神様のお導き

ヤマト

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6話目!黒乃の章 記憶の足跡

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 ――みゃ。嘘……だみゃ。みゃーは死んだのみゃ……? みゃーは……みゃーは……。
「お父さんのバカッ!」
 リリーの叫び声にミヤの意識は現実に引き戻された。
「ミヤは……ミヤは、あたしの大事な友達なんだもん! 家族なんだもん! 死んだとか言わないでッッ!!!」
 死んだ。その言葉がミヤの心に深く突き刺さった。ミヤは鉛のように重くなったように感じる体を起こし、急いでその場から離れた。その時、リリーの頬に生暖かい風が横切った。
「ミヤ!?」
 決してミヤの姿が見えた訳では無い。けれど、彼女にはそれを感じることができた。ミヤが近くにいるのだと。
 リリーは急いでその気配がする方向へと走り出した。突然、家を飛び出す娘に両親も慌てた。
「ちょっと、貴方があんなこと言うから!」
「で、でも……。元気を出してもらおうと……」
「はぁ……。あなたって人は。まぁでも、今はあの子はしばらくそっとしといた方が良いかも……。また後で迎えに行きましょう」
「ああ、そうだな……」
 両親を背に、リリーは家を飛び出してから、キョロキョロと辺りを見渡した。ミヤは追いかけてきたリリーに足を止めずに家の角を曲がった。
 拓斗は突然飛び出してきたミヤとリリーの姿に驚いていたが、黒乃がそこに向かおうとする拓斗を無言で制止した。
 リリーはザッザッと草を駆け回るミヤの音が耳に聞こえてきて、その音を辿ってリリーも走り出す。けれど、家の角を曲がる時、急なカーブだったために、リリーはズルリと足をくじかせて、その場に前のめりに倒れてしまった。それを見て、ミヤも足を止めて彼女の方を振り返る。
「うっ……う……っ」
 リリーはまた、大きな瞳に涙を浮かべ、今まで抱えてきた思いが溢れ出して耐えきれなくなったか、大きな声で泣き出した。
「うわぁああああああん!」
 ミヤはそれを見て、慌てて彼女へと駆け寄った。
――みゃ、泣くみゃ、泣くみゃ! ほんとに困ったさんだみゃ。
 しかし、ミヤの声は当然届かず、彼女はただ大声でひたすらに泣き続けた。
「ミヤぁああ! ミヤぁああ! 会いたいよ! 会いたいよぉおおおお! うぁあああ! ああぁああ!」
 その悲痛な願いにミヤはどうしたら良いかわからずに、その場で狼狽えてしまう。
――違うみゃ。違うんだみゃ。みゃーはすぐ傍にいるみゃ。目の前にいるんだみゃ。どうして見えない? みゃーはこんなにも近くにいるのに。どうして聞こえない。みゃーはこんなにも近くで鳴いているのに……。泣かないで。泣かないで、可愛い子。
 遠くでそれを見ていた拓斗は、やっと自分が大きな勘違いをしていることに気づいた。彼は、ミヤが捨てられたのだと思っていた。けれど、そうじゃなかった。ミヤは亡くなっていて、今そこにいるミヤは――幽霊なのだと。
 ミヤに会いたいと泣き叫ぶリリーの姿に、拓斗はぎゅっと拳を握った。
――僕には何もしてあげられない。僕は結局また助けることができなかった。けど、けど――。
 人に頼ることも大事だと黒乃は拓斗に言ってくれた。拓斗は真剣な眼差しで黒乃を見た。どうするからはお前が決めろ。だから――
「黒乃、お願いがあるんだ」
「……仰せのままに」

 リリーが泣き喚くのを止めることも出来ず、ただ狼狽えていたミヤだったが、ミヤの周りを突然、黒い霧が包み込んだ。すると、その霧はミヤの体にピッタリとくっついて、ミヤの形を形成したのだ。
「ミヤ……!?」
 リリーは突然目の前に現れたミヤの姿に泣くのも忘れて仰天していた。ミヤも意味がわからずに、自分の体を見たり掻いたりして、自身の体を確かめた。
「ミヤ! やっぱりいたのね!」
 リリーが喜びで顔を綻ばせ、ミヤへ抱きつこうと手を伸ばした時――。
 スカッ。
「あれ?」
 スカッ。
「なんで?」
 スカッ。
「どうして!?」
 何度試しても、リリーの腕はミヤの体をすり抜けてしまう。何度も何度もその腕に抱こうと手を伸ばす。
「なんで!? なんでなの!? ミヤは目の前にいるのに! どうして触れないの!? ミヤ! ミヤ!!!」
 リリーはまた目には目を涙を浮かべて、悲しみに顔を歪ませた。ポロポロとその雫が頬を流れて地面に落ちていく。ミヤもその涙を拭おうと、リリーの頬へ舌を這わせるが、その舌もリリーの体をすり抜けて、温もりも何も感じない。
――こんみゃに傍にいるのに……。みゃーの体はリリーの体をすり抜けてしまう……。こんなにも悲しそうな顔をしている彼女の顔を笑顔にすることも、目から溢れる水も拭うことができみゃい……。
「ミヤ……。ミヤ……ごめんね……」
 リリーはミヤに触れられないと分かっていても、彼女の頭を優しく撫でるように頭に手を添えた。ミヤも触れられることはないけれど、リリーが撫でやすいように耳を伏せて目を閉じた。
「あたし……ミヤの病気治せなかった……。ミヤの病気にもっと早く気付いてあげてたら、治せたかもしれないのに……」
 リリーはそれをずっと謝りたかった。思い返す度に計り知れない後悔の波が彼女の心に押し寄せる。胸が張り裂けそうだった。
――あぁ、死ぬ前もずっとそんなこと言ってたっけ? でも、みゃーは難しいことはよくわかんみゃいみゃ。リリー、リリー。みゃーの可愛い子。どうか泣かないで。顔を上げて。
「リリー」
「えっ?」
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