27 / 41
シンデレラが、お母様に閉じ込められてしまいましたわ
しおりを挟む
噂では、大公様のご一行はだいぶこちらに向かっており、今日にでも私たちの住む地方にいらっしゃるのではないかと言われていました。
そんな中、私は恐れていた事態に直面しました。
シンデレラは舞踏会で流れていたワルツを口ずさみながら踊っていました。そんなシンデレラの後ろにはお母様が立っていらして、不気味に光る目が、悪どく彼女をじっと見つめています。
「おか……さま」
あまりの恐ろしい表情を前に、喉から声が上手く出せません。
お母様の目が細められました。屋根裏部屋へと続く扉を開けて軽やかに上っていくシンデレラの後を、こっそりつけていきます。
お、お母様……お待ちになって!!
足が強張り、動くのを拒絶します。それでもなんとか気持ちを奮い立たせ、お母様の後を追いかけました。一歩、一歩、階段を上るたびに心臓がバクン、バクンと波打ちます。
下から見上げるお母様の動きは、まるで獲物を追い詰める猛獣のようです。屋根裏部屋からは、ご機嫌で歌うシンデレラの声が聞こえています。
あぁ、シンデレラ……お母様がすぐ後ろに!!
どうか、気付いて!!
お母様が階段を上がりきり、扉にそっと忍び寄ります。扉の内側に刺さっていた鍵を回してロックすると鍵を抜き取り、扉を閉めてしまいました。
バン、バン、バンッ!!
扉を閉められたことに気付いたシンデレラが、扉が壊れんばかりの勢いで叩きます。
「ちょっ、何すんのよ! 開けて、開けてー!! これからガラスの靴を履いて、王子様の花嫁になるんだからー!!」
お母様はシンデレラの叫び声を聞いてニヤリと笑うと、鍵をドレスのポケットに入れ、階段を下りて行きます。
ぁ、このままでは……お母様と鉢合わせしてしまいますわ。
慌てて下りようとしたのですけれど……
「アナスタシア、こんなところで何をしているのです?」
「お、お母様こそ……何を」
上擦った声で、尋ねました。
すると、お母様が愉しそうな声を上げました。
「前々から不審に思っていましたが、どうやら舞踏会に現れたあの娘がシンデレラだということが分かったので、大公様がいらっしゃる前に閉じ込めておくことにしたのです。
シンデレラを幸せになど、するものですか」
お母様の悪意を感じ、ぞくりと背筋が震えました。
「どうしてお母様は、それほどまでに……シンデレラを憎んでいらっしゃるの?」
思わず、心の声が出てしまいました。
生みのお母様が亡くなっても、私はお父様さえ側にいてくだされば幸せでした。けれど、お父様は片親では私が可哀想だからと再婚する決意をなさったのです。私はお母様のことを思うと胸が苦しかったですけれど、お父様もまたそれで幸せになるのであればと了承いたしました。
お母様とお姉様方が増えて家族となり、私は幸せでした。けれど、お父様は贅沢な暮らしを望まれるお母様とお姉様方によって仕事を増やさねばならず、無理に無理を重ねられて……亡くなられました。
それでも私は、家族であるお母様のため、お姉様方のためにと一生懸命尽くしてきましたのに……どうして私は憎まれ、蔑まれなければならなかったのでしょうか。
お母様がポケットに手を入れて力を込め、苦しげな表情を浮かべました。
「私は……あの方と婚姻を結んでさえも、どれだけお金を散財して気を引こうとしても、あの方のお心を頂くことはできなかった。あの方の胸にあるのは……母親の面影を強く残したシンデレラだけ……」
お母様の告白に、胸が潰れる思いがしました。
あの方って、お父様のことですわよね……
お母様は、お父様のことを、愛してらしたの?
それで、母似である私のことを恨んで……
不条理だとは思いましたけれど、お母様の哀しみも伝わってきて、切なくなりました。
お母様がいつも通りの表情に戻り、凛と告げます。
「この屋根裏部屋には、大公様が帰られるまで誰も近づかないように。絶対に、シンデレラの存在を知られてはなりませんよ。分かりましたね、アナスタシア」
「は、い……お母様」
まだ屋根裏部屋の扉がバンバンと叩かれ、シンデレラの怒鳴り声が響いています。
「開けてー! もうっ、開けてよー!!
私は王子様と結婚する運命なんだからぁー!!」
複雑な気持ちで、屋根裏部屋へと続く扉がバタンと閉まるのを見つめました。
そんな中、私は恐れていた事態に直面しました。
シンデレラは舞踏会で流れていたワルツを口ずさみながら踊っていました。そんなシンデレラの後ろにはお母様が立っていらして、不気味に光る目が、悪どく彼女をじっと見つめています。
「おか……さま」
あまりの恐ろしい表情を前に、喉から声が上手く出せません。
お母様の目が細められました。屋根裏部屋へと続く扉を開けて軽やかに上っていくシンデレラの後を、こっそりつけていきます。
お、お母様……お待ちになって!!
足が強張り、動くのを拒絶します。それでもなんとか気持ちを奮い立たせ、お母様の後を追いかけました。一歩、一歩、階段を上るたびに心臓がバクン、バクンと波打ちます。
下から見上げるお母様の動きは、まるで獲物を追い詰める猛獣のようです。屋根裏部屋からは、ご機嫌で歌うシンデレラの声が聞こえています。
あぁ、シンデレラ……お母様がすぐ後ろに!!
どうか、気付いて!!
お母様が階段を上がりきり、扉にそっと忍び寄ります。扉の内側に刺さっていた鍵を回してロックすると鍵を抜き取り、扉を閉めてしまいました。
バン、バン、バンッ!!
扉を閉められたことに気付いたシンデレラが、扉が壊れんばかりの勢いで叩きます。
「ちょっ、何すんのよ! 開けて、開けてー!! これからガラスの靴を履いて、王子様の花嫁になるんだからー!!」
お母様はシンデレラの叫び声を聞いてニヤリと笑うと、鍵をドレスのポケットに入れ、階段を下りて行きます。
ぁ、このままでは……お母様と鉢合わせしてしまいますわ。
慌てて下りようとしたのですけれど……
「アナスタシア、こんなところで何をしているのです?」
「お、お母様こそ……何を」
上擦った声で、尋ねました。
すると、お母様が愉しそうな声を上げました。
「前々から不審に思っていましたが、どうやら舞踏会に現れたあの娘がシンデレラだということが分かったので、大公様がいらっしゃる前に閉じ込めておくことにしたのです。
シンデレラを幸せになど、するものですか」
お母様の悪意を感じ、ぞくりと背筋が震えました。
「どうしてお母様は、それほどまでに……シンデレラを憎んでいらっしゃるの?」
思わず、心の声が出てしまいました。
生みのお母様が亡くなっても、私はお父様さえ側にいてくだされば幸せでした。けれど、お父様は片親では私が可哀想だからと再婚する決意をなさったのです。私はお母様のことを思うと胸が苦しかったですけれど、お父様もまたそれで幸せになるのであればと了承いたしました。
お母様とお姉様方が増えて家族となり、私は幸せでした。けれど、お父様は贅沢な暮らしを望まれるお母様とお姉様方によって仕事を増やさねばならず、無理に無理を重ねられて……亡くなられました。
それでも私は、家族であるお母様のため、お姉様方のためにと一生懸命尽くしてきましたのに……どうして私は憎まれ、蔑まれなければならなかったのでしょうか。
お母様がポケットに手を入れて力を込め、苦しげな表情を浮かべました。
「私は……あの方と婚姻を結んでさえも、どれだけお金を散財して気を引こうとしても、あの方のお心を頂くことはできなかった。あの方の胸にあるのは……母親の面影を強く残したシンデレラだけ……」
お母様の告白に、胸が潰れる思いがしました。
あの方って、お父様のことですわよね……
お母様は、お父様のことを、愛してらしたの?
それで、母似である私のことを恨んで……
不条理だとは思いましたけれど、お母様の哀しみも伝わってきて、切なくなりました。
お母様がいつも通りの表情に戻り、凛と告げます。
「この屋根裏部屋には、大公様が帰られるまで誰も近づかないように。絶対に、シンデレラの存在を知られてはなりませんよ。分かりましたね、アナスタシア」
「は、い……お母様」
まだ屋根裏部屋の扉がバンバンと叩かれ、シンデレラの怒鳴り声が響いています。
「開けてー! もうっ、開けてよー!!
私は王子様と結婚する運命なんだからぁー!!」
複雑な気持ちで、屋根裏部屋へと続く扉がバタンと閉まるのを見つめました。
0
お気に入りに追加
171
あなたにおすすめの小説
お母様が国王陛下に見染められて再婚することになったら、美麗だけど残念な義兄の王太子殿下に婚姻を迫られました!
奏音 美都
恋愛
まだ夜の冷気が残る早朝、焼かれたパンを店に並べていると、いつもは慌ただしく動き回っている母さんが、私の後ろに立っていた。
「エリー、実は……国王陛下に見染められて、婚姻を交わすことになったんだけど、貴女も王宮に入ってくれるかしら?」
国王陛下に見染められて……って。国王陛下が母さんを好きになって、求婚したってこと!? え、で……私も王宮にって、王室の一員になれってこと!?
国王陛下に挨拶に伺うと、そこには美しい顔立ちの王太子殿下がいた。
「エリー、どうか僕と結婚してくれ! 君こそ、僕の妻に相応しい!」
え……私、貴方の妹になるんですけど?
どこから突っ込んでいいのか分かんない。
変な転入生が現れましたので色々ご指摘さしあげたら、悪役令嬢呼ばわりされましたわ
奏音 美都
恋愛
上流階級の貴族子息や令嬢が通うロイヤル学院に、庶民階級からの特待生が転入してきましたの。
スチュワートやロナルド、アリアにジョセフィーンといった名前が並ぶ中……ハルコだなんて、おかしな
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
断罪シーンを自分の夢だと思った悪役令嬢はヒロインに成り代わるべく画策する。
メカ喜楽直人
恋愛
さっきまでやってた18禁乙女ゲームの断罪シーンを夢に見てるっぽい?
「アルテシア・シンクレア公爵令嬢、私はお前との婚約を破棄する。このまま修道院に向かい、これまで自分がやってきた行いを深く考え、その罪を贖う一生を終えるがいい!」
冷たい床に顔を押し付けられた屈辱と、両肩を押さえつけられた痛み。
そして、ちらりと顔を上げれば金髪碧眼のザ王子様なキンキラ衣装を身に着けたイケメンが、聞き覚えのある名前を呼んで、婚約破棄を告げているところだった。
自分が夢の中で悪役令嬢になっていることに気が付いた私は、逆ハーに成功したらしい愛され系ヒロインに対抗して自分がヒロインポジを奪い取るべく行動を開始した。
氷のメイドが辞職を伝えたらご主人様が何度も一緒にお出かけするようになりました
まさかの
恋愛
「結婚しようかと思います」
あまり表情に出ない氷のメイドとして噂されるサラサの一言が家族団欒としていた空気をぶち壊した。
ただそれは田舎に戻って結婚相手を探すというだけのことだった。
それに安心した伯爵の奥様が伯爵家の一人息子のオックスが成人するまでの一年間は残ってほしいという頼みを受け、いつものようにオックスのお世話をするサラサ。
するとどうしてかオックスは真面目に勉強を始め、社会勉強と評してサラサと一緒に何度もお出かけをするようになった。
好みの宝石を聞かれたり、ドレスを着せられたり、さらには何度も自分の好きな料理を食べさせてもらったりしながらも、あくまでも社会勉強と言い続けるオックス。
二人の甘酸っぱい日々と夫婦になるまでの物語。
断罪されて婚約破棄される予定のラスボス公爵令嬢ですけど、先手必勝で目にもの見せて差し上げましょう!
ありあんと
恋愛
ベアトリクスは突然自分が前世は日本人で、もうすぐ婚約破棄されて断罪される予定の悪役令嬢に生まれ変わっていることに気がついた。
気がついてしまったからには、自分の敵になる奴全部酷い目に合わせてやるしか無いでしょう。
悪役令嬢より取り巻き令嬢の方が問題あると思います
蓮
恋愛
両親と死別し、孤児院暮らしの平民だったシャーリーはクリフォード男爵家の養女として引き取られた。丁度その頃市井では男爵家など貴族に引き取られた少女が王子や公爵令息など、高貴な身分の男性と恋に落ちて幸せになる小説が流行っていた。シャーリーは自分もそうなるのではないかとつい夢見てしまう。しかし、夜会でコンプトン侯爵令嬢ベアトリスと出会う。シャーリーはベアトリスにマナーや所作など色々と注意されてしまう。シャーリーは彼女を小説に出て来る悪役令嬢みたいだと思った。しかし、それが違うということにシャーリーはすぐに気付く。ベアトリスはシャーリーが嘲笑の的にならないようマナーや所作を教えてくれていたのだ。
(あれ? ベアトリス様って実はもしかして良い人?)
シャーリーはそう思い、ベアトリスと交流を深めることにしてみた。
しかしそんな中、シャーリーはあるベアトリスの取り巻きであるチェスター伯爵令嬢カレンからネチネチと嫌味を言われるようになる。カレンは平民だったシャーリーを気に入らないらしい。更に、他の令嬢への嫌がらせの罪をベアトリスに着せて彼女を社交界から追放しようともしていた。彼女はベアトリスも気に入らないらしい。それに気付いたシャーリーは怒り狂う。
「私に色々良くしてくださったベアトリス様に冤罪をかけようとするなんて許せない!」
シャーリーは仲良くなったテヴァルー子爵令息ヴィンセント、ベアトリスの婚約者であるモールバラ公爵令息アイザック、ベアトリスの弟であるキースと共に、ベアトリスを救う計画を立て始めた。
小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
ジャンルは恋愛メインではありませんが、アルファポリスでは当てはまるジャンルが恋愛しかありませんでした。
すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした
珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。
色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。
バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。
※全4話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる