アナスタシアお姉様にシンデレラの役を譲って王子様と幸せになっていただくつもりでしたのに、なぜかうまくいきませんわ。どうしてですの?

奏音 美都

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シンデレラがガラスの靴を履きましたわ

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「ハァッ、ハァッ、ハァッ……ック」

 痛い……痛い、けれど……私がやらなければ。
 早く、シンデレラの元へ……

 痛みを抑えて階段を上っていきます。息が上がり、頭がクラクラします。

「ぁと……もう、少し……ハァッ」

 時間が、ありませんわ。

 ようやく階段を上り切りましたが、扉の向こうからは何も聞こえてきません。

 扉に寄りかかり、シンデレラに声を掛けます。

「シン、デレラ……」
「……ぇ。アナ、スタシア? アナスタシアなの!?」

 大声を上げたシンデレラに「シーッ」と、声を潜めるように言います。

「今、鍵を……」

 扉の隙間から鍵を差し入れると、シンデレラが受け取りました。

 ガチャガチャッと音が響き、扉が開きます。

「ありがとー! シンデ……アナスタシア!!
 あんたは私の恩人よ!!」

 シンデレラが私に飛びつきます。

「さぁ、急いで。大公様が帰られる前に」
「分かったわ!」

 シンデレラがガニ股で階段を大急ぎで下りていきました。

 これで、いい。
 これでいいのですわ……

 これで、シンデレラと王子様はいつまでも幸せに……暮らしていけるのですわ。

 ふと、開いた屋根裏部屋を見回しますと……そこには、ガラスの靴が置かれていました。

 まぁ、大変! これがなければシンデレラが舞踏会の時のあの娘だと証明するものがありませんわ!!

 その時、シンデレラの声が響いてきました。

「大公様、お待ちを!! お待ちを!!
 私、私にもガラスの靴を履かせて!!」

 あぁ、急がなければなりませんわ……

 私はガラスの靴を手に取り、再びジンジンと痛む足を堪えながら階段を下りていきました。

 階段を下りていくと……

 あぁ、なんてことでしょう。

 椅子に掛けるシンデレラの元へとガラスの靴を運ぼうとする従者の足元へお母様が杖を出して引っ掛け、従者は躓いてガラスの靴が飛び、床に落ちて粉々に割れてしまいました。

 大公様が床へダイブし、粉々になったガラスの靴を掻き集めます。

「そ、そんな……あぁ、なんてことだぁ……割れてしまったぁ!! あぁ、大変なことになった……陛下は、なんと言われるか」

 悲愴な様子で嘆かれる大公様に、お母様がニヤリと微笑みました。

 その隙をつき、私はシンデレラに忍び寄ると、ドレスのポケットからそっとガラスの靴を取り出し、シンデレラに渡しました。

 シンデレラが「ぁ」と小さく叫ぶと頷き、エプロンのポケットにガラスの靴を入れます。

 大公様が膝立ちになり、ご自分の首に手を掛けながら叫びます。

「国王陛下は、きっとこの首を撥ねられる~っっ!!」

 シンデレラがにっこりと笑います。

「大丈夫です、大公様」
「もう、だめだぁ。一巻の終わりだぁ」

 大公様は床に崩れ落ち、涙を流します。

 そんな大公様に、シンデレラがしたり顔でガラスの靴をポケットから取り出すと、彼に差し出しました。

「私……もう片方、持ってるんです!」

 差し出されたガラスの靴を手に、大公様が感激の表情を浮かべられました。それとは逆に、お母様は驚きと憤怒の表情でガラスの靴を見つめます。

 大公様がシンデレラの足にガラスの靴を履かせました。

 当然、ガラスの靴はシンデレラの足に吸い付くようにぴったりと合いました。

「う、嘘っっ!! こんなの、絶対嘘よ!!
 ねぇ、お母様ぁ。なんとかしてよー!!」

 悔しがるドリゼラお姉様がお母様に訴えますが、お母様はあまりのショックに言葉も出ないようです。

 大公様が満足そうに微笑みます。

「この娘こそが、国王陛下、ならび王太子殿下が求めていた娘だ!」
「なん、て……ことでしょう」

 お母様が立ち眩みを覚え、手を額に当て、よろよろと後退りしました。

「はい。私こそがあの時、舞踏会で王子様と踊った娘ですわ」

 シンデレラは嵌ったガラスの靴を誇らしげに見せびらかしました。

「そうか、名はなんと申す?」
「シンデレラと申します」
「よし。ではシンデレラ、国王陛下の命により、そなたをこれから王宮へと連れてまいる。よいな」
「もちろんですわ」

 シンデレラはにっこりと微笑んだ。

「何か、持っていきたい物があれば、今すぐ持ってくるように」
「いいえ。何もありませんわぁ。必要なものは、王子様にすべて買っていただきますものぉ」

 大公様にそう答えると、シンデレラは嬉しそうに満面の笑みを浮かべました。

「では、行くぞ」
「ではお母様、お姉様方、ご機嫌よう♪」

 シンデレラはニヤッと笑うとくるりと背を向けました。

 大公様のエスコートにより、シンデレラは馬車に乗せられ、去って行きました。窓から馬車を見送ります。  

 これで……いいんですわよ、ね。

 さようなら、シンデレラ。
 さようなら……プリンス・チャーミング。

 どうか、お幸せに……
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