悠の父親への憎しみがここから始まったのだと思うと、薫子はやりきれない気持ちになり、睫毛を震わせた。
「薫子様が初めて悠様を連れて屋敷に遊びにいらした時、まるで生き写しの様にお父上にそっくりな悠様を見て、私は心臓が止まりそうな程に驚きました。私は、悠様に薫子様と関わって欲しくないという牽制を込め、櫻井家と風間家が対立しているというお話をしました。けれど、おふたりの反応から薫子様と悠様は互いに想い合っているのだと気付き、なんという運命の悪戯かと思いました。
華子様に悠様のことをご報告したのは、おふたりを離れさせたい思いがあったからです。けれど、穏便に事を運ばせたかった私は、旦那様に話すことはしませんでした」
ばあやは悠に出会った時点から既に、私たちを離れさせようとしていたんだ......
薫子は、胸が突かれる思いだった。
「私の心配とは裏腹に、薫子様と悠様の仲は年を重ねるごとに近づいていると感じておりました。華子様も密かに薫子様と悠様の関係に胸を痛めながらも、『大人になれば薫子さんは、櫻井家の人間として政略結婚せねばならない身。今はそっとしておいてあげましょう』と、手を打つことはされませんでした。私は華子様のご意見を尊重することにしたものの、心の中ではじれじれとした思いを抱えておりました。
華子様は......間違いなく、薫子様とご自身を重ねて見てらっしゃいました。たとえいつかは別れなければならない運命だと分かっていても、今だけは......今のうちだけは、薫子様に素敵な思い出を作ってもらいたいと、願っておられたのです」
ばあやから聞かされる母の話は、以前に駆け落ちを止めようとした際に母が漏らした言葉とは印象が違っていた。
自分と同じような運命を辿る娘に心を痛め、思い悩みながらも、それでも青春を謳歌させてあげたいという、切ない母の思いをそこに感じた。
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