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お姉様の婚約者を好きになってしまいました……どうしたら、彼を奪えますか?

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 ソフィアお姉様が亡くなられ、可愛いリリアが生まれたにも関わらず、我が家は火が消えたように暗くなりました。

 お姉様……どうして、どうして亡くならなければならなかったんですの。
 オリバー様と、リリアを残して逝ってしまわれるだなんて……

 あれほど、お祈りしましたのに。この世に神はいないのかと、絶望に打ち拉がれます。

 オリバー様は見ていられないほどに、みるみるうちに憔悴していかれました。こちらから促さなければ着替えることも、食べることも、眠ることもしようとしません。1日中椅子に座り、茫然とされています。

 オリバー様は、それほどまでソフィアお姉様のことを愛していらっしゃったのだわ……

 胸がきつくきつく絞られます。

 娘の世話どころか、自分のことすらできないオリバー様をそのままになどしておけません。オリバー様は離れから引越し、我が家で一緒に暮らすことになりました。

 お父様とお母様はソフィアお姉様を失った悲しみに心を打ち砕かれながらも、可愛い孫の存在に少しずつ心が癒されていっているのを感じましたが……オリバー様は、未だに悲しみの深い沼にどっぷりと囚われたままでした。

 そんなオリバー様をおいたわしく思っていると、最期に聞いたソフィアお姉様の声が頭の中に響きました。

『ハァッ、エミリー……ッッオリバーを……ハァッお願い……ッグ……』

 ソフィアお姉様……もしやあの時のお言葉は、命の灯が切れることを覚悟されて私に伝えたのでは……
 そうですわね、お姉様。このままでは、いいわけありませんわよね……

 私は決心し、オリバー様の元へと歩み寄りました。

「オリバー様!」
「……」

 バシッ!!

 思い切り、頬を叩きます。オリバー様の頬が赤くなりました。

「エミ、リー?」
「オリバー様、貴方はリリアのお父上ですのよ!! いつまでこんな状態でいらっしゃるおつもりですか!!
 オリバー様が1日中お姉様のことだけを考えて過ごしていらっしゃる間に、リリアは笑顔を見せるようになり、手を握れるようになり、足をバタバタさせてはしゃぐようになれましたのよ!!
 貴方にとってリリアは大切な宝だったんじゃありませんの!? こんなお姿、ソフィアお姉様が見られましたら……悲しみますわ!!」

 オリバー様はハッとし、それから涙を溢れさせました。

「ッッ……ソフィア……ソフィア……ッグ。
 そう、だね……きっと、天国でソフィアはハラハラしながら見守っていたに違いない……ッッ。
 僕は、なんて情けない父親なんだ」

 その時、リリアの泣き声が響き、お母様が駆け寄ろうとしましたが、私はそれを制しました。

 リリアを抱きとめると、オリバー様の元へ戻ります。

「オリバー様、よく見てあげてくださいませ。可愛い、娘のリリアを……」

 オリバー様がおずおずと不安そうにリリアを抱き締めます。泣いているリリアを、どうしていいか分からずに戸惑っています。

「ミルクはあげたばかりですから、おむつが濡れているのかもしれませんわ。
 オリバー様、替えてあげてくださいませ」
「え、僕が!?」
「父親として、当然ですわ」

 私はオリバー様に、おむつの替え方をご指導いたしました。

 オリバー様はそれから、娘のリリアのために奮起し、仕事に戻られ、少しずつ育児に参加するようになりましたが……時折、一点を見つめてボーッとしていることがあります。

 ソフィアお姉様を失った悲しみが、波のように引いては押し寄せてくるのでしょう。それは、私も同じことですから、分かりました。

 オリバー様の心の支えに、少しでもなりたい……

 私はそう、強く思ったのです。
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