【R１８】初恋が実る時 ー対立する財閥令嬢と子息の密かな恋愛ストーリーー

私の全てを貴方に ー薫子sideー

２

「立てる？」

　腰をしっかり抱き止めていた悠の腕が、薫子の頷きを合図に緩められた。

　悠の両腕が背中に回る。すっぽりと躰を包まれ、ふわっと香る大好きな悠の匂い。いつもは安心感を与えてくれるこの匂いが、今日は薫子をドキドキと落ち着かなくさせる。

　微妙に触れたり離れたりする悠の腕の感触が、先程の激しい口づけの余韻が消えない薫子に抗いがたい疼きを与える。

　私、なんだか変……

　耐えるように、俯いた。

　衣擦れの甲高いスルスルという音とともに、銀糸で織られた帯が腰元から枝垂れ落ちていく。

　綺麗……

　その様は、光を反射しながら流れていく滝のようだ。

　見惚れていると、背中に回っていた悠の手は胸の下に回され、器用な手先によって伊達締めがスルスルと解かれて畳の上にスルリと落とされた。あっと思う間もなく、腰紐もあっけなくスルスルと落ちていく。

　乱れて交わり合う帯紐を見ていたら、それが淫らに思え、薫子は熱く籠もった躰を持て余し、悠の胸に身を寄せた。

「薫子、そうしたら顔が見えない……ちゃんと、見せて？」

　羞恥を押し殺し、そっと胸元を離れる。はらりと襟元が開き、肌襦袢が覗く。

　や、恥ずかしい……

　両手で襟元を隠した薫子にふっと笑みを浮かべ、悠はそのまま薫子を抱き上げて歩き出した。薫子をしっかりと支えたまま、別室へと繋がる障子をスッと開けた。

　細くすらっとした躰つきからは想像できない男の力強さに、薫子の胸がときめきと切なさで満たされていく。

　そこには、布団が二組ぴったりとくっついて敷かれていた。夜でもないのに、もう既に準備してあるその布団に、羞恥とともに不安と期待が胸に押し寄せる。

　悠が、薫子を着物ごと丁寧に布団の上へと下ろした。着物と薫子の黒く長い髪がバサッと音をたてて、掛布団の羽毛を沈めながら広がった。

「薫子、綺麗……」

　悠の切れ長の目が細められた。

　悠が薫子の躰を跨いで近付いてくる。バクバクと音をたてる心臓しか、もう薫子の耳には聴こえない。

　心臓が……破裂、しそう……

「ま、待って……」

　急に怖くなり、制止しようとした薫子の手を、悠が優しく自分の左胸へと導く。

　ﾄﾞｸﾄﾞｸﾄﾞｸﾄﾞｸﾄﾞｸ……

　薫子の掌に悠の速い鼓動が伝わり、ハッとする。

「俺も……心臓、壊れそう……」

　潤んだ瞳で薫子を見つめ呟いた悠に、愛おしさが溢れる。

　大丈夫……怖い、けど……
　悠となら……どんなことでも受け止められる……

「愛してる、心から……」

　悠の甘い囁きに身も心も溶けてしまいそうだった。

　これが、人生で最高に幸せな瞬間ときなのかもしれない
ーーそんな思いが一瞬、薫子の脳裏に過る。