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白いクレヨン
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そんなある日、学校の帰り道でいつものように近所の友達と別れて一人で歩いていると、頭から足まで真っ黒な女の人が立っていた。足が竦んで動けなかった。
私には分かっていた。
その人が、『白い女の人』だと。
「これ、返すわね。
貴女もいつか、いる日が来るかもしれないから」
立ち止まった私に向かって歩み寄ったその人が差し出したのは、私の名前が書かれた白いクレヨンだった。あの時と変わらず、角ばった新品同様の姿だ。
「欧米で、子供が嘘を吐くと『口を石鹸で洗うぞ!』って脅すの、知ってる?」
いきなり意味不明な質問をされ、ブンブンと首を横に振った。『おうべい』の意味も『おどす』の意味も、分からなかった。
「そう……」
女の人は、私の答えにがっかりするでもなく、喜ぶでもなく、呟くように小さく言った。それから、独り言のように囁いた。
「男は嘘を吐く生き物なの。
その口を白く塗り潰せば、『清廉潔白』になるかと思ったけど……汚れたのは、私の方だったみたい」
女の人は、薄幸な笑みを浮かべた。
「貴女は、騙されないようにね」
ここから逃げたい一心で大きくコクンと頷くと、女の人の手から奪うようにして白いクレヨンを掴んだ。足がもつれそうになりながらも、後ろを振り向くことなく、必死に家まで走る。
「ハァッ、ハァッ、ハァッ……」
ピンポン、ピンポン、ピンポンと連続で何度もチャイムを押していると、玄関のドアがゆっくりと開いた。
「美代ちゃん、どうしたの?」
目を大きく見開いて驚くお母さんの脇をすり抜けて靴を脱ぎ捨て、真っ直ぐに階段に向かうと駆け上がり、廊下の窓から通りを見下ろした。
いない……
黒い格好した白い女の人は、そこにいなかった。
部屋に入った私はランドセルを下ろし、クレヨンの箱を取り出した。箱の蓋を開け、手汗で濡れた白いクレヨンをずっと空いていたスペースにそっと戻した。
白いクレヨンを口に詰めた犯人は、20年経った今も捕まっていない。
あの人は今、何色だろう……
私には分かっていた。
その人が、『白い女の人』だと。
「これ、返すわね。
貴女もいつか、いる日が来るかもしれないから」
立ち止まった私に向かって歩み寄ったその人が差し出したのは、私の名前が書かれた白いクレヨンだった。あの時と変わらず、角ばった新品同様の姿だ。
「欧米で、子供が嘘を吐くと『口を石鹸で洗うぞ!』って脅すの、知ってる?」
いきなり意味不明な質問をされ、ブンブンと首を横に振った。『おうべい』の意味も『おどす』の意味も、分からなかった。
「そう……」
女の人は、私の答えにがっかりするでもなく、喜ぶでもなく、呟くように小さく言った。それから、独り言のように囁いた。
「男は嘘を吐く生き物なの。
その口を白く塗り潰せば、『清廉潔白』になるかと思ったけど……汚れたのは、私の方だったみたい」
女の人は、薄幸な笑みを浮かべた。
「貴女は、騙されないようにね」
ここから逃げたい一心で大きくコクンと頷くと、女の人の手から奪うようにして白いクレヨンを掴んだ。足がもつれそうになりながらも、後ろを振り向くことなく、必死に家まで走る。
「ハァッ、ハァッ、ハァッ……」
ピンポン、ピンポン、ピンポンと連続で何度もチャイムを押していると、玄関のドアがゆっくりと開いた。
「美代ちゃん、どうしたの?」
目を大きく見開いて驚くお母さんの脇をすり抜けて靴を脱ぎ捨て、真っ直ぐに階段に向かうと駆け上がり、廊下の窓から通りを見下ろした。
いない……
黒い格好した白い女の人は、そこにいなかった。
部屋に入った私はランドセルを下ろし、クレヨンの箱を取り出した。箱の蓋を開け、手汗で濡れた白いクレヨンをずっと空いていたスペースにそっと戻した。
白いクレヨンを口に詰めた犯人は、20年経った今も捕まっていない。
あの人は今、何色だろう……
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