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お姉様の婚約者を好きになってしまいました……どうしたら、彼を奪えますか?
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それは、ソフィアお姉様の婚約を交わす席でのことでした。
「エミリー、こちらが私の婚約者となるバロン侯爵卿のご令息、オリバー様ですわ」
「よろしく、エミリー」
オリバー様が私に向かって微笑まれました。
美しい金色の巻髪、オリーブのような美しい碧色の瞳、高い鼻に少し散らしたそばかす、大きくて魅力的なお口、人懐っこい笑顔……彼に見つめられた途端に私の世界が一気に彩られ、パーッと花が咲いたように思えました。
「オリバー様、私……オリバー様を好きになってしまいました。私を恋人にしてくださいませ!!」
途端に、オリバー様だけでなく、ソフィアお姉様も、お父様もお母様も、オリバー様のご両親も目が点になり、プッと笑い出しました。
「おやおや、可愛い告白だね」
「ほんとだわ、エミリーったら」
「おいおい、エミリーが婚約したら、父上は寂しいぞ」
「ふふっ、そうですわよね……」
な、なんですの……どうしてそんな反応いたしますの!?
まだ私は4歳とはいえ、私のオリバー様への恋心は本物ですのに!!
お姉様が生まれてから12年経って生まれた私は、お父様とお母様にとって目に入れても痛くないほど可愛い娘で、それはお姉様にとってもそうで、私は家族全員から甘やかされて育ちました。
なんでも与えられてきた私にとって、望んでも手に入れられないものは初めてでした。
それから私は、オリバー様に振り向いてもらうべく、アピールを開始することにしました。
「オリバー様!」
遊びに来ているオリバー様の元に駆け寄り、お手紙をお渡しします。
「ラブレターを書きましたの」
オリバー様はあろうことか、ライバルであるソフィアお姉様の前で封筒からお手紙を取り出しました。
「エミリーはまだ4歳なのに、こんなに上手に字が書けるなんてすごいなぁ。僕の弟なんて6歳で、まともにアルファベットも書けないっていうのに」
字の上手さなど褒めてもらっても嬉しくありませんわ! 私が心を込めて書いた文字を読んでいただきたいですのに!!
幼稚舎から高等部まで、幾つも続く渡り廊下を走り抜け、オリバー様に手作りのサンドイッチ をお届けに行ったこともありました。
「オリバー様……」
いったい、オリバー様の教室はどこかしら?
きょろきょろしていると、
「わぁ、可愛いらしいですわ!!」
大勢の人に囲まれてしまいました。
「幼稚舎はずっと端の校舎ですわよ。こんなところに何をしにいらしたの?」
「あ、あの……」
すると、ひとりの女の人が声を上げました。
「思い出しましたわ。この娘、ソフィア様の妹君よ。以前、パーティーでお見かけしたことがありますわ」
「まぁ、ソフィア様の……確かに、お姉様に似て可愛らしいお顔立ちですわ」
皆が私に顔を寄せてきます。
こ、こわいですわ……オリバー様……
「あ、ソフィア様がいらしたわ! ソフィア様、妹君が来られていますわよ」
ソフィアお姉様!
嬉々として顔を上げると、ソフィアお姉様の隣をオリバー様が歩いていらっしゃいました。
「まぁ、エミリー、いったいどうなさったの? まさか、幼稚舎からここまで歩いていらしたの!?」
ソフィアお姉様が驚いて駆け寄りました。
「私……オリバー様に、ランチをお届けしたくて」
持ってきたサンドイッチの包みを差し出すと、オリバー様が困ったような表情をされました。
「ありがとう、エミリー。でも、残念だけどもうランチはソフィアと済ませてしまったんだ」
「そう、ですの……」
「だから」
そう言って、オリバー様が私の手から包みを受け取りました。
「これは、授業が終わってから食べさせてもらってもいいかな?」
「えぇ、もちろんですわ」
にっこりと返事をしようとして、ハッといたしました。
落とさないようにとしっかり胸に抱いていた包みが、押し潰されてしまっていたからです。きっと、中に入っているサンドイッチも酷い状態になっているに違いありません。
「オ、オリバー様! やっぱり、返して下さいませ!!」
「なんでだい?」
「だ、だって……サンドイッチが、潰れてしまいましたわ……」
せっかく、オリバー様のために早起きして、頑張って作りましたのに……
けれど、オリバー様はサンドイッチを返すことなく、俯いている私の頭を撫でてくださいました。
「エミリーが頑張って作ってくれたものだろう? 嬉しいよ」
そして、オリバー様が手を差し出しました。
「もう昼休みが終わってしまう。エミリーの足では時間までに幼稚舎に辿り着かないだろう。僕が、君を送り届けてもいいかな?」
顔を真っ赤にして頷くと、オリバー様は私を横抱きに……お姫様抱っこをしてくださいました。
「すまない、ソフィア。先生には、僕が授業に遅れることを伝えておいてもらえるかな?」
「えぇ、分かりましたわ。オリバー様、エミリーをよろしくお願いいたします」
「あぁ」
微笑み合うソフィアお姉様とオリバー様を間近にして、胸がキュンと痛みます。
こんなの、いつものことですのに……
それでも、私はオリバー様が好きなのですから、振り向いてもらえるように頑張りますわ。
「エミリー、こちらが私の婚約者となるバロン侯爵卿のご令息、オリバー様ですわ」
「よろしく、エミリー」
オリバー様が私に向かって微笑まれました。
美しい金色の巻髪、オリーブのような美しい碧色の瞳、高い鼻に少し散らしたそばかす、大きくて魅力的なお口、人懐っこい笑顔……彼に見つめられた途端に私の世界が一気に彩られ、パーッと花が咲いたように思えました。
「オリバー様、私……オリバー様を好きになってしまいました。私を恋人にしてくださいませ!!」
途端に、オリバー様だけでなく、ソフィアお姉様も、お父様もお母様も、オリバー様のご両親も目が点になり、プッと笑い出しました。
「おやおや、可愛い告白だね」
「ほんとだわ、エミリーったら」
「おいおい、エミリーが婚約したら、父上は寂しいぞ」
「ふふっ、そうですわよね……」
な、なんですの……どうしてそんな反応いたしますの!?
まだ私は4歳とはいえ、私のオリバー様への恋心は本物ですのに!!
お姉様が生まれてから12年経って生まれた私は、お父様とお母様にとって目に入れても痛くないほど可愛い娘で、それはお姉様にとってもそうで、私は家族全員から甘やかされて育ちました。
なんでも与えられてきた私にとって、望んでも手に入れられないものは初めてでした。
それから私は、オリバー様に振り向いてもらうべく、アピールを開始することにしました。
「オリバー様!」
遊びに来ているオリバー様の元に駆け寄り、お手紙をお渡しします。
「ラブレターを書きましたの」
オリバー様はあろうことか、ライバルであるソフィアお姉様の前で封筒からお手紙を取り出しました。
「エミリーはまだ4歳なのに、こんなに上手に字が書けるなんてすごいなぁ。僕の弟なんて6歳で、まともにアルファベットも書けないっていうのに」
字の上手さなど褒めてもらっても嬉しくありませんわ! 私が心を込めて書いた文字を読んでいただきたいですのに!!
幼稚舎から高等部まで、幾つも続く渡り廊下を走り抜け、オリバー様に手作りのサンドイッチ をお届けに行ったこともありました。
「オリバー様……」
いったい、オリバー様の教室はどこかしら?
きょろきょろしていると、
「わぁ、可愛いらしいですわ!!」
大勢の人に囲まれてしまいました。
「幼稚舎はずっと端の校舎ですわよ。こんなところに何をしにいらしたの?」
「あ、あの……」
すると、ひとりの女の人が声を上げました。
「思い出しましたわ。この娘、ソフィア様の妹君よ。以前、パーティーでお見かけしたことがありますわ」
「まぁ、ソフィア様の……確かに、お姉様に似て可愛らしいお顔立ちですわ」
皆が私に顔を寄せてきます。
こ、こわいですわ……オリバー様……
「あ、ソフィア様がいらしたわ! ソフィア様、妹君が来られていますわよ」
ソフィアお姉様!
嬉々として顔を上げると、ソフィアお姉様の隣をオリバー様が歩いていらっしゃいました。
「まぁ、エミリー、いったいどうなさったの? まさか、幼稚舎からここまで歩いていらしたの!?」
ソフィアお姉様が驚いて駆け寄りました。
「私……オリバー様に、ランチをお届けしたくて」
持ってきたサンドイッチの包みを差し出すと、オリバー様が困ったような表情をされました。
「ありがとう、エミリー。でも、残念だけどもうランチはソフィアと済ませてしまったんだ」
「そう、ですの……」
「だから」
そう言って、オリバー様が私の手から包みを受け取りました。
「これは、授業が終わってから食べさせてもらってもいいかな?」
「えぇ、もちろんですわ」
にっこりと返事をしようとして、ハッといたしました。
落とさないようにとしっかり胸に抱いていた包みが、押し潰されてしまっていたからです。きっと、中に入っているサンドイッチも酷い状態になっているに違いありません。
「オ、オリバー様! やっぱり、返して下さいませ!!」
「なんでだい?」
「だ、だって……サンドイッチが、潰れてしまいましたわ……」
せっかく、オリバー様のために早起きして、頑張って作りましたのに……
けれど、オリバー様はサンドイッチを返すことなく、俯いている私の頭を撫でてくださいました。
「エミリーが頑張って作ってくれたものだろう? 嬉しいよ」
そして、オリバー様が手を差し出しました。
「もう昼休みが終わってしまう。エミリーの足では時間までに幼稚舎に辿り着かないだろう。僕が、君を送り届けてもいいかな?」
顔を真っ赤にして頷くと、オリバー様は私を横抱きに……お姫様抱っこをしてくださいました。
「すまない、ソフィア。先生には、僕が授業に遅れることを伝えておいてもらえるかな?」
「えぇ、分かりましたわ。オリバー様、エミリーをよろしくお願いいたします」
「あぁ」
微笑み合うソフィアお姉様とオリバー様を間近にして、胸がキュンと痛みます。
こんなの、いつものことですのに……
それでも、私はオリバー様が好きなのですから、振り向いてもらえるように頑張りますわ。
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