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純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ

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 メイド達が羨望の溜息を吐いた。

「ルチア様、お美しいですわ」
「ほんと、よくお似合いでいらっしゃる」
「国王陛下も惚れ直しますわ」

 口々に褒められ、ルチアは頬を染めてはにかんだように微笑んだ。

 クロード様に惚れ直していただけるだなんて……そうでしたら、嬉しいですわ。

 今日、ルチアはクロードの妻となるために誓約の儀(結婚の誓い)を結ぶ。ルチアが身に纏っているのは、母もまた父との誓約の儀の際に着たウェディングドレスだった。

 アイボリーのシルクのドレスの上に、グレートブルタン国の国花であり、この国にしか咲かないルンティアの花を一面に刺繍したレース編みがかけられている。胸から下が切り替えラインとなっていて、そこからスカートが流れるように広がり、袖はパコダスリーブといって袖上部は細く身体にフィットし、肘から手首までの袖先にかけて広がっている形のデザインとなっていた。背中には大きなレースのリボンがついている。

 頭につけているティアラにも国花であるルンティアをあしらうのがグレートブルタン国の伝統で、そのデザインはプリンセスが生まれたり、妃が嫁いだときにそれぞれ決められるものだった。ルチアのものはルンティアの花が中心の王紋を取り囲むようになっており、小さなダイヤモンドが散りばめられたプリンセスティアラだった。

 生まれた時からティアラのデザインが決められ、作られていたものの、既婚女性となって身に付けることが許されるため、ティアラをつけるのは今日が初めてだった。幼い頃から結婚に憧れてティアラを眺めていたルチアは、ティアラを頭に冠し、胸がジンとした。

 トン、トン……

 軽くノックの音がし、扉が開かれる。

「ドレスの準備は出来ましたか?」

 ルチアの母、ジュリアが折り畳んだベールを手に、入ってきた。

「はい、お母様」

 ルチアが振り返ると、ジュリアが感慨深そうに娘を見つめている。

「あんなに幼かったルチアが誓約の儀を迎えるとは……」
「お母、様……」

 ルチアにとってジュリアは愛情を与えてくれる母親、だけではなかった。プリンセスとして恥ずかしくないマナーや教養を身につけさせ、言葉遣いを正し、ルチアを指導してきた。公務につくようになってからは、その指導はいっそう厳しくなったが、それは全てルチアのためを思ってのことだった。

「まだまだ、不安なことはたくさんありますけれどね」
「うっ……」

 お母様、やはり手厳しいですわ。

「ルチア、後ろを向きなさい」
「はい」
 
 ジュリアに背を向け、少し膝を曲げる。ジュリアが手に持っていたベールをメイド達に手伝ってもらいながら、丁寧に広げていく。ベールが脱げないようにしっかり固定し、ふわっと頭から被せた。ベールもドレスと同様に全面にルンティアの花が刺繍された、繊細なレースだった。
 
「さ、できましたよ。グレートブルタン国のプリンセスとして、胸を張りなさい。
 あなたはこれから、グレートブルタン国、そしてシュタート王国の妃になるのですから」

 ジュリアの力強い言葉にルチアは頷いた。

 あの日、野盗に襲われたルチアが、当時は王太子殿下だったクロードに助けられたことから運命の歯車は回りだした。

 ルチアは彼こそが運命の男性だと信じ、彼が隣国である大国、シュタート王国の国王であったことが分かっても、あの日の出来事を否定されても、冷たい態度で接されても、決して彼への想いを捨てることはなかった。ひたすらにクロードを信じ、愛し抜いた。

 彼のために前王の不兵の生き残りが反乱を起こそうとしている情報を手に入れて伝えにいったり、捕らえられたクロードを助け出すために父であるグレートブルタン国王を説得し、騎兵隊を向かわせた。

 一番辛かったのは、ルチアとクロードがようやく婚約の運び矢先、クロードがグレートブルタン国を侵略しようと疑われた時だった。前国王派が放ったスパイがルチアを暗殺しかけ、それがクロードの仕業だと思われたのだ。ルチアを深く愛する父の国王は怒り狂い、騎兵隊長であるアルバートが決闘をしかけた。

 あの時は、ルチアとクロードの仲だけでなく、グレートブルタン国とシュタート王国の和平もこれまでかと思われた。

 そんな数々の困難を乗り越えて迎えた、誓約の儀。

「私は……グレートブルタン国、シュタート王国、両国にとって良き王妃となれるよう、努力いたします」

 ルチアの固い決意を感じ、ジュリアは涙を浮かべた。

「貴女なら……成し遂げられると信じていますよ、ルチア」
「おか、さま……」
「素晴らしい晴れの日です。泣くんじゃありませんよ、ルチア」

 ルチアが表情を崩した途端、ジュリアは厳しい表情を見せた。

 さきほど、お母様だって涙を浮かべていらっしゃいましたのに……

 そう思いつつも、ルチアは頷いた。

「はい、お母様」
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