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婚約破棄
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遼の家の前で車が止まると、薫子の緊張が一層高まった。
「行くぞ」
遼は短く声を掛けると、運転席の扉を開けた。
薫子は大きく息を吸い込み、ノブに手を掛けると自分も車から出る。トクトクトク......と、鼓動がどんどん速まり、顔が引き攣る。
だめ、こんなことでは。
しっかりしなきゃ......
遼がポーチの門扉を開けたのに続き、震える足を諌めながらなんとか前へと進んだ。
ジーンズのポケットから鍵を取り出し、玄関の扉を開けようとした遼だが、鍵を差し込む前にそれをやめ、インターホンを鳴らした。
インターホンの音が鳴ると同時に、もう逃げることは出来ないという強迫観念が薫子に襲いかかる。扉が開けられるまでの時間が、まるで永遠のように感じた。
実際にはインターホンが鳴らされてからそれほど長くかからず、扉が開かれた。
「薫子さん、いらっしゃい! 身重なのに、わざわざ来て下さってありがとう。疲れたでしょ?
ささっ、上がって!」
いつも通りの変わらぬ明るい笑顔で迎え入れてくれる逸子、それを優しく見守る宏和、嬉しそうに手を振る佳那を見て、ここに来るまでの固い決断が揺らぎそうになる。
「お邪魔...します」
ここに来る前には、3人に会ったら話し合いのために家にいてもらうよう頼んだことを詫びるつもりだった。けれど、目の前にした途端、何も言えず、顔すら合わせるのが辛い。
そんな薫子を横目で見ながら、遼は人知れず睫毛を伏せた。
リビングに通され、ソファに座った途端、佳那が興奮を抑えきれず薫子に話しかけてくる。
「ねぇねぇ、薫子さん。もうウェディングドレスは決まったんでしょ? どんなの? お兄に聞いても説明が下手くそすぎて、ぜんっぜん分かんないの! ママは本番までの楽しみにしときなさいって言うし。
ゲストは有名人とか呼んでるんだよね?アイドルとか俳優とかいるかなぁ。結婚式の時にサインとかもらっても大丈夫だと思う?
あ! それよりも!! 薫子さん、赤ちゃんおめでとー! てか、お兄! 手ぇ出すの早すぎだし!!!
ね、ね?赤ちゃんって男の子?女の子?
あー!お兄の子供ってことは、私おばさんってことじゃーん!! JKでおばさんとかありえないんですけどっっ!
私、絶対『佳那ちゃん』って呼ばせるからね!」
息急き切って喋る佳那を、ケーキと紅茶を運んできた逸子が嗜める。
「佳那! そういう話は、後からゆっくり聞けばいいって言ったでしょ」
「だってぇ、気になるんだもん!」
逸子が盆をテーブルに置き、ティーカップをそれぞれの目の前に配しながら薫子に笑みを送る。
「今日は、薫子さんが私たちに大事な話があるんだから、それを聞いてからよ。
ね、薫子さん?」
薫子の心臓が、逸子の言葉で跳ね上がる。
それでも、なんとか目を逸らすまいと逸子を見つめ、「えぇ...」と掠れた声で頷いた。
心臓の鼓動はもはや全身に響いているのではないかと思うぐらいに爆動し、緊張で喉はカラカラ。背中を冷たい汗が伝い、眩暈をおこしそうだった。
遼が、薫子のティーカップを指ですっと目の前へと押した。
「飲め」
薫子にしか聞こえないぐらいの小さい声で言うと、何事もなかったような態度に戻る。心の中でお礼を言いながら、薫子はティーカップを手に取り、紅茶を飲んだ。
いつもなら香りと一口目の味わいでなんの種類か分かる彼女だが、あまりの緊張状態から何を飲んでいるのかさえも分からなかった。
薫子がティーカップを置いたのを見計らい、肘掛けソファにゆったりと腰をおろした宏和が柔らかく問いかけた。
「それで、薫子さん。
今日は、なんの用事だったんだい?」
「行くぞ」
遼は短く声を掛けると、運転席の扉を開けた。
薫子は大きく息を吸い込み、ノブに手を掛けると自分も車から出る。トクトクトク......と、鼓動がどんどん速まり、顔が引き攣る。
だめ、こんなことでは。
しっかりしなきゃ......
遼がポーチの門扉を開けたのに続き、震える足を諌めながらなんとか前へと進んだ。
ジーンズのポケットから鍵を取り出し、玄関の扉を開けようとした遼だが、鍵を差し込む前にそれをやめ、インターホンを鳴らした。
インターホンの音が鳴ると同時に、もう逃げることは出来ないという強迫観念が薫子に襲いかかる。扉が開けられるまでの時間が、まるで永遠のように感じた。
実際にはインターホンが鳴らされてからそれほど長くかからず、扉が開かれた。
「薫子さん、いらっしゃい! 身重なのに、わざわざ来て下さってありがとう。疲れたでしょ?
ささっ、上がって!」
いつも通りの変わらぬ明るい笑顔で迎え入れてくれる逸子、それを優しく見守る宏和、嬉しそうに手を振る佳那を見て、ここに来るまでの固い決断が揺らぎそうになる。
「お邪魔...します」
ここに来る前には、3人に会ったら話し合いのために家にいてもらうよう頼んだことを詫びるつもりだった。けれど、目の前にした途端、何も言えず、顔すら合わせるのが辛い。
そんな薫子を横目で見ながら、遼は人知れず睫毛を伏せた。
リビングに通され、ソファに座った途端、佳那が興奮を抑えきれず薫子に話しかけてくる。
「ねぇねぇ、薫子さん。もうウェディングドレスは決まったんでしょ? どんなの? お兄に聞いても説明が下手くそすぎて、ぜんっぜん分かんないの! ママは本番までの楽しみにしときなさいって言うし。
ゲストは有名人とか呼んでるんだよね?アイドルとか俳優とかいるかなぁ。結婚式の時にサインとかもらっても大丈夫だと思う?
あ! それよりも!! 薫子さん、赤ちゃんおめでとー! てか、お兄! 手ぇ出すの早すぎだし!!!
ね、ね?赤ちゃんって男の子?女の子?
あー!お兄の子供ってことは、私おばさんってことじゃーん!! JKでおばさんとかありえないんですけどっっ!
私、絶対『佳那ちゃん』って呼ばせるからね!」
息急き切って喋る佳那を、ケーキと紅茶を運んできた逸子が嗜める。
「佳那! そういう話は、後からゆっくり聞けばいいって言ったでしょ」
「だってぇ、気になるんだもん!」
逸子が盆をテーブルに置き、ティーカップをそれぞれの目の前に配しながら薫子に笑みを送る。
「今日は、薫子さんが私たちに大事な話があるんだから、それを聞いてからよ。
ね、薫子さん?」
薫子の心臓が、逸子の言葉で跳ね上がる。
それでも、なんとか目を逸らすまいと逸子を見つめ、「えぇ...」と掠れた声で頷いた。
心臓の鼓動はもはや全身に響いているのではないかと思うぐらいに爆動し、緊張で喉はカラカラ。背中を冷たい汗が伝い、眩暈をおこしそうだった。
遼が、薫子のティーカップを指ですっと目の前へと押した。
「飲め」
薫子にしか聞こえないぐらいの小さい声で言うと、何事もなかったような態度に戻る。心の中でお礼を言いながら、薫子はティーカップを手に取り、紅茶を飲んだ。
いつもなら香りと一口目の味わいでなんの種類か分かる彼女だが、あまりの緊張状態から何を飲んでいるのかさえも分からなかった。
薫子がティーカップを置いたのを見計らい、肘掛けソファにゆったりと腰をおろした宏和が柔らかく問いかけた。
「それで、薫子さん。
今日は、なんの用事だったんだい?」
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