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12時の鐘が鳴りますわっ!

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「少し、風に当たってきますわ」

 お母様に断って会場を抜けて階段を降り、中庭へと向かいます。美しい噴水の縁に座り、溜息を吐きました。

 アナスタシアお姉様が、

「私だって一度はシンデレラになって、王子様と結婚してみたーいっっ!!」

 そう仰った時、私は一度は悪役令嬢になってみたかったと言って役を交代することを承諾致しましたけれど……

 理由は、それだけではありませんでした。

 私は、常に不安だったのです。王子様が私の見た目だけで好きになられたのではないかと。容姿さえ良ければ、それで良かったのではないかと。

 そして、私自身の王子様への気持ちに対しての不安もありました。あの時、王子様が素敵な方だったから、王子様に見染められたから、恋に落ちただけではないのかと。もし、他に素敵な方と出会っていたのなら、その方に恋をしていたかもしれない。告白されたら、気持ちが動いてしまうかもしれない。

 なぜなら、あの時の私は初恋も知らない、初心な女性でしたから……

 けれど、私の気持ちは誰にも動かされませんでした。サロンでお会いしたリスティー様はハンサムで大人の色香があって素敵でしたけれど……それだけでしたわ。

 王子様に出会った時のような、胸のときめきは覚えませんでした。

 王子様は……私のお心など、どうでもよいですのね。ただ、見目が良ければ、それで……

 誰かが近づく足音が聞こえ、ハッとしました。

 そうでしたわ、この場所は……王子様と踊った後、語らい合った中庭でしたわ。

 私は茂みに身を隠すと、影からそっとシンデレラと王子様を見つめました。二人は手に手を取り、噴水へと歩いて行きます。シンデレラが噴水の水に手を浸すと、水紋が広がって行きます。

 なんて、ロマンティックな光景なのでしょう。

 そう思っていますと、シンデレラが濡れた手のやり場に困ったのか……

 あぁ、なんてことでしょう。美しいドレスで濡れた手を拭っていますわ! 

 王子様は目を見張った後、苦笑されていました。

 ふたりは会場から遠く聞こえるワルツを背に、中庭でも踊っていらっしゃいます。けれど、シンデレラのテンポが合わず、バランスが崩れ、再びシンデレラが王子様の靴を踏みつけました。

「あらっ、私ったらまた! アハハ……ごめんなさぁい!!」

 王子様の足が止まりました。

「気にしないで。少し、歩こうか」
「はいっ」

 ふたりは、エレガントな曲線でデザインされた純白の橋を手を繋いで渡ります。

 それを見つめる私の胸にあの時の高鳴りが蘇るけれど、今はこうして遠くから見つめているのだと思うとギュッと絞られるような痛みへと変わります。

 シンデレラと王子様の会話が聞こえてきます。

「ねーぇ、王子様ぁ。私が舞踏会に現れた時ぃ、どう思ったかしらぁ?」
「あぁ……こんなに美しい女性は今まで見たことがないって、強く心を奪われたよ」
「ふふっ、でしょぉ? ねぇ、そんなに私って美人? 綺麗? 世界中の誰よりもぉ?」

 シンデレラに迫られて、王子様は少しタジタジしつつ、「あぁ」と答えました。

 プリンス・チャーミング……心がアナスタシアお姉様と変わられていることに、ちっとも気づいていらっしゃいませんのね。

 橋の真ん中で水面に映る二人の姿を見つめた後、お互いに顔を合わせます。それから、会場へと戻る手前の階段の手前でふたりが座り……

 あぁ、このままではふたりは接吻してしまいますわ!!

 そして、時刻はまさに12時の鐘を鳴らそうとしています。

 私は茂みから階段脇へと移動しました。

 シンデレラと王子様が唇と唇を寄せ合い、瞳を閉じた瞬間……

 ディーン、ゴーン……

 12時の鐘が鳴りました。

 私はシンデレラの腕を強く引き、階段下の隙間へと連れ込みます。

「ちょ、何すんのよ!」
「シンデレラ、12時の鐘です。早く、お帰りになって!!」

 すると、シンデレラが首を振りました。

「帰らないわ」
「なぜですの!?」
「だって、このまま元の姿に戻っても王子様は私のことを受け入れてくれるはずでしょ? その方が手っ取り早いじゃない」

 その時、王子様の声がしました。

「あれ? どこに行ったんだ!? おーい!!」

 早く戻らないと、まずいですわ……どうしましょう。
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