109 / 173
6話目!黒乃の章 記憶の足跡
6-8
しおりを挟む
――みゃ。嘘……だみゃ。みゃーは死んだのみゃ……? みゃーは……みゃーは……。
「お父さんのバカッ!」
リリーの叫び声にミヤの意識は現実に引き戻された。
「ミヤは……ミヤは、あたしの大事な友達なんだもん! 家族なんだもん! 死んだとか言わないでッッ!!!」
死んだ。その言葉がミヤの心に深く突き刺さった。ミヤは鉛のように重くなったように感じる体を起こし、急いでその場から離れた。その時、リリーの頬に生暖かい風が横切った。
「ミヤ!?」
決してミヤの姿が見えた訳では無い。けれど、彼女にはそれを感じることができた。ミヤが近くにいるのだと。
リリーは急いでその気配がする方向へと走り出した。突然、家を飛び出す娘に両親も慌てた。
「ちょっと、貴方があんなこと言うから!」
「で、でも……。元気を出してもらおうと……」
「はぁ……。あなたって人は。まぁでも、今はあの子はしばらくそっとしといた方が良いかも……。また後で迎えに行きましょう」
「ああ、そうだな……」
両親を背に、リリーは家を飛び出してから、キョロキョロと辺りを見渡した。ミヤは追いかけてきたリリーに足を止めずに家の角を曲がった。
拓斗は突然飛び出してきたミヤとリリーの姿に驚いていたが、黒乃がそこに向かおうとする拓斗を無言で制止した。
リリーはザッザッと草を駆け回るミヤの音が耳に聞こえてきて、その音を辿ってリリーも走り出す。けれど、家の角を曲がる時、急なカーブだったために、リリーはズルリと足をくじかせて、その場に前のめりに倒れてしまった。それを見て、ミヤも足を止めて彼女の方を振り返る。
「うっ……う……っ」
リリーはまた、大きな瞳に涙を浮かべ、今まで抱えてきた思いが溢れ出して耐えきれなくなったか、大きな声で泣き出した。
「うわぁああああああん!」
ミヤはそれを見て、慌てて彼女へと駆け寄った。
――みゃ、泣くみゃ、泣くみゃ! ほんとに困ったさんだみゃ。
しかし、ミヤの声は当然届かず、彼女はただ大声でひたすらに泣き続けた。
「ミヤぁああ! ミヤぁああ! 会いたいよ! 会いたいよぉおおおお! うぁあああ! ああぁああ!」
その悲痛な願いにミヤはどうしたら良いかわからずに、その場で狼狽えてしまう。
――違うみゃ。違うんだみゃ。みゃーはすぐ傍にいるみゃ。目の前にいるんだみゃ。どうして見えない? みゃーはこんなにも近くにいるのに。どうして聞こえない。みゃーはこんなにも近くで鳴いているのに……。泣かないで。泣かないで、可愛い子。
遠くでそれを見ていた拓斗は、やっと自分が大きな勘違いをしていることに気づいた。彼は、ミヤが捨てられたのだと思っていた。けれど、そうじゃなかった。ミヤは亡くなっていて、今そこにいるミヤは――幽霊なのだと。
ミヤに会いたいと泣き叫ぶリリーの姿に、拓斗はぎゅっと拳を握った。
――僕には何もしてあげられない。僕は結局また助けることができなかった。けど、けど――。
人に頼ることも大事だと黒乃は拓斗に言ってくれた。拓斗は真剣な眼差しで黒乃を見た。どうするからはお前が決めろ。だから――
「黒乃、お願いがあるんだ」
「……仰せのままに」
リリーが泣き喚くのを止めることも出来ず、ただ狼狽えていたミヤだったが、ミヤの周りを突然、黒い霧が包み込んだ。すると、その霧はミヤの体にピッタリとくっついて、ミヤの形を形成したのだ。
「ミヤ……!?」
リリーは突然目の前に現れたミヤの姿に泣くのも忘れて仰天していた。ミヤも意味がわからずに、自分の体を見たり掻いたりして、自身の体を確かめた。
「ミヤ! やっぱりいたのね!」
リリーが喜びで顔を綻ばせ、ミヤへ抱きつこうと手を伸ばした時――。
スカッ。
「あれ?」
スカッ。
「なんで?」
スカッ。
「どうして!?」
何度試しても、リリーの腕はミヤの体をすり抜けてしまう。何度も何度もその腕に抱こうと手を伸ばす。
「なんで!? なんでなの!? ミヤは目の前にいるのに! どうして触れないの!? ミヤ! ミヤ!!!」
リリーはまた目には目を涙を浮かべて、悲しみに顔を歪ませた。ポロポロとその雫が頬を流れて地面に落ちていく。ミヤもその涙を拭おうと、リリーの頬へ舌を這わせるが、その舌もリリーの体をすり抜けて、温もりも何も感じない。
――こんみゃに傍にいるのに……。みゃーの体はリリーの体をすり抜けてしまう……。こんなにも悲しそうな顔をしている彼女の顔を笑顔にすることも、目から溢れる水も拭うことができみゃい……。
「ミヤ……。ミヤ……ごめんね……」
リリーはミヤに触れられないと分かっていても、彼女の頭を優しく撫でるように頭に手を添えた。ミヤも触れられることはないけれど、リリーが撫でやすいように耳を伏せて目を閉じた。
「あたし……ミヤの病気治せなかった……。ミヤの病気にもっと早く気付いてあげてたら、治せたかもしれないのに……」
リリーはそれをずっと謝りたかった。思い返す度に計り知れない後悔の波が彼女の心に押し寄せる。胸が張り裂けそうだった。
――あぁ、死ぬ前もずっとそんなこと言ってたっけ? でも、みゃーは難しいことはよくわかんみゃいみゃ。リリー、リリー。みゃーの可愛い子。どうか泣かないで。顔を上げて。
「リリー」
「えっ?」
「お父さんのバカッ!」
リリーの叫び声にミヤの意識は現実に引き戻された。
「ミヤは……ミヤは、あたしの大事な友達なんだもん! 家族なんだもん! 死んだとか言わないでッッ!!!」
死んだ。その言葉がミヤの心に深く突き刺さった。ミヤは鉛のように重くなったように感じる体を起こし、急いでその場から離れた。その時、リリーの頬に生暖かい風が横切った。
「ミヤ!?」
決してミヤの姿が見えた訳では無い。けれど、彼女にはそれを感じることができた。ミヤが近くにいるのだと。
リリーは急いでその気配がする方向へと走り出した。突然、家を飛び出す娘に両親も慌てた。
「ちょっと、貴方があんなこと言うから!」
「で、でも……。元気を出してもらおうと……」
「はぁ……。あなたって人は。まぁでも、今はあの子はしばらくそっとしといた方が良いかも……。また後で迎えに行きましょう」
「ああ、そうだな……」
両親を背に、リリーは家を飛び出してから、キョロキョロと辺りを見渡した。ミヤは追いかけてきたリリーに足を止めずに家の角を曲がった。
拓斗は突然飛び出してきたミヤとリリーの姿に驚いていたが、黒乃がそこに向かおうとする拓斗を無言で制止した。
リリーはザッザッと草を駆け回るミヤの音が耳に聞こえてきて、その音を辿ってリリーも走り出す。けれど、家の角を曲がる時、急なカーブだったために、リリーはズルリと足をくじかせて、その場に前のめりに倒れてしまった。それを見て、ミヤも足を止めて彼女の方を振り返る。
「うっ……う……っ」
リリーはまた、大きな瞳に涙を浮かべ、今まで抱えてきた思いが溢れ出して耐えきれなくなったか、大きな声で泣き出した。
「うわぁああああああん!」
ミヤはそれを見て、慌てて彼女へと駆け寄った。
――みゃ、泣くみゃ、泣くみゃ! ほんとに困ったさんだみゃ。
しかし、ミヤの声は当然届かず、彼女はただ大声でひたすらに泣き続けた。
「ミヤぁああ! ミヤぁああ! 会いたいよ! 会いたいよぉおおおお! うぁあああ! ああぁああ!」
その悲痛な願いにミヤはどうしたら良いかわからずに、その場で狼狽えてしまう。
――違うみゃ。違うんだみゃ。みゃーはすぐ傍にいるみゃ。目の前にいるんだみゃ。どうして見えない? みゃーはこんなにも近くにいるのに。どうして聞こえない。みゃーはこんなにも近くで鳴いているのに……。泣かないで。泣かないで、可愛い子。
遠くでそれを見ていた拓斗は、やっと自分が大きな勘違いをしていることに気づいた。彼は、ミヤが捨てられたのだと思っていた。けれど、そうじゃなかった。ミヤは亡くなっていて、今そこにいるミヤは――幽霊なのだと。
ミヤに会いたいと泣き叫ぶリリーの姿に、拓斗はぎゅっと拳を握った。
――僕には何もしてあげられない。僕は結局また助けることができなかった。けど、けど――。
人に頼ることも大事だと黒乃は拓斗に言ってくれた。拓斗は真剣な眼差しで黒乃を見た。どうするからはお前が決めろ。だから――
「黒乃、お願いがあるんだ」
「……仰せのままに」
リリーが泣き喚くのを止めることも出来ず、ただ狼狽えていたミヤだったが、ミヤの周りを突然、黒い霧が包み込んだ。すると、その霧はミヤの体にピッタリとくっついて、ミヤの形を形成したのだ。
「ミヤ……!?」
リリーは突然目の前に現れたミヤの姿に泣くのも忘れて仰天していた。ミヤも意味がわからずに、自分の体を見たり掻いたりして、自身の体を確かめた。
「ミヤ! やっぱりいたのね!」
リリーが喜びで顔を綻ばせ、ミヤへ抱きつこうと手を伸ばした時――。
スカッ。
「あれ?」
スカッ。
「なんで?」
スカッ。
「どうして!?」
何度試しても、リリーの腕はミヤの体をすり抜けてしまう。何度も何度もその腕に抱こうと手を伸ばす。
「なんで!? なんでなの!? ミヤは目の前にいるのに! どうして触れないの!? ミヤ! ミヤ!!!」
リリーはまた目には目を涙を浮かべて、悲しみに顔を歪ませた。ポロポロとその雫が頬を流れて地面に落ちていく。ミヤもその涙を拭おうと、リリーの頬へ舌を這わせるが、その舌もリリーの体をすり抜けて、温もりも何も感じない。
――こんみゃに傍にいるのに……。みゃーの体はリリーの体をすり抜けてしまう……。こんなにも悲しそうな顔をしている彼女の顔を笑顔にすることも、目から溢れる水も拭うことができみゃい……。
「ミヤ……。ミヤ……ごめんね……」
リリーはミヤに触れられないと分かっていても、彼女の頭を優しく撫でるように頭に手を添えた。ミヤも触れられることはないけれど、リリーが撫でやすいように耳を伏せて目を閉じた。
「あたし……ミヤの病気治せなかった……。ミヤの病気にもっと早く気付いてあげてたら、治せたかもしれないのに……」
リリーはそれをずっと謝りたかった。思い返す度に計り知れない後悔の波が彼女の心に押し寄せる。胸が張り裂けそうだった。
――あぁ、死ぬ前もずっとそんなこと言ってたっけ? でも、みゃーは難しいことはよくわかんみゃいみゃ。リリー、リリー。みゃーの可愛い子。どうか泣かないで。顔を上げて。
「リリー」
「えっ?」
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
【R18】スライムにマッサージされて絶頂しまくる女の話
白木 白亜
ファンタジー
突如として異世界転移した日本の大学生、タツシ。
世界にとって致命的な抜け穴を見つけ、召喚士としてあっけなく魔王を倒してしまう。
その後、一緒に旅をしたスライムと共に、マッサージ店を開くことにした。卑猥な目的で。
裏があるとも知れず、王都一番の人気になるマッサージ店「スライム・リフレ」。スライムを巧みに操って体のツボを押し、角質を取り、リフレッシュもできる。
だがそこは三度の飯よりも少女が絶頂している瞬間を見るのが大好きなタツシが経営する店。
そんな店では、膣に媚薬100%の粘液を注入され、美少女たちが「気持ちよくなって」いる!!!
感想大歓迎です!
※1グロは一切ありません。登場人物が圧倒的な不幸になることも(たぶん)ありません。今日も王都は平和です。異種姦というよりは、スライムは主人公の補助ツールとして扱われます。そっち方面を期待していた方はすみません。
異世界楽々通販サバイバル
shinko
ファンタジー
最近ハマりだしたソロキャンプ。
近くの山にあるキャンプ場で泊っていたはずの伊田和司 51歳はテントから出た瞬間にとてつもない違和感を感じた。
そう、見上げた空には大きく輝く2つの月。
そして山に居たはずの自分の前に広がっているのはなぜか海。
しばらくボーゼンとしていた和司だったが、軽くストレッチした後にこうつぶやいた。
「ついに俺の番が来たか、ステータスオープン!」
退屈な人生を歩んでいたおっさんが異世界に飛ばされるも無自覚チートで無双しながらネットショッピングしたり奴隷を買ったりする話
菊池 快晴
ファンタジー
無難に生きて、真面目に勉強して、最悪なブラック企業に就職した男、君内志賀(45歳)。
そんな人生を歩んできたおっさんだったが、異世界に転生してチートを授かる。
超成熟、四大魔法、召喚術、剣術、魔力、どれをとっても異世界最高峰。
極めつけは異世界にいながら元の世界の『ネットショッピング』まで。
生真面目で不器用、そんなおっさんが、奴隷幼女を即購入!?
これは、無自覚チートで無双する真面目なおっさんが、元の世界のネットショッピングを楽しみつつ、奴隷少女と異世界をマイペースに旅するほんわか物語です。
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる