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シンデレラの抵抗
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私が両手を口に当てて感激していますと、シンデレラが割り込んできました。
「ちょっと、さっきから黙って聞いてりゃ勝手なことばっかり言ってんじゃないわよ! これじゃ、『シンデレラ』のお話にならないじゃない!
私こそが王子様の結婚相手、シンデレラなのよ!!」
私はハァと短く息を吐きました。
「『シンデレラ』のお話をねじ曲げたのは、私ではなく、シンデレラ、貴女ご自身ではなくて? 貴女はシンデレラとしての役割をまったくこなしていませんでしたわ。すべての家事を放棄し、動物さんたちを蔑ろにし、お母様やお姉さま方に逆らい、陰謀に陥れました。
そして、シンデレラ。貴女は王子様その人ではなく、地位や財産でしか王子様を見ることができませんでした。それこそが何より、貴女が王子様と結ばれることができなかった原因ですわ」
「うっ……な、何よ! あんたなんか醜女のくせに!! 私はあんたより、百倍も千倍も美しいのよ!! その私が、なんであんたなんかに王子様を奪われなくちゃいけないのよ!!」
かつてこの容姿はシンデレラのものであったのに、そんなことを言ってしまうシンデレラを悲しく思いました。
すると、王子様がシンデレラに申し訳なさそうに告げました。
「すまない。私は君に、いっさいの恋愛感情をもつことができない。
たとえ君の容姿が美しくても、私の心が君に惹かれることはなかった。僕はシンデレラの容姿だけに惹かれたんじゃない。優しく、愛情深く、慈悲があり、賢くて知識に溢れ、そして芯の強さと決断力と行動力も兼ね備えた魅力的な女性だからこそ、私は彼女を愛したんだ。
君は、容姿はシンデレラではあっても、僕が求めるシンデレラじゃないんだ」
「なにふざけたこと言ってんの!? 結婚式は明日なのよ!! こんなこと、許されるはずないわ!!
こうなったら、近衛兵を呼んでやるわっ!!」
シンデレラはベッドへと駆け寄ると、その脇にある紐を引っ張りました。
ジリリリリリリ……
けたたましいベルがお城中に鳴り響き、すぐに大勢の足音がこの部屋目指して近づいてきます。
「何事ですか!? あ、こいつめ!!」
開け放した扉から騎兵隊長が入ると私を目にし、途端に腕を掴んでギリギリと締め上げました。
「ウッ、痛っっ……!」
「やめるんだ!!」
王子様が止めようとしますが、騎兵隊長は力を緩めません。
「王太子殿下! この女は妃となるシンデレラの暗殺を企てていた罪人です!! きさまぁ、塔に閉じこめておいたのに、どうやって脱出したんだ!!」
「ッグ……」
王子様が騎兵隊長の腰元から剣をスルリと引き抜き、彼の喉元に寄せました。
「やめろと言っているんだ」
「お、王太子殿下……」
騎兵隊長が真っ青な顔で見上げ、私を解放しました。王子様が私の腕を取り、胸元へ引き寄せます。
「大丈夫か?」
「ぇ。えぇ……」
私と王子様のやりとりに、騎兵隊長だけでなく、その場にいた近衛兵全員が唖然としています。その様子に、アナスタシアが怒声をあげました。
「何、ボーッと突っ立ってんのよ! 私を殺そうとしたアナスタシアを今すぐ引っ捕らえなさい!! 私の命令が聞けないの!?」
王子様がスッと腕を横に伸ばして近衛兵を制しながら、視線をシンデレラに向けます。
「シンデレラ、君はもう私の婚約者ではない。君に、近衛兵に命令する権限などない。
そのうえ、アナスタシアが君を殺そうとしているという虚言を吐き、私に黙って塔に牢獄したなど……許されることではないと、分かっているのか?」
王子様が怒りで肩をいからせると、騎兵隊長に命じました。
「シンデレラを、塔に牢獄せよ」
「ちょ、ちょっと……」
シンデレラの顔が青褪めます。
「お待ちください! どうか、どうか……シンデレラをお許しくださいませ。元はと言えば、私も悪いのです。王子様のお心が知りたくて、役を交代してしまったことで王子様を混乱に陥れてしまいました。
シンデレラ、いえ……アナスタシアは、ただ……王子様という理想の男性に憧れ、恋をして、振り向かせたかっただけなのです。
どうか、お許しくださいませ……」
シンデレラには酷いことをされましたけれど、私にはどうしても彼女を憎むことはできませんでした。彼女もまた、私と同じように王子様に愛されたかったのです。
王子様が短く息を吐くと、私に頷きました。
「……分かった。慈悲と愛情深さを感じ、やはり君が僕が求めていた女性なのだと確信したよ。
騎兵隊長、シンデレラを家に送り返してやってくれ」
「承知いたしました」
騎兵隊長がシンデレラの腕を取ります。
「ちょ、ちょっと待ってよ、いやーっっ!!」
シンデレラは抵抗しましたが、がたいがよく、腕っぷしの強い騎兵隊長に敵うはずありません。シンデレラは騎兵隊長に連れらて行きました。
「ちょっと、さっきから黙って聞いてりゃ勝手なことばっかり言ってんじゃないわよ! これじゃ、『シンデレラ』のお話にならないじゃない!
私こそが王子様の結婚相手、シンデレラなのよ!!」
私はハァと短く息を吐きました。
「『シンデレラ』のお話をねじ曲げたのは、私ではなく、シンデレラ、貴女ご自身ではなくて? 貴女はシンデレラとしての役割をまったくこなしていませんでしたわ。すべての家事を放棄し、動物さんたちを蔑ろにし、お母様やお姉さま方に逆らい、陰謀に陥れました。
そして、シンデレラ。貴女は王子様その人ではなく、地位や財産でしか王子様を見ることができませんでした。それこそが何より、貴女が王子様と結ばれることができなかった原因ですわ」
「うっ……な、何よ! あんたなんか醜女のくせに!! 私はあんたより、百倍も千倍も美しいのよ!! その私が、なんであんたなんかに王子様を奪われなくちゃいけないのよ!!」
かつてこの容姿はシンデレラのものであったのに、そんなことを言ってしまうシンデレラを悲しく思いました。
すると、王子様がシンデレラに申し訳なさそうに告げました。
「すまない。私は君に、いっさいの恋愛感情をもつことができない。
たとえ君の容姿が美しくても、私の心が君に惹かれることはなかった。僕はシンデレラの容姿だけに惹かれたんじゃない。優しく、愛情深く、慈悲があり、賢くて知識に溢れ、そして芯の強さと決断力と行動力も兼ね備えた魅力的な女性だからこそ、私は彼女を愛したんだ。
君は、容姿はシンデレラではあっても、僕が求めるシンデレラじゃないんだ」
「なにふざけたこと言ってんの!? 結婚式は明日なのよ!! こんなこと、許されるはずないわ!!
こうなったら、近衛兵を呼んでやるわっ!!」
シンデレラはベッドへと駆け寄ると、その脇にある紐を引っ張りました。
ジリリリリリリ……
けたたましいベルがお城中に鳴り響き、すぐに大勢の足音がこの部屋目指して近づいてきます。
「何事ですか!? あ、こいつめ!!」
開け放した扉から騎兵隊長が入ると私を目にし、途端に腕を掴んでギリギリと締め上げました。
「ウッ、痛っっ……!」
「やめるんだ!!」
王子様が止めようとしますが、騎兵隊長は力を緩めません。
「王太子殿下! この女は妃となるシンデレラの暗殺を企てていた罪人です!! きさまぁ、塔に閉じこめておいたのに、どうやって脱出したんだ!!」
「ッグ……」
王子様が騎兵隊長の腰元から剣をスルリと引き抜き、彼の喉元に寄せました。
「やめろと言っているんだ」
「お、王太子殿下……」
騎兵隊長が真っ青な顔で見上げ、私を解放しました。王子様が私の腕を取り、胸元へ引き寄せます。
「大丈夫か?」
「ぇ。えぇ……」
私と王子様のやりとりに、騎兵隊長だけでなく、その場にいた近衛兵全員が唖然としています。その様子に、アナスタシアが怒声をあげました。
「何、ボーッと突っ立ってんのよ! 私を殺そうとしたアナスタシアを今すぐ引っ捕らえなさい!! 私の命令が聞けないの!?」
王子様がスッと腕を横に伸ばして近衛兵を制しながら、視線をシンデレラに向けます。
「シンデレラ、君はもう私の婚約者ではない。君に、近衛兵に命令する権限などない。
そのうえ、アナスタシアが君を殺そうとしているという虚言を吐き、私に黙って塔に牢獄したなど……許されることではないと、分かっているのか?」
王子様が怒りで肩をいからせると、騎兵隊長に命じました。
「シンデレラを、塔に牢獄せよ」
「ちょ、ちょっと……」
シンデレラの顔が青褪めます。
「お待ちください! どうか、どうか……シンデレラをお許しくださいませ。元はと言えば、私も悪いのです。王子様のお心が知りたくて、役を交代してしまったことで王子様を混乱に陥れてしまいました。
シンデレラ、いえ……アナスタシアは、ただ……王子様という理想の男性に憧れ、恋をして、振り向かせたかっただけなのです。
どうか、お許しくださいませ……」
シンデレラには酷いことをされましたけれど、私にはどうしても彼女を憎むことはできませんでした。彼女もまた、私と同じように王子様に愛されたかったのです。
王子様が短く息を吐くと、私に頷きました。
「……分かった。慈悲と愛情深さを感じ、やはり君が僕が求めていた女性なのだと確信したよ。
騎兵隊長、シンデレラを家に送り返してやってくれ」
「承知いたしました」
騎兵隊長がシンデレラの腕を取ります。
「ちょ、ちょっと待ってよ、いやーっっ!!」
シンデレラは抵抗しましたが、がたいがよく、腕っぷしの強い騎兵隊長に敵うはずありません。シンデレラは騎兵隊長に連れらて行きました。
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