20 / 41
残されたガラスの靴
しおりを挟む
なんとか、説得しなくては……
「シンデレラ、もし王子様の目の前で魔法が解けるところを見られましたら、貴女は魔力を持つ女性として魔女裁判にかけられてしまうかもしれません。そうなったら、お話が変わってしまいますのよ」
途端に、シンデレラの顔が青褪めました。
「え、そんなの嫌よ!」
「ですから、鐘が鳴り終わらないうちに早くお帰りください。ガラスの靴を残しておけば、必ず王子様がシンデレラを見つけてくださいますから」
「分かったわ」
シンデレラが階段の隙間から這い出し、王子様の前に現れました。
「王子様、さようなら。私を絶対に見つけ出して!」
そう言い残して走り去ろとするシンデレラの手を取り、王子様がグッと引き寄せました。
「待つんだ! なぜ急ぐ?」
「もう、帰らなきゃいけないの!」
「なぜ?」
「魔女裁判にかけられたくないし!」
シンデレラは相当魔女裁判を怖がっているようですわ……簡単に信じてしまうなんて、単純ですわね。まぁ、説得できて良かったのですけれど。
「魔女裁判? 何を言ってるんだ!?」
王子様が困惑していると、再び時計の鐘が鳴りました。
ディーン、ゴーン……
「とにかく、私を見つけてくれればいいから!!」
「待つんだ! 行かないでくれ! 君の名前を知らなければ、君を探すことができない! せめて名前だけでも教えてくれ!」
王子様が追いかけながら呼び掛けますが、シンデレラは必死に走ります。私も王子様の後を追いました。
「待つんだ! 待ってくれ!!」
悲痛な王子様の叫び声が響きます。シンデレラは赤いベルベットの幕の向こうに消えました。王子様もまた、幕を潜ります。
ところが、会場へと戻った途端、王子様は待ちわびていた大勢の女性たちに取り囲まれてしまいました。幕横に座っていた大公様が、今度は王子様の代わりにシンデレラを追いかけていきます。
階段までくると、シンデレラはパニエが見えるほど思い切りドレスの裾を持ち上げて豪快にガニ股で駆け下りて行きます。
その途中でガラスの靴が、片方だけでなく両方とも脱げてしまいました。必死で逃げ去るシンデレラは気付いていないようですわ。それに、大公様も……
私は密かに片方の靴を拾うとドレスの中に隠し、もう片方のガラスの靴を手に持ちました。
「マドモアゼル! セニョリータぁ!! お待ちくださーい」
どこの国の姫とも分からないシンデレラに向かって、大公様が叫びます。
階段のすぐ下にはシンデレラが乗ってきた馬車が待機しています。シンデレラは大公様に捕まるギリギリで乗り込むと、馬車は飛ぶように走り去って行きました。
大公様がすかさず叫びます。
「見張りの者はどこだー? 馬車を止めろー! 全ての門を閉めよー!!」
あぁ、間に合うかしら……
ドキドキしながら見つめていると、門が閉まる直前で馬車がスッと通って行きました。すると、それに続いて大勢の兵士たちが馬に乗って追いかけて行きます。
「さぁ、急げー! 全ての門を開けよー!」
あぁ、どうか逃げ切って……そうでなければ、魔法が解けるところを見られてしまいますわ。
馬車が見えなくなるまで見送りますと、大きく息を吐きました。
会場へと戻りますと、そこには意気消沈した王子様がいらっしゃいました。そこへ、大公様が駆けつけます。
「あの子は、どうした?」
そう尋ねた王子様に、大公様が申し訳なさそうに答えられました。
「申し訳ございません……逃げられてしまいました」
「そうか……」
がっくりと項垂れる王子様の姿に、胸がきつく絞られます。
やはり、ここは私が動くしかないですわね……
「ぁ、の……」
おずおずとお声を掛けますと、王子様が興味なさそうに私の顔を見上げました。
「君は、確か……」
「アナスタシアですわ。あの、先ほど王太子殿下と踊っていらっしゃった女性が……これを、落として行きました」
手に持っていたガラスの靴を掲げると、王子様の表情が一気に輝きました。
「おぉ、これはまさしくあの子が履いていたガラスの靴だ!! これを国中の未婚の女性に履かせれば、僕はあの子を探し出すことができる!!
あぁ、君は恩人だ、アナスタシア。どうもありがとう!!」
王子様が高揚して私の手を取りました。
「そ、んな……当然のことをしたまでですわ。お役に立てて、嬉しいですわ」
胸の痛みを押し隠し、にっこりと微笑みました。
王子様の元を離れると、遠くにお母様とドリゼラお姉様が見えました。私に気付いたお母様が、目でこちらに来るようにと合図なさいます。
「どこに行っていたの、アナスタシア。帰りますよ」
「申し訳ございません、お母様」
王子様にガラスの靴をお渡しするところを見られずにすんで、良かったですわ。もしガラスの靴の存在を知ってしまいましたらお母様は、その場で粉々になさるでしょうから。
「シンデレラ、もし王子様の目の前で魔法が解けるところを見られましたら、貴女は魔力を持つ女性として魔女裁判にかけられてしまうかもしれません。そうなったら、お話が変わってしまいますのよ」
途端に、シンデレラの顔が青褪めました。
「え、そんなの嫌よ!」
「ですから、鐘が鳴り終わらないうちに早くお帰りください。ガラスの靴を残しておけば、必ず王子様がシンデレラを見つけてくださいますから」
「分かったわ」
シンデレラが階段の隙間から這い出し、王子様の前に現れました。
「王子様、さようなら。私を絶対に見つけ出して!」
そう言い残して走り去ろとするシンデレラの手を取り、王子様がグッと引き寄せました。
「待つんだ! なぜ急ぐ?」
「もう、帰らなきゃいけないの!」
「なぜ?」
「魔女裁判にかけられたくないし!」
シンデレラは相当魔女裁判を怖がっているようですわ……簡単に信じてしまうなんて、単純ですわね。まぁ、説得できて良かったのですけれど。
「魔女裁判? 何を言ってるんだ!?」
王子様が困惑していると、再び時計の鐘が鳴りました。
ディーン、ゴーン……
「とにかく、私を見つけてくれればいいから!!」
「待つんだ! 行かないでくれ! 君の名前を知らなければ、君を探すことができない! せめて名前だけでも教えてくれ!」
王子様が追いかけながら呼び掛けますが、シンデレラは必死に走ります。私も王子様の後を追いました。
「待つんだ! 待ってくれ!!」
悲痛な王子様の叫び声が響きます。シンデレラは赤いベルベットの幕の向こうに消えました。王子様もまた、幕を潜ります。
ところが、会場へと戻った途端、王子様は待ちわびていた大勢の女性たちに取り囲まれてしまいました。幕横に座っていた大公様が、今度は王子様の代わりにシンデレラを追いかけていきます。
階段までくると、シンデレラはパニエが見えるほど思い切りドレスの裾を持ち上げて豪快にガニ股で駆け下りて行きます。
その途中でガラスの靴が、片方だけでなく両方とも脱げてしまいました。必死で逃げ去るシンデレラは気付いていないようですわ。それに、大公様も……
私は密かに片方の靴を拾うとドレスの中に隠し、もう片方のガラスの靴を手に持ちました。
「マドモアゼル! セニョリータぁ!! お待ちくださーい」
どこの国の姫とも分からないシンデレラに向かって、大公様が叫びます。
階段のすぐ下にはシンデレラが乗ってきた馬車が待機しています。シンデレラは大公様に捕まるギリギリで乗り込むと、馬車は飛ぶように走り去って行きました。
大公様がすかさず叫びます。
「見張りの者はどこだー? 馬車を止めろー! 全ての門を閉めよー!!」
あぁ、間に合うかしら……
ドキドキしながら見つめていると、門が閉まる直前で馬車がスッと通って行きました。すると、それに続いて大勢の兵士たちが馬に乗って追いかけて行きます。
「さぁ、急げー! 全ての門を開けよー!」
あぁ、どうか逃げ切って……そうでなければ、魔法が解けるところを見られてしまいますわ。
馬車が見えなくなるまで見送りますと、大きく息を吐きました。
会場へと戻りますと、そこには意気消沈した王子様がいらっしゃいました。そこへ、大公様が駆けつけます。
「あの子は、どうした?」
そう尋ねた王子様に、大公様が申し訳なさそうに答えられました。
「申し訳ございません……逃げられてしまいました」
「そうか……」
がっくりと項垂れる王子様の姿に、胸がきつく絞られます。
やはり、ここは私が動くしかないですわね……
「ぁ、の……」
おずおずとお声を掛けますと、王子様が興味なさそうに私の顔を見上げました。
「君は、確か……」
「アナスタシアですわ。あの、先ほど王太子殿下と踊っていらっしゃった女性が……これを、落として行きました」
手に持っていたガラスの靴を掲げると、王子様の表情が一気に輝きました。
「おぉ、これはまさしくあの子が履いていたガラスの靴だ!! これを国中の未婚の女性に履かせれば、僕はあの子を探し出すことができる!!
あぁ、君は恩人だ、アナスタシア。どうもありがとう!!」
王子様が高揚して私の手を取りました。
「そ、んな……当然のことをしたまでですわ。お役に立てて、嬉しいですわ」
胸の痛みを押し隠し、にっこりと微笑みました。
王子様の元を離れると、遠くにお母様とドリゼラお姉様が見えました。私に気付いたお母様が、目でこちらに来るようにと合図なさいます。
「どこに行っていたの、アナスタシア。帰りますよ」
「申し訳ございません、お母様」
王子様にガラスの靴をお渡しするところを見られずにすんで、良かったですわ。もしガラスの靴の存在を知ってしまいましたらお母様は、その場で粉々になさるでしょうから。
0
お気に入りに追加
177
あなたにおすすめの小説
最強の異世界やりすぎ旅行記
萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。
そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。
「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」
バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!?
最強が無双する異世界ファンタジー開幕!
魔王と囚われた王妃 ~断末魔の声が、わたしの心を狂わせる~
長月京子
恋愛
絶世の美貌を謳われた王妃レイアの記憶に残っているのは、愛しい王の最期の声だけ。
凄惨な過去の衝撃から、ほとんどの記憶を失ったまま、レイアは魔界の城に囚われている。
人界を滅ぼした魔王ディオン。
逃亡を試みたレイアの前で、ディオンは共にあった侍女のノルンをためらいもなく切り捨てる。
「――おまえが、私を恐れるのか? ルシア」
恐れるレイアを、魔王はなぜかルシアと呼んだ。
彼と共に過ごすうちに、彼女はわからなくなる。
自分はルシアなのか。一体誰を愛し夢を語っていたのか。
失われ、蝕まれていく想い。
やがてルシアは、魔王ディオンの真実に辿り着く。

王様とお妃様は今日も蜜月中~一目惚れから始まる溺愛生活~
花乃 なたね
恋愛
貴族令嬢のエリーズは幼いうちに両親を亡くし、新たな家族からは使用人扱いを受け孤独に過ごしていた。
しかし彼女はとあるきっかけで、優れた政の手腕、更には人間離れした美貌を持つ若き国王ヴィオルの誕生日を祝う夜会に出席することになる。
エリーズは初めて見るヴィオルの姿に魅せられるが、叶わぬ恋として想いを胸に秘めたままにしておこうとした。
…が、エリーズのもとに舞い降りたのはヴィオルからのダンスの誘い、そしてまさかの求婚。なんとヴィオルも彼女に一目惚れをしたのだという。
とんとん拍子に話は進み、ヴィオルの元へ嫁ぎ晴れて王妃となったエリーズ。彼女を待っていたのは砂糖菓子よりも甘い溺愛生活だった。
可愛い妻をとにかくベタベタに可愛がりたい王様と、夫につり合う女性になりたいと頑張る健気な王妃様の、好感度最大から始まる物語。
※1色々と都合の良いファンタジー世界が舞台です。
※2直接的な性描写はありませんが、情事を匂わせる表現が多々出てきますためご注意ください。

気配消し令嬢の失敗
かな
恋愛
ユリアは公爵家の次女として生まれ、獣人国に攫われた長女エーリアの代わりに第1王子の婚約者候補の筆頭にされてしまう。王妃なんて面倒臭いと思ったユリアは、自分自身に認識阻害と気配消しの魔法を掛け、居るかいないかわからないと言われるほどの地味な令嬢を装った。
15才になり学園に入学すると、編入してきた男爵令嬢が第1王子と有力貴族令息を複数侍らかせることとなり、ユリア以外の婚約者候補と男爵令嬢の揉める事が日常茶飯事に。ユリアは遠くからボーッとそれを眺めながら〘 いつになったら婚約者候補から外してくれるのかな? 〙と思っていた。そんなユリアが失敗する話。
※王子は曾祖母コンです。
※ユリアは悪役令嬢ではありません。
※タグを少し修正しました。
初めての投稿なのでゆる〜く読んでください。ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください( *・ω・)*_ _))ペコリン
【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!
美杉。祝、サレ妻コミカライズ化
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』
そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。
目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。
なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。
元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。
ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。
いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。
なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。
このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。
悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。
ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――
悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています
窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。
シナリオ通りなら、死ぬ運命。
だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい!
騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します!
というわけで、私、悪役やりません!
来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。
あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……!
気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。
悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!

【完結】悪役令嬢の反撃の日々
くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。
「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。
お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。
「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

絞首刑まっしぐらの『醜い悪役令嬢』が『美しい聖女』と呼ばれるようになるまでの24時間
夕景あき
ファンタジー
ガリガリに痩せて肌も髪もボロボロの『醜い悪役令嬢』と呼ばれたオリビアは、ある日婚約者であるトムス王子と義妹のアイラの会話を聞いてしまう。義妹はオリビアが放火犯だとトムス王子に訴え、トムス王子はそれを信じオリビアを明日の卒業パーティーで断罪して婚約破棄するという。
卒業パーティーまで、残り時間は24時間!!
果たしてオリビアは放火犯の冤罪で断罪され絞首刑となる運命から、逃れることが出来るのか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる