【R１８】初恋が実る時 ー対立する財閥令嬢と子息の密かな恋愛ストーリーー

操り人形

１

　主治医から話を聞き、あの強烈な眠気や食べ物に対する拒否反応は悪阻のせいでもあったことを知った。

　華子やばあやでさえも薫子の妊娠に気が付かなかったのは、彼女の症状が鬱のそれと似ていたことや、ほとんどベッドの中に引き籠っていたせいもある。だが一番の理由は、彼女が妊娠しているなどとは頭の片隅にもなかったせいであろう。

　薫子自身も、生理不順であったことにより、生理が多少遅れても気にすることはなかった。
　お腹の膨らみについても、そうだ。元々胃下垂である薫子は食後に下腹部が膨らむことがあった為、違和感を感じていなかった。

　だが冷静に考えてみれば、殆ど食事をとっていないにも関わらず、ずっと下腹部の膨らみが収まらないのはおかしい。しかし、そんなことを考える余裕すらないほどに、薫子は心身疲労していたのだった。

　遼はあの後家に帰ると、薫子が妊娠しており、結婚式を早めることを早速両親に報告した。

　本当は薫子が妊娠していることを出来るだけ隠しておきたかったのだが、これからどんどん大きくなるであろうお腹のことを思うと、引き延ばすことは出来なかった。もちろん子供の父親が他の男などとは言えるはずもなく、遼は大学卒業まで待てずに行為に至り、妊娠までさせてしまったことを両親に謝らなくてはならなくなった。

　突然の妊娠と結婚報告に遼の両親は驚き、「順序が違う！」と怒りつつも、ふたりのこれからの未来を祝福してくれた。そんなふたりの反応に、遼の胸に小さな針が幾つも突き刺さるような痛みが走った。

　すまねぇ、お袋。
　親父......

　信頼し合い、支え合ってきた家族に嘘をつかなければならない、突き通していかなければいけない現実が、重くのしかかった。

　遼はそれでも痛みを堪え、ふたりに明るい笑顔を見せた。　

　遼はその際、成人式の日に薫子がパーティーに出席しなかったのは悪阻があったせいで、その後も起き上がれずにずっと大学を休んでいたのだと説明した。それを聞き、自身も妊娠した時に悪阻が酷かった逸子は、薫子の体調をとても心配した。

　翌日、逸子は早速薫子の元を訪れることにした。遼は薫子のことを気遣い、見舞いに行くのを止めたのだが、どうしても挨拶したいと言って聞かなかったのだ。

　遼はその日、どうしても外せない講義があった為、逸子と一緒に薫子の元を訪れることが出来なかった。そこで、LINEを通じてその旨を彼女に伝えることにした。

　おばさまが、ここに......

　遼からのメッセージを読んだ薫子は、激しく動揺した。

　 昨日、バルコニーから落ちたことにより妊娠が発覚したばかりだ。遼が自分と結婚し、子供の父親として育てたいと父親に訴え、認められたが、それを薫子は容認したわけではなかった。

　薫子は、どんな顔をして彼女に会えばいいのか、想像もつかなかった。