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婚約破棄
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宏和は冷めてしまった紅茶を一口飲むと、薫子に問いかけた。
「遼との婚約解消は、もうお父さんには話したのかい?」
薫子の全身が緊張する。
「いえ......これから、です。
まずは、遼さんのご両親にお詫びをと思いまして、こちらに先に伺いました」
それは、虚実を含んでいた。やはり薫子の心の中には、どこか父との対面を避けたいという気持ちが残っていた。
「そう、か......
遼との婚約破棄は、了解した」
その言葉に、予想してこととはいえ、逸子に落胆の表情が浮かぶ。遼は申し訳なさそうに、逸子から目を逸らした。
「あ、りがとう......ございます」
薫子もそんなふたりに申し訳なく、頭を深く下げるしかなかった。
これ、で......いくらお父様が『駄目だ』と仰っても、私と遼ちゃんの結婚の話は白紙になった。
これからの父との対峙を思い、僅かばかり負担が軽くなったように感じるものの、婚約破棄による櫻井財閥への影響、父の怒りを考えると、気が滅入った。
そんな薫子に対し、宏和が穏やかに話しかける。
「だが、プライベートとビジネスは別だ。私は、結婚の話が流れたからとはいえ、ビジネスの話まで流すつもりはない」
「親父......」
その言葉を聞き、遼はホッとしたような表情を浮かべた。父親が婚約破棄を機にビジネスの話まで白紙にすることはないだろうとは思ってはいたが、また心配もしていたからだ。
以前、薫子と悠が恋人だと知った際に、悠に対し「恋愛と友情は別だ」と語ったことを遼はふと思い出した。それに似た父親の発言を聞き、自分は父の息子なのだと妙に納得し、また誇らしい気持ちも湧いてきた。
「おじ、さま......ック...あり、がとう...ござい、ます」
薫子は感謝と申し訳ない気持ちを胸に、宏和を見上げた。
「はぁーあ。遼がこんな可愛い娘と両想いだなんて、話がうますぎると思ったのよねー!」
逸子が大袈裟に肩を竦めてみせた。
「ほんっと、薫子さんがお嫁に来られないなんて残念だわ」
そう明るく言ってみせる逸子に、薫子は涙せずにはいられなかった。
「おば...さま.....ごめッ......ごめんな......ッグ...ウゥッさ......」
遼の家族に対して申し訳ない気持ちでいっぱいの薫子だが、とりわけ逸子に対しては強くそれを感じていた。
お見合いの席から、気軽に声をかけてくれた逸子。いつも明るく気さくに接し、実の娘のように可愛がってくれた。温かい家庭とはどういうものなのかを、薫子に教えてくれた。
そして、そんな遼の家族に憧れ、自分もその輪に入れてもらっていることを後ろめたさを感じながらも嬉しく思った。
薫子の妊娠を喜び、孫の誕生を楽しみにしていた逸子。そんな彼女を裏切り、優しさを踏みにじる行為をしてしまった薫子に対して、逸子は一言も責めなかった。だからこそ、薫子の心は余計に罪悪感に染まり、胸が抉られる程の自責の念に苛まれた。
涙で言葉にならない薫子の隣に逸子が座り、手を握る。
「薫子さんの本当の気持ちに気がつかなくて......ごめんなさいね。
どうか、幸せになって。赤ちゃんと、一緒に。
大丈夫。母親はね、子供のために強くなれるんだから。強く、なるのよ」
実の娘に言い聞かせるような逸子の言葉に、薫子は何度も強く頷いた。
「ま、お袋は子供産まなくても、十分つぇーけどな」
「確かに。逸子は、お前を産む前から強かった」
遼と宏和のツッコミに、逸子が薫子の肩を抱きつつ、キッと睨んだ。
「遼との婚約解消は、もうお父さんには話したのかい?」
薫子の全身が緊張する。
「いえ......これから、です。
まずは、遼さんのご両親にお詫びをと思いまして、こちらに先に伺いました」
それは、虚実を含んでいた。やはり薫子の心の中には、どこか父との対面を避けたいという気持ちが残っていた。
「そう、か......
遼との婚約破棄は、了解した」
その言葉に、予想してこととはいえ、逸子に落胆の表情が浮かぶ。遼は申し訳なさそうに、逸子から目を逸らした。
「あ、りがとう......ございます」
薫子もそんなふたりに申し訳なく、頭を深く下げるしかなかった。
これ、で......いくらお父様が『駄目だ』と仰っても、私と遼ちゃんの結婚の話は白紙になった。
これからの父との対峙を思い、僅かばかり負担が軽くなったように感じるものの、婚約破棄による櫻井財閥への影響、父の怒りを考えると、気が滅入った。
そんな薫子に対し、宏和が穏やかに話しかける。
「だが、プライベートとビジネスは別だ。私は、結婚の話が流れたからとはいえ、ビジネスの話まで流すつもりはない」
「親父......」
その言葉を聞き、遼はホッとしたような表情を浮かべた。父親が婚約破棄を機にビジネスの話まで白紙にすることはないだろうとは思ってはいたが、また心配もしていたからだ。
以前、薫子と悠が恋人だと知った際に、悠に対し「恋愛と友情は別だ」と語ったことを遼はふと思い出した。それに似た父親の発言を聞き、自分は父の息子なのだと妙に納得し、また誇らしい気持ちも湧いてきた。
「おじ、さま......ック...あり、がとう...ござい、ます」
薫子は感謝と申し訳ない気持ちを胸に、宏和を見上げた。
「はぁーあ。遼がこんな可愛い娘と両想いだなんて、話がうますぎると思ったのよねー!」
逸子が大袈裟に肩を竦めてみせた。
「ほんっと、薫子さんがお嫁に来られないなんて残念だわ」
そう明るく言ってみせる逸子に、薫子は涙せずにはいられなかった。
「おば...さま.....ごめッ......ごめんな......ッグ...ウゥッさ......」
遼の家族に対して申し訳ない気持ちでいっぱいの薫子だが、とりわけ逸子に対しては強くそれを感じていた。
お見合いの席から、気軽に声をかけてくれた逸子。いつも明るく気さくに接し、実の娘のように可愛がってくれた。温かい家庭とはどういうものなのかを、薫子に教えてくれた。
そして、そんな遼の家族に憧れ、自分もその輪に入れてもらっていることを後ろめたさを感じながらも嬉しく思った。
薫子の妊娠を喜び、孫の誕生を楽しみにしていた逸子。そんな彼女を裏切り、優しさを踏みにじる行為をしてしまった薫子に対して、逸子は一言も責めなかった。だからこそ、薫子の心は余計に罪悪感に染まり、胸が抉られる程の自責の念に苛まれた。
涙で言葉にならない薫子の隣に逸子が座り、手を握る。
「薫子さんの本当の気持ちに気がつかなくて......ごめんなさいね。
どうか、幸せになって。赤ちゃんと、一緒に。
大丈夫。母親はね、子供のために強くなれるんだから。強く、なるのよ」
実の娘に言い聞かせるような逸子の言葉に、薫子は何度も強く頷いた。
「ま、お袋は子供産まなくても、十分つぇーけどな」
「確かに。逸子は、お前を産む前から強かった」
遼と宏和のツッコミに、逸子が薫子の肩を抱きつつ、キッと睨んだ。
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