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ちょっと外へ出てみる話

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頭が。痛い。
思考がうまくいかない。
体が硬直してぴくりとも動かない。
気がする。
もちろん動くんだが、きっかけがないと意思が発生しない。
瞼と眼球が張り付いている。
だが、きっかけはあった。割とすぐに。
ソーセージのいい匂い。
それと、香ばしい何かが焼ける音。
卵だろうか。
深く息を吸い込めば、うっすら混じるコーヒーの苦味の香り。
お腹が、すいた。
自覚した途端、身体は素直になり重たくとも腕は上半身を持ち上げた。
のそのそと冷えたフローリングを歩く。足裏の体温がゆっくりと奪われ、現実的な存在であることを思いだす。
おじさんが朝ごはんを作っていた。
引き戸を開けた俺はリビングの机に置かれたハムエッグとソーセージプレートを見て、ずっと昔の誰かが作った夜食を思い出した。
「あ、ああ、おはよう、いい夢は見れたかい。」
驚いているような、なんとも言えないひょうきんな顔でおじさんは挨拶をした。
「んん。まあ、寝れた。助かる。」
軽く挨拶をして、ソーセージ達の前に腰掛ける。
おじさんはコーヒーと牛乳を持ってそれぞれ机に丁寧に置いた。
フローリングを歩く硬いスリッパの音が家庭的な風景をフラッシュバックさせた。
「ちょうどいい時間に起きてくれた。出来たてだ。さあ、美味しいうちに食べてくれ。」
「おお…いただきます。」
少し焦げ目のついた目玉焼きはやや半熟。黄身は垂れない。
「…これは俺のお気に入りの食べ方があるんだ。」
おじさんはすこし躊躇いながら言う。
「焼いたトーストにはマーガリンを塗って、目玉焼きに強めに塩を振って、ハムと一緒に挟む。このとき、強めに挟むんだ、ぎゅっとね。潰れて構わない。」
おれはただ言われるがままそうした。
「このやっすいパンが、活きるんだ。あとはがぶり、だ。こいつが止められない。」
「へぇ。」
自分でも分かる気の抜けた返事をした後、1口大きくかぶりついた。
うん…?うん…。
舌の上で味覚を研ぎ澄ませ咀嚼する。
まあ、その。見た目通り。
「…おや、微妙かな…。これは絶品だと確信していたのだが…私の思い出バイアスもあるかもしれないな。」
すこし自虐気味な表情を浮かべるおじさん。
確かに、絶品ではない。
だが。なぜだかもう一口、食べたくなる。そんな調子で直ぐに食べ終わった。
「じわじわ美味い。」
「お!そうか!良かった。嬉しいな。また食べたくなったら一緒に食べよう。」
「ああ。」
俳優のように緊迫感のある顔がころころ表情を変えるのは面白い。
こちらまで微笑んでしまう。
「今日は晴れてるし、少し外に出てみるか。どうだい?」
「おう、いいな。」
確かに昨日とは別世界のようにカンカン照りだった。しばらく篭もっていたし日差しを浴びるのもいいかもしれない。
「とりあえず、服貸してくれ。」

マンションをでると、潮の香りを感じた。髪の毛がふわふわとなびく。
「おじさん…ろくな私服持ってねぇんだな。」
「う…。仕事人間だからね、はは。」
俺はブルーのシャツと黒いスラックスを履いていた。どちらもなんとなく大きいが、まあぎりぎり、見られても恥ずかしくない。
さて、どこに向かうかといえば、別段決まっている訳じゃなかった。
ただ、おじさんの歩くまま、俺も歩いた。
舗装されたランニングコースの横に咲く名も知らぬオレンジの花が、ゆらゆらと香りを振りまく。
しばらく歩くと、少年の声が複数聞こえてきた。
もう少し近づくと土を転がるボールの音、そしてそれを蹴飛ばす爽快な音が聞こえた。
どうやら、この公園でサッカーをしているらしい。
十分に見える位置まで歩いてそれを確信した。
「元気だなぁ。あの子、ずっと走ってるぞ、パスは来ないが。」
「楽しそうだな。」
俺は誰に言ったのか特に断定しないまま呟いた。
「にしても、最近はあまり野球はやらないのだろうか。」
「あー、やらないな。よく分かんねぇけど。」
他愛のないやり取りをしながら花壇に寄りかかり、2人して試合を見ていた。
鑑賞するというほど集中せず、しばらくぼんやりとボールが行ったり来たりする様子を眺めていた。
「…なあ。」
「…ん?」
「俺たち、かなり不審者じゃねぇか?」
「…間違いない。ははは、もう、行こう行こう。」
笑いあって我に返った2人は公園を後にした。

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