神様のお導き

ヤマト

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1話目! 白の章 枯れない愛

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 白は拓斗がついうっかり飛ばしてしまったメッセージを脳内で受け取り、その時、一瞬だけ顔を顰めた。どうやらマリーの容態は急変したらしい。
「もうあのババアの寿命は数分そこらだ。オレを引き剥がす意味は無いと思うがなァ」
 悪魔の言うことに嘘はない。確かにもう、間違いなく彼女は死ぬだろう。それでも――
「それでも、頼まれた以上、約束を破る訳にはいきません」
 白はキッと悪魔を睨みつけ、悪魔に向かって手を翳した。
「オォ? 何だァ? 何するってんだ?」
 悪魔は白のことを軽視しているようで、白を嘲り笑いながら、左右へゆらゆらと羽を揺らした。
「貴方がマリーさんから離れないと言うのなら、私にも考えがあります」
「ほう? それってェとォ?」
「こうです」
 白がそう一言言い放つと、悪魔の身体は制御を無くし、翼も体も動かなくなり、地面へと強く叩きつけられた。
「ガッ!?」
 更に、叩きつけられた右手の人差し指が曲がるはずもない方向へと勝手に曲がり、悪魔は手から迸る激痛に悲鳴を上げた。
「グッギャアアアアアアア!?」
「貴方が離れると言うまで、その指を一本ずつへし折ります」
「テッ、テメェッ!」
「二本目」
 ベキッと、嫌な音を立てて、今度は右手の中指が手の甲に着くぐらいの勢いでへし折り曲がった。
「アァアアァアアアァアア!!」
 白はそんな悪魔の悲痛な叫び声も諸ともせず、淡々とこう語った。
「昔、世界が滅びる前の映画で観たんですよ。自分を十字架で払おうとする人間の指を、悪魔が十字架を持つその手の指を一本一本へし折って、十字架を離させて殺すんです。それを悪魔にするのも一興かなって思って、今実行してみてるんですけど――気分は如何でしょう?」
 薄らと笑みを作り小首を傾げる白に、悪魔は一瞬恐怖を覚え、身を強ばらせた。
「クッソがぁあああぁあああ! 悪趣味な真似したがってェエエエエエ! ぐっ!」
 また、悪魔の指が奇妙な方向へとへし曲がる。今度は薬指が。
「早くして下さい。このままじゃ貴方の指が全部へし折れてしまいますよ。全部折れたら、もう――殺すしかありませんよね……?」
 白はぬっと顔を悪魔へと近づけて、光の差さない瞳に悪魔を映した。悪魔は顔から冷や汗が吹き出し、いつの間にか呼吸もかなり荒くなっていた。
「わ、わかった! わかったから! 出ていく! 出ていくよ! だから殺さないでくれ! オレだってまだ人生を謳歌したい!」
 やっと条件を飲み込んでくれた悪魔に、白は安心したようににっこりと笑ってみせた。
「最初からそう言ってくれれば良かったんですよ」
 にっこりと笑う彼女だが、その目は全く笑っていない。彼女のおっかなさに悪魔は顔を引き攣らせてぎこち無く笑った。
「では、約束通りすぐにこの家から出ていって下さいね」
 白はそう言って、くるりと踵を返し、家から出ていこうとした。が、その時――
「ケケッ! このクソマヌケが!」
 白が悪魔に背中を向けた途端、体が自由になった悪魔は、その一瞬の隙を突いて白へと襲いかかり、その鋭い牙と爪で彼女を仕留めようとした。その牙と爪が白の白く柔らかな肌へとくい込んで、赤い血飛沫をまき散らせたはずだった。
「アレェ……?」
 そう、そのはずだった。
 血飛沫を撒き散らしたのは白ではなく悪魔の方で、悪魔の首から上は、ごとりと床へとボールのように転がった。下半身は床を這いつくばり、ピクピクと痙攣して身体の自由を失った。
「格の違いもわからず無様に敵に立ち向かうのは、三流のすることですよ」
 白の手にはいつの間にか青白い刀身をした刀が握られていて、その刃には悪魔の血と思われる、紫色の液体が滴っていた。
悪魔の体と頭はパキパキと冷たい氷に覆われて、花と同様に砕けて、青白い粒子となって消えていく。
「ふぅ……。こんな光景、拓斗さんやマリーさんには見せられませんからね……」
 白は、外に出てもらっていた二人のことを思い出しながら、刀をくるりと回して亜空間へと消しさった。
「さぁ、さっさと二人の許へ戻りましょう」
 粒子となって消えゆく悪魔の残像を背にして、白はその場から足早に去って行った。
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