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どうか、王子様に届きますように

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 本日、『王子様を慰めるためのパーティー』が行われるのは、舞踏会が行われた大ホールではなく、20人程度が集まるための小ホールでした。

 舞踏会よりも人が少ないとはいえ、高級貴族や各界の著名人の方々、そしてなにより王子様の前で歌を披露するなんて、緊張しますわ。私に、できるでしょうか……

 不安を募らせていると、後ろからお声をかけられました。

「やぁ、アナスタシア。貴女も招待されていたのですか」
「リスティー様」

 振り向いた先にいたリスティー様はいつもお見受けするように大人で、落ち着いていらして、そのお姿を見ているだけで安堵が広がっていきます。

「あぁ、良かったですわ……リスティー様がいらして」
「こちらこそ光栄です。また、伴奏をして差し上げますよ」
「心強いですわ」

 他にもサロンや演劇、講演会の時にお会いした方々にお声をかけていただき、緊張がほぐれていきます。これも、縁を広げてくださったヴェンテーヌ夫人のお陰ですわ。

 その時、臣下の方が上座に椅子を2脚置かれました。

「国王陛下、ならびに王太子殿下のおなーりー」

 王子様だけでなく国王様までいらっしゃり、その場にいた全員が緊張に包まれ、最敬礼をいたしました。

 国王陛下が軽く手を振ります。

「堅苦しい挨拶はよい。皆の者、本日は忙しい中王子のためによう来てくれた。皆も知っての通り、ガラスの靴の持ち主の捜索は困難を極め、いまだその靴が合う娘が見つかっておらぬ。落胆する王子の気持ちを少しでも明るくするため、皆の協力を頼むぞ」

 国王様の隣に立つ王子様は、力なく微笑まれました。

「皆に迷惑をかけてすまない。父君が私を心配して、どうしてもと聞かぬのでな。
 今日は、皆にも楽しんでもらえたら嬉しい」

 シンデレラのことに浮き身を窶して、お元気をなくされた王子様……私が少しでもお慰めできたらいいですのに。

 その後、王子様のために喜劇やオペラ、詩の朗読、エキゾチックなダンス等が披露されましたけれど、王子様は儀礼的に鑑賞し、お礼を述べるものの、どれにも心動かされる様子は見せませんでした。

 進行役の臣下の方が私を見つめます。

「では続いて、トレメイン夫人のご息女のアナスタシア嬢による歌唱。伴奏は、リスティー・フランシスカ殿」

 リスティー様が私の手を取り、ピアノの隣へとエスコートくださいます。王子様が私を目で追っているのが伝わり、心臓が破裂しそうほどにドキドキいたします。

 失敗を恐れることよりも……王子様のお心深くに私の思いが届くようにと願い、この歌をお届けいたしますわ。

 リスティー様の指が鍵盤の上に置かれ、目で合図なさいました。美しい旋律がホールに響きます。 
 
「歌ぇぇナイチンゲール♪ 可愛いぃナイチンゲール♪ 
 ああああ~♪」

 王子様の顔がハッとしました。

 気づきましたのでしょうか。

 この歌は、私が王子様と婚姻を結び、お城で暮らすようになってからも歌っていた、お気に入りの曲。王子様も「この歌が好きだ」と私に仰ってくださった。

 王子様の記憶は消えてしまわれたかもしれないけれど、「好き」という気持ちは変わることはないはず。
 どうか、どうか届いて……

 歌い終わると、拍手がおこりました。王子様も私を見つめ、拍手してくださいました。ドレスの裾を摘み、お辞儀しながら瞳の奥が熱くなりました。

 もうこれで……王子様とお会いすることは、ありませんのね。
 
 皆の披露が終わりますと、国王様から招待客にお食事が振る舞われました。

 長テーブルでの着席スタイルではなく、「スモーガスボード」での立食形式でした。たくさんの種類のパンが山のように置かれ、ローストビーフ、ハム、ソーセージ、レバーペースト、ミートボール、ニシンの酢漬け、サケのマリネ、アンチョビ、キャビア、チーズ、ピクルスといった具材が所狭しと並べられています。

 家で食べることのない食材ばかりですわ……

 お皿を手にどれを取ろうかと迷っていると、王子様が私に向かって歩いてきます。

 慌ててお皿を置き、敬礼しようとすると、王子様が手で制しました。

「先日の舞踏会では、靴を拾ってくれてありがとう。あの時のお礼が言いたかったんだ」

 それで、本日の集まりにご招待くださいましたの?

「いえ、そんな……お礼など」

 本当はガラスの靴の持ち主であるシンデレラがどこにいるのか分かっていますのに、それを黙っていることに罪悪感を覚えます。

「ちょっと、外に出ないか」

 王子様に誘われ、驚きながらも頷きました。
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