上 下
15 / 355
私の全てを貴方に ー薫子sideー

しおりを挟む
 襟元を握り締める薫子の両手の指先に悠の指先が絡められ、引き上げられる。開かれた襟元からは薄桜色の肌襦袢が更に露わになった。

「こういうの……普通に下着より、そそられるね……」

 悠の言葉に顔から火が出そうになる。

 きっと、悠は…肌襦袢から透けて見える私の胸を見て、言ってるんだ……

「お、願い……見ない、で……」

 悠の絡ませた指先に力が入る。

「だめ…瞼の裏に焼き付けてるから……」

 真正面に見える、悠の綺麗な顔。こうして改めて見ると、本当に整った顔立ちをしている…そう、薫子は感じた。

 それぞれの顔のパーツの美しさに加えて、それらが正確な位置に正確な大きさ、距離を持って完璧なバランスで配置されている。まるで、一つの芸術作品のようだ。

 薫子はいつも悠を見る度にその美しさに酔いしれ、溜息が出てしまう。そして、そんな彼の隣にいること、彼女でいることが自分に自信の持てなかった薫子に誇りを与えてくれた。

「悠。愛してる……」

 こんな、誰もが言い尽くした言葉しか言えない自分が歯痒い。

 愛してる、よりも愛してる……最上級の愛してる、って言葉でも足りない。そして、そんな気持ちでいると、ほら……また涙が滲んできてしまう。
 悠と初めて逢ってから今まで、いつもそんなことの繰り返し。そして、その想いは寧ろ募る一方で……

 お婆ちゃんになった時には…私はどうなってしまうんだろう……そんな心配までしてしまう。

「これ、椿?」

 ふいに、悠が尋ねた。一瞬、何のことか分からなかったが、着物の柄のことだと気付いた。

 悠は薫子に対しては口数が多い方だが、それでも言葉数が少ないので推し量らなければいけない。

「これは山茶花。どちらも冬の花だし、見た目も似てるけど、花から落ちてしまう椿と違って山茶花は花弁から散っていくの」
「山茶花の花言葉、知ってる?」

 えっ……知らない……

 突然の問いに驚いて黙っていると、悠が耳元に口を寄せる。

「ひたむきな、愛……」

 まるで、自分の事を言われてるような気持ちになり、薫子の耳から熱が全身へと巡る。

「それから、赤い山茶花は『謙虚』、『無垢』。
 ……そして、『あなたが一番美しい』」

 そこまで言った後、悠は耳元から薫子の顔の真正面へと顔を寄せると美しい笑みを見せた。

「まさに、君そのものだね」

 悠……もしかして、本当は描かれているのは山茶花って知っていて、私に聞いたのかもしれない……

 中等部に入学以前までイギリスにいたと思えない程、悠は博識の持ち主だった。でも決してそれをひけらかすことなく、ふとした会話で知らされるその瞬間が薫子は好きだった。

「着物、とても似合ってる……俺と会う為に着てくれた訳じゃないのが……妬けるけど」

 小さく言った後、絡めていた指先を高く引き上げ、左手だけで両手首を頭の上に縫い止めた。

「……どうする? このままの方がいい?それとも……脱がせた方がいい?」
「……」

 恥ずかしくて口に出来ず戸惑っていると、悠の右手が薫子の髪を梳いた。

「薫子の嫌がることは……したくないんだ」

 悠は、いつも優しい。私のことをいつでも一番に考えてくれる……

 薫子は幸せな気持ちで満たされる。

「……着物は皺になるから、肌襦袢だけ、で……お願い、します……」

 緊張し過ぎて、なぜか敬語になってしまった。

 悠はクスッと笑うと「はい、畏まりました」と答えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】十六歳の誕生日、許嫁のハイスペお兄さんを私から解放します。

どん丸
恋愛
菖蒲(あやめ)にはイケメンで優しくて、将来を確約されている年上のかっこいい許嫁がいる。一方菖蒲は特別なことは何もないごく普通の高校生。許嫁に恋をしてしまった菖蒲は、許嫁の為に、十六歳の誕生日に彼を自分から解放することを決める。 婚約破棄ならぬ許嫁解消。 外面爽やか内面激重お兄さんのヤンデレっぷりを知らないヒロインが地雷原の上をタップダンスする話です。 ※成人男性が未成年女性を無理矢理手込めにします。 R18はマーク付きのみ。

性欲のない義父は、愛娘にだけ欲情する

如月あこ
恋愛
「新しい家族が増えるの」と母は言った。  八歳の有希は、母が再婚するものだと思い込んだ――けれど。  内縁の夫として一緒に暮らすことになった片瀬慎一郎は、母を二人目の「偽装結婚」の相手に選んだだけだった。  慎一郎を怒らせないように、母や兄弟は慎一郎にほとんど関わらない。有希だけが唯一、慎一郎の炊事や洗濯などの世話を妬き続けた。  そしてそれから十年以上が過ぎて、兄弟たちは就職を機に家を出て行ってしまった。  物語は、有希が二十歳の誕生日を迎えた日から始まる――。  有希は『いつ頃から、恋をしていたのだろう』と淡い恋心を胸に秘める。慎一郎は『有希は大人の女性になった。彼女はいずれ嫁いで、自分の傍からいなくなってしまうのだ』と知る。  二十五歳の歳の差、養父娘ラブストーリー。

性欲の強すぎるヤクザに捕まった話

古亜
恋愛
中堅企業の普通のOL、沢木梢(さわきこずえ)はある日突然現れたチンピラ3人に、兄貴と呼ばれる人物のもとへ拉致されてしまう。 どうやら商売女と間違えられたらしく、人違いだと主張するも、兄貴とか呼ばれた男は聞く耳を持たない。 「美味しいピザをすぐデリバリーできるのに、わざわざコンビニのピザ風の惣菜パンを食べる人います?」 「たまには惣菜パンも悪くねぇ」 ……嘘でしょ。 2019/11/4 33話+2話で本編完結 2021/1/15 書籍出版されました 2021/1/22 続き頑張ります 半分くらいR18な話なので予告はしません。 強引な描写含むので苦手な方はブラウザバックしてください。だいたいタイトル通りな感じなので、少しでも思ってたのと違う、地雷と思ったら即回れ右でお願いします。 誤字脱字、文章わかりにくい等の指摘は有り難く受け取り修正しますが、思った通りじゃない生理的に無理といった内容については自衛に留め批判否定はご遠慮ください。泣きます。 当然の事ながら、この話はフィクションです。

私を犯してください♡ 爽やかイケメンに狂う人妻

花野りら
恋愛
人妻がじわじわと乱れていくのは必読です♡

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~

taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。 お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥ えっちめシーンの話には♥マークを付けています。 ミックスド★バスの第5弾です。

【R18 大人女性向け】会社の飲み会帰りに年下イケメンにお持ち帰りされちゃいました

utsugi
恋愛
職場のイケメン後輩に飲み会帰りにお持ち帰りされちゃうお話です。 がっつりR18です。18歳未満の方は閲覧をご遠慮ください。

先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…

ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。 しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。 気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…

処理中です...