アナスタシアお姉様にシンデレラの役を譲って王子様と幸せになっていただくつもりでしたのに、なぜかうまくいきませんわ。どうしてですの?

奏音 美都

文字の大きさ
上 下
39 / 41

シンデレラの抵抗

しおりを挟む
 私が両手を口に当てて感激していますと、シンデレラが割り込んできました。

「ちょっと、さっきから黙って聞いてりゃ勝手なことばっかり言ってんじゃないわよ! これじゃ、『シンデレラ』のお話にならないじゃない!
 私こそが王子様の結婚相手、シンデレラなのよ!!」

 私はハァと短く息を吐きました。

「『シンデレラ』のお話をねじ曲げたのは、私ではなく、シンデレラ、貴女ご自身ではなくて? 貴女はシンデレラとしての役割をまったくこなしていませんでしたわ。すべての家事を放棄し、動物さんたちを蔑ろにし、お母様やお姉さま方に逆らい、陰謀に陥れました。
 そして、シンデレラ。貴女は王子様その人ではなく、地位や財産でしか王子様を見ることができませんでした。それこそが何より、貴女が王子様と結ばれることができなかった原因ですわ」
「うっ……な、何よ! あんたなんか醜女のくせに!! 私はあんたより、百倍も千倍も美しいのよ!! その私が、なんであんたなんかに王子様を奪われなくちゃいけないのよ!!」

 かつてこの容姿はシンデレラのものであったのに、そんなことを言ってしまうシンデレラを悲しく思いました。

 すると、王子様がシンデレラに申し訳なさそうに告げました。

「すまない。私は君に、いっさいの恋愛感情をもつことができない。
 たとえ君の容姿が美しくても、私の心が君に惹かれることはなかった。僕はシンデレラの容姿だけに惹かれたんじゃない。優しく、愛情深く、慈悲があり、賢くて知識に溢れ、そして芯の強さと決断力と行動力も兼ね備えた魅力的な女性だからこそ、私は彼女を愛したんだ。
 君は、容姿はシンデレラではあっても、僕が求めるシンデレラじゃないんだ」
「なにふざけたこと言ってんの!? 結婚式は明日なのよ!! こんなこと、許されるはずないわ!!
 こうなったら、近衛兵を呼んでやるわっ!!」

 シンデレラはベッドへと駆け寄ると、その脇にある紐を引っ張りました。

 ジリリリリリリ……

 けたたましいベルがお城中に鳴り響き、すぐに大勢の足音がこの部屋目指して近づいてきます。

「何事ですか!? あ、こいつめ!!」

 開け放した扉から騎兵隊長が入ると私を目にし、途端に腕を掴んでギリギリと締め上げました。

「ウッ、痛っっ……!」
「やめるんだ!!」

 王子様が止めようとしますが、騎兵隊長は力を緩めません。
 
「王太子殿下! この女は妃となるシンデレラの暗殺を企てていた罪人です!! きさまぁ、塔に閉じこめておいたのに、どうやって脱出したんだ!!」
「ッグ……」

 王子様が騎兵隊長の腰元から剣をスルリと引き抜き、彼の喉元に寄せました。

「やめろと言っているんだ」
「お、王太子殿下……」

 騎兵隊長が真っ青な顔で見上げ、私を解放しました。王子様が私の腕を取り、胸元へ引き寄せます。

「大丈夫か?」
「ぇ。えぇ……」

 私と王子様のやりとりに、騎兵隊長だけでなく、その場にいた近衛兵全員が唖然としています。その様子に、アナスタシアが怒声をあげました。

「何、ボーッと突っ立ってんのよ! 私を殺そうとしたアナスタシアを今すぐ引っ捕らえなさい!! 私の命令が聞けないの!?」

 王子様がスッと腕を横に伸ばして近衛兵を制しながら、視線をシンデレラに向けます。

「シンデレラ、君はもう私の婚約者ではない。君に、近衛兵に命令する権限などない。
 そのうえ、アナスタシアが君を殺そうとしているという虚言を吐き、私に黙って塔に牢獄したなど……許されることではないと、分かっているのか?」

 王子様が怒りで肩をいからせると、騎兵隊長に命じました。

「シンデレラを、塔に牢獄せよ」
「ちょ、ちょっと……」

 シンデレラの顔が青褪めます。

「お待ちください! どうか、どうか……シンデレラをお許しくださいませ。元はと言えば、私も悪いのです。王子様のお心が知りたくて、役を交代してしまったことで王子様を混乱に陥れてしまいました。
 シンデレラ、いえ……アナスタシアは、ただ……王子様という理想の男性に憧れ、恋をして、振り向かせたかっただけなのです。
 どうか、お許しくださいませ……」

 シンデレラには酷いことをされましたけれど、私にはどうしても彼女を憎むことはできませんでした。彼女もまた、私と同じように王子様に愛されたかったのです。

 王子様が短く息を吐くと、私に頷きました。

「……分かった。慈悲と愛情深さを感じ、やはり君が僕が求めていた女性なのだと確信したよ。
 騎兵隊長、シンデレラを家に送り返してやってくれ」
「承知いたしました」

 騎兵隊長がシンデレラの腕を取ります。

「ちょ、ちょっと待ってよ、いやーっっ!!」

 シンデレラは抵抗しましたが、がたいがよく、腕っぷしの強い騎兵隊長に敵うはずありません。シンデレラは騎兵隊長に連れらて行きました。
 
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

異世界の神は毎回思う。なんで悪役令嬢の身体に聖女級の良い子ちゃんの魂入れてんのに誰も気付かないの?

下菊みこと
恋愛
理不尽に身体を奪われた悪役令嬢が、その分他の身体をもらって好きにするお話。 異世界の神は思う。悪役令嬢に聖女級の魂入れたら普通に気づけよと。身体をなくした悪役令嬢は言う。貴族なんて相手のうわべしか見てないよと。よくある悪役令嬢転生モノで、ヒロインになるんだろう女の子に身体を奪われた(神が勝手に与えちゃった)悪役令嬢はその後他の身体をもらってなんだかんだ好きにする。 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】己の行動を振り返った悪役令嬢、猛省したのでやり直します!

みなと
恋愛
「思い出した…」 稀代の悪女と呼ばれた公爵家令嬢。 だが、彼女は思い出してしまった。前世の己の行いの数々を。 そして、殺されてしまったことも。 「そうはなりたくないわね。まずは王太子殿下との婚約解消からいたしましょうか」 冷静に前世を思い返して、己の悪行に頭を抱えてしまうナディスであったが、とりあえず出来ることから一つずつ前世と行動を変えようと決意。 その結果はいかに?! ※小説家になろうでも公開中

完結)余りもの同士、仲よくしましょう

オリハルコン陸
恋愛
婚約者に振られた。 「運命の人」に出会ってしまったのだと。 正式な書状により婚約は解消された…。 婚約者に振られた女が、同じく婚約者に振られた男と婚約して幸せになるお話。 ◇ ◇ ◇ (ほとんど本編に出てこない)登場人物名 ミシュリア(ミシュ): 主人公 ジェイソン・オーキッド(ジェイ): 主人公の新しい婚約者

悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。 二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。 けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。 ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。 だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。 グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。 そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。

婚約破棄されたので、契約不履行により、秘密を明かします

tartan321
恋愛
婚約はある種の口止めだった。 だが、その婚約が破棄されてしまった以上、効力はない。しかも、婚約者は、悪役令嬢のスーザンだったのだ。 「へへへ、全部話しちゃいますか!!!」 悪役令嬢っぷりを発揮します!!!

辺境伯令嬢が婚約破棄されたので、乳兄妹の守護騎士が激怒した。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。  王太子の婚約者で辺境伯令嬢のキャロラインは王都の屋敷から王宮に呼び出された。王太子との大切な結婚の話だと言われたら、呼び出しに応じないわけにはいかなかった。  だがそこには、王太子の側に侍るトライオン伯爵家のエミリアがいた。

【完結】婚約破棄中に思い出した三人~恐らく私のお父様が最強~

かのん
恋愛
どこにでもある婚約破棄。 だが、その中心にいる王子、その婚約者、そして男爵令嬢の三人は婚約破棄の瞬間に雷に打たれたかのように思い出す。 だめだ。 このまま婚約破棄したらこの国が亡びる。 これは、婚約破棄直後に、白昼夢によって未来を見てしまった三人の婚約破棄騒動物語。

悪役令嬢はざまぁされるその役を放棄したい

みゅー
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生していたルビーは、このままだとずっと好きだった王太子殿下に自分が捨てられ、乙女ゲームの主人公に“ざまぁ”されることに気づき、深い悲しみに襲われながらもなんとかそれを乗り越えようとするお話。 切ない話が書きたくて書きました。 転生したら推しに捨てられる婚約者でした、それでも推しの幸せを祈りますのスピンオフです。

処理中です...