【R１８】初恋が実る時 ー対立する財閥令嬢と子息の密かな恋愛ストーリーー

遼の想い

１

　クリスマスの翌日、遼は海岸に来ていた。

　鉛色の空がまるで合わせ鏡のように海にも投影され、吹き付ける風が大きな畝うねりを生み出し、ゴォーッという爆音と共に高く濃い灰色の壁となって波立つ。辺りには人影もなく、閑散とした中に轟く波しぶきと砂を蹴ちらす風の音がいっそう寒々しさを増している。

　寒風が砂と一緒に遼の躰にバチバチと吹き付け、寒さだけでなく痛みも感じた。

　あー、冬の海岸とかマジ失敗した......
　さみぃぃぃっっっ!!!!!

　そんな後悔を感じながらダウンジャケットのフードを頭からすっぽり被り、丸太の上に縮こまって座る。

　吹き荒れる海を眺めながら、遼は薫子のことを考えていた。

　幼稚舎で初めてあいつを見た時......今思えば、俺は一目惚れしたんだと思う。

　こ、いつ...にんぎょうみてぇ......なんかしんねぇけど......きになる。

　俺はあいつの気を引きたくて、でもどうしていいのかわかんねぇから、とにかく話しかけた。

　でもいざ薫子を目の前にすると、優しい言葉なんかかけられなくて、いつもわざと意地悪なこと言ったり、からかったり、ほっぺた摘んだり、髪の毛引っ張ったりしてた。

　って、俺って考えてみりゃ今でも同じことしてんだよな。ほんっと、成長してねぇ......

　薫子に近づこうとするやつは片っ端から阻止してやった。

　でもそんな俺に薫子は何も言わなかったし、いつでも俺の言うことを聞いてたから、あいつも俺のことが好きなんだと信じて疑わなかった。


　小等部の卒業が迫ったある日、親からアメリカに引っ越しすることを聞かされた。その時、真っ先に浮かんだのは薫子のことだった。

　薫子が俺のことを好きなのは分かってるけど、俺はあいつに何も言ってなかったな。俺がアメリカ行っちまったら不安になるかもしれねぇし、男としてここはちゃんと言っとかねぇと。

　卒業式の日、ありったけの勇気を振り絞って薫子に告白した。

「おい、薫子！俺様はこれからアメリカでイケメンになる為の修行に出る。いつかお前のこと迎えに行ってやるから、それまで大人しく待ってろよ！」

　俺はその言葉に得意になり、安心した。

　従順な薫子のことだから、きっと忠犬のように俺の帰りを待っているに違いない。
　あいつのために、でっかい男にならねぇとな。

　そう俺は、誓った。