アナスタシアお姉様にシンデレラの役を譲って王子様と幸せになっていただくつもりでしたのに、なぜかうまくいきませんわ。どうしてですの？

サミュエル様から婚約破棄されましたわ

　帰りの馬車の中、私は針の筵でした。

「もーっ、信じらんない！！あんたがシンデレラの手助けなんかするから、あいつが王子様の花嫁になったんじゃない！！　あの時のシンデレラのしたり顔、思い出すだけで腹が立つわ、キーッッ！！」

　ドリゼラお姉様が怒りを爆発させます。
　
「まさか、貴女が裏切っていたとはね」

　お母様の冷たい視線に射抜かれて、心臓がドクンッと跳ねました。そこには、実の娘への愛情など、欠片もありませんでした。

　やはりお母様にとって私は、王侯貴族に嫁がせ、自分が贅沢をするための道具でしかないのですのね……

　家へ帰り、傷心を引き摺って自室へ戻ると、ベッドの上に腰掛けて深く沈みます。

　王子様に、嫌われてしまいましたわ……

　あの時の王子様の蔑んだ眼差し、嫌悪の表情を思い出し、再び涙が溢れます。

「ｳｯ……ｳｩｯ……ｯｸﾞ」

　ベッドに崩れ落ち、肩を大きく震わせます。

　王子様の花嫁になれなくても、友人になれるのなら幸せだと思っていたのに……
　それが、こんな結果になるなんて。

　私は一晩中、王子様を想って泣き明かしました。

　けれど、悲劇はここからが始まりでした。

　翌日、クローバー男爵からの使いの方がやって来られ、婚約破棄を申し渡したのです。そこには、サミュエル様からのお手紙が添えられていました。

　私のことなど好きではなかったけれど、なかなか後家に入ってくださる方が見つからず、トレメイン夫人の息女である私であれば金銭に物を言わせて娶ることができると聞き、求婚したということ。私の容姿についての罵詈雑言が書かれ、最後に「王太子殿下と親しくなったと聞いて近づいたのに、王太子殿下から城内への立ち入りを禁じられるだなんて、とても婚姻は考えられない。婚約破棄する」と結ばれていました。

　サミュエル様との婚約が破棄となって安堵したものの、私たち一家が城内立入禁止令を出されたことがこれほど早くクローバー男爵のお耳に入ってしまったことに驚愕いたしました。

　きっと……もう、大勢の方が知っていらっしゃるのでしょうね。

　サミュエル様との婚約破棄をお伝えすると、お母様が激昂しました。

「アナスタシア、こちらへ来なさい」
「はい、お母様」

　お母様は屋根裏部屋へと続く扉を開き、階段を上っていきます。私の胸がざわざわと騒めきます。

　階段を上り切ると、お母様が屋根裏部屋の扉を開けました。

「アナスタシア、貴女の部屋は今日からここです。これからは召使いとして働くのよ」
「は、い……」

　やっぱり……

　そうでなければいいと願っていた、予想通りの結果が訪れました。ベッドに座ると私を包んで沈み込むことなく、冷たく硬い感触がお尻に当たります。

　また私……シンデレラの生活に戻りましたのね。
　けれど、今はもっと……孤独ですわ。

　フゥ……と大きな溜息を吐くと、壁の穴からねずみさんたちがやってきて「チューチュー」と慰めるように呼び掛けてくださいました。

「ありがとう……」