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残されたガラスの靴
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なんとか、説得しなくては……
「シンデレラ、もし王子様の目の前で魔法が解けるところを見られましたら、貴女は魔力を持つ女性として魔女裁判にかけられてしまうかもしれません。そうなったら、お話が変わってしまいますのよ」
途端に、シンデレラの顔が青褪めました。
「え、そんなの嫌よ!」
「ですから、鐘が鳴り終わらないうちに早くお帰りください。ガラスの靴を残しておけば、必ず王子様がシンデレラを見つけてくださいますから」
「分かったわ」
シンデレラが階段の隙間から這い出し、王子様の前に現れました。
「王子様、さようなら。私を絶対に見つけ出して!」
そう言い残して走り去ろとするシンデレラの手を取り、王子様がグッと引き寄せました。
「待つんだ! なぜ急ぐ?」
「もう、帰らなきゃいけないの!」
「なぜ?」
「魔女裁判にかけられたくないし!」
シンデレラは相当魔女裁判を怖がっているようですわ……簡単に信じてしまうなんて、単純ですわね。まぁ、説得できて良かったのですけれど。
「魔女裁判? 何を言ってるんだ!?」
王子様が困惑していると、再び時計の鐘が鳴りました。
ディーン、ゴーン……
「とにかく、私を見つけてくれればいいから!!」
「待つんだ! 行かないでくれ! 君の名前を知らなければ、君を探すことができない! せめて名前だけでも教えてくれ!」
王子様が追いかけながら呼び掛けますが、シンデレラは必死に走ります。私も王子様の後を追いました。
「待つんだ! 待ってくれ!!」
悲痛な王子様の叫び声が響きます。シンデレラは赤いベルベットの幕の向こうに消えました。王子様もまた、幕を潜ります。
ところが、会場へと戻った途端、王子様は待ちわびていた大勢の女性たちに取り囲まれてしまいました。幕横に座っていた大公様が、今度は王子様の代わりにシンデレラを追いかけていきます。
階段までくると、シンデレラはパニエが見えるほど思い切りドレスの裾を持ち上げて豪快にガニ股で駆け下りて行きます。
その途中でガラスの靴が、片方だけでなく両方とも脱げてしまいました。必死で逃げ去るシンデレラは気付いていないようですわ。それに、大公様も……
私は密かに片方の靴を拾うとドレスの中に隠し、もう片方のガラスの靴を手に持ちました。
「マドモアゼル! セニョリータぁ!! お待ちくださーい」
どこの国の姫とも分からないシンデレラに向かって、大公様が叫びます。
階段のすぐ下にはシンデレラが乗ってきた馬車が待機しています。シンデレラは大公様に捕まるギリギリで乗り込むと、馬車は飛ぶように走り去って行きました。
大公様がすかさず叫びます。
「見張りの者はどこだー? 馬車を止めろー! 全ての門を閉めよー!!」
あぁ、間に合うかしら……
ドキドキしながら見つめていると、門が閉まる直前で馬車がスッと通って行きました。すると、それに続いて大勢の兵士たちが馬に乗って追いかけて行きます。
「さぁ、急げー! 全ての門を開けよー!」
あぁ、どうか逃げ切って……そうでなければ、魔法が解けるところを見られてしまいますわ。
馬車が見えなくなるまで見送りますと、大きく息を吐きました。
会場へと戻りますと、そこには意気消沈した王子様がいらっしゃいました。そこへ、大公様が駆けつけます。
「あの子は、どうした?」
そう尋ねた王子様に、大公様が申し訳なさそうに答えられました。
「申し訳ございません……逃げられてしまいました」
「そうか……」
がっくりと項垂れる王子様の姿に、胸がきつく絞られます。
やはり、ここは私が動くしかないですわね……
「ぁ、の……」
おずおずとお声を掛けますと、王子様が興味なさそうに私の顔を見上げました。
「君は、確か……」
「アナスタシアですわ。あの、先ほど王太子殿下と踊っていらっしゃった女性が……これを、落として行きました」
手に持っていたガラスの靴を掲げると、王子様の表情が一気に輝きました。
「おぉ、これはまさしくあの子が履いていたガラスの靴だ!! これを国中の未婚の女性に履かせれば、僕はあの子を探し出すことができる!!
あぁ、君は恩人だ、アナスタシア。どうもありがとう!!」
王子様が高揚して私の手を取りました。
「そ、んな……当然のことをしたまでですわ。お役に立てて、嬉しいですわ」
胸の痛みを押し隠し、にっこりと微笑みました。
王子様の元を離れると、遠くにお母様とドリゼラお姉様が見えました。私に気付いたお母様が、目でこちらに来るようにと合図なさいます。
「どこに行っていたの、アナスタシア。帰りますよ」
「申し訳ございません、お母様」
王子様にガラスの靴をお渡しするところを見られずにすんで、良かったですわ。もしガラスの靴の存在を知ってしまいましたらお母様は、その場で粉々になさるでしょうから。
「シンデレラ、もし王子様の目の前で魔法が解けるところを見られましたら、貴女は魔力を持つ女性として魔女裁判にかけられてしまうかもしれません。そうなったら、お話が変わってしまいますのよ」
途端に、シンデレラの顔が青褪めました。
「え、そんなの嫌よ!」
「ですから、鐘が鳴り終わらないうちに早くお帰りください。ガラスの靴を残しておけば、必ず王子様がシンデレラを見つけてくださいますから」
「分かったわ」
シンデレラが階段の隙間から這い出し、王子様の前に現れました。
「王子様、さようなら。私を絶対に見つけ出して!」
そう言い残して走り去ろとするシンデレラの手を取り、王子様がグッと引き寄せました。
「待つんだ! なぜ急ぐ?」
「もう、帰らなきゃいけないの!」
「なぜ?」
「魔女裁判にかけられたくないし!」
シンデレラは相当魔女裁判を怖がっているようですわ……簡単に信じてしまうなんて、単純ですわね。まぁ、説得できて良かったのですけれど。
「魔女裁判? 何を言ってるんだ!?」
王子様が困惑していると、再び時計の鐘が鳴りました。
ディーン、ゴーン……
「とにかく、私を見つけてくれればいいから!!」
「待つんだ! 行かないでくれ! 君の名前を知らなければ、君を探すことができない! せめて名前だけでも教えてくれ!」
王子様が追いかけながら呼び掛けますが、シンデレラは必死に走ります。私も王子様の後を追いました。
「待つんだ! 待ってくれ!!」
悲痛な王子様の叫び声が響きます。シンデレラは赤いベルベットの幕の向こうに消えました。王子様もまた、幕を潜ります。
ところが、会場へと戻った途端、王子様は待ちわびていた大勢の女性たちに取り囲まれてしまいました。幕横に座っていた大公様が、今度は王子様の代わりにシンデレラを追いかけていきます。
階段までくると、シンデレラはパニエが見えるほど思い切りドレスの裾を持ち上げて豪快にガニ股で駆け下りて行きます。
その途中でガラスの靴が、片方だけでなく両方とも脱げてしまいました。必死で逃げ去るシンデレラは気付いていないようですわ。それに、大公様も……
私は密かに片方の靴を拾うとドレスの中に隠し、もう片方のガラスの靴を手に持ちました。
「マドモアゼル! セニョリータぁ!! お待ちくださーい」
どこの国の姫とも分からないシンデレラに向かって、大公様が叫びます。
階段のすぐ下にはシンデレラが乗ってきた馬車が待機しています。シンデレラは大公様に捕まるギリギリで乗り込むと、馬車は飛ぶように走り去って行きました。
大公様がすかさず叫びます。
「見張りの者はどこだー? 馬車を止めろー! 全ての門を閉めよー!!」
あぁ、間に合うかしら……
ドキドキしながら見つめていると、門が閉まる直前で馬車がスッと通って行きました。すると、それに続いて大勢の兵士たちが馬に乗って追いかけて行きます。
「さぁ、急げー! 全ての門を開けよー!」
あぁ、どうか逃げ切って……そうでなければ、魔法が解けるところを見られてしまいますわ。
馬車が見えなくなるまで見送りますと、大きく息を吐きました。
会場へと戻りますと、そこには意気消沈した王子様がいらっしゃいました。そこへ、大公様が駆けつけます。
「あの子は、どうした?」
そう尋ねた王子様に、大公様が申し訳なさそうに答えられました。
「申し訳ございません……逃げられてしまいました」
「そうか……」
がっくりと項垂れる王子様の姿に、胸がきつく絞られます。
やはり、ここは私が動くしかないですわね……
「ぁ、の……」
おずおずとお声を掛けますと、王子様が興味なさそうに私の顔を見上げました。
「君は、確か……」
「アナスタシアですわ。あの、先ほど王太子殿下と踊っていらっしゃった女性が……これを、落として行きました」
手に持っていたガラスの靴を掲げると、王子様の表情が一気に輝きました。
「おぉ、これはまさしくあの子が履いていたガラスの靴だ!! これを国中の未婚の女性に履かせれば、僕はあの子を探し出すことができる!!
あぁ、君は恩人だ、アナスタシア。どうもありがとう!!」
王子様が高揚して私の手を取りました。
「そ、んな……当然のことをしたまでですわ。お役に立てて、嬉しいですわ」
胸の痛みを押し隠し、にっこりと微笑みました。
王子様の元を離れると、遠くにお母様とドリゼラお姉様が見えました。私に気付いたお母様が、目でこちらに来るようにと合図なさいます。
「どこに行っていたの、アナスタシア。帰りますよ」
「申し訳ございません、お母様」
王子様にガラスの靴をお渡しするところを見られずにすんで、良かったですわ。もしガラスの靴の存在を知ってしまいましたらお母様は、その場で粉々になさるでしょうから。
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