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第一章
第七話 魔王、ぶっ放す
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まもなく、エリスの全身が淡い赤の光に包まれる。
――今のわらわの魔力は、昨日の経験から、おおよそ大魔法二発分。そして大魔法程度ではあの大群には焼け石に水じゃ。となれば……これしかあるまい。
「【アートール・ミルマ・ガータ シ・トルテ・イ・ルーヴォ 焔と雷の精霊よ 我が呼び声に応えよ】」
エリスの口から詠唱が紡がれる。
詠唱とは、周囲の精霊たちの力を借りて魔法を発動するための、謂わば交渉の儀式である。
精霊の助力を得られれば、自身の魔力消費を大きく抑えることが可能となる。
――詠唱は面倒じゃし時間がかかるから好きではないのじゃが……まぁ、今はそうも言っていられんからな。
詠唱を続けるエリスの身体が、ふわりと浮き上がる。
それに合わせるように、エリスの真上の空が、その表情を急速に変化させ始めた。
突如吹き始めた猛烈な風が、周囲から雲という雲を引き寄せ、渦巻く黒雲を生じさせる。
それはやがて、屋敷はおろか、見渡す限りの土地を覆うほどに巨大な、黒いドームへと変貌した。
大気が震え、まるで竜の巣が如く、ドームの至る所で雷が閃光を放ち始める。
大地が裂けたかのような雷鳴が響き渡る中、桁外れのエネルギーがドームの中心に向かって凝縮されていく。
超々高密度に集中し、練り上げられた力がピークに達した時、突如、時が止まったかのような静寂が生まれた。
暴れ竜のようだった雷光は鳴りを潜め、ドームの中心、その一点に、輝く白い球体が現れる。
神々しいまでの輝きの中に、圧倒的な暴力を詰め込んだそれは、静かに、ただ、浮かんでいた。
そして、エリスがゆっくりと眼を開く。
木々や建物を薙ぎ倒し、猛烈な勢いで爆進していたモンスターの群れが、もう少しで屋敷の門に到達しそうといったところで、急激にその速度を緩めるのが見えた。
「……今更慌ててももう遅い。喧嘩を売る相手を間違えたようじゃな」
もはや個々のモンスターが目で識別できる距離まで近づいた群れに向かって、エリスは右腕を伸ばした。
「【豪天雷迅鎚】!!」
エリスの最終詠唱。
直後、空に浮かぶ白い球体が、自身の内包する全エネルギーを解き放った。
生み出された衝撃波が、周囲にあった黒のドームを爆散させる。
そして、まるで世界樹の幹のように太く巨大な光の柱が、モンスターの群れを直撃した。
世にも恐ろしい炸裂音を轟かせながら、大地が震撼する。
目も眩むような激しい光を放つ雷の柱は、ふた呼吸の時間ほども、猛烈なエネルギーを地面に激突させ続けた。
まるで大地の戒めから解き放たれたかのように、モンスターたちが天高く吹き飛ばされていく。
焼き尽くされた身体は殆どが炭と化していて、そのまま空中で粉々になり、突風に巻かれて消えていった。
数百はいたであろう、大小様々なモンスターたちは、最期の悲鳴すら轟音にかき消され、続々と数を減らしていく。
……まもなく、焔と雷の精霊たちの狂宴が終わりを迎えると、無惨に黒く焦げた大地だけがその姿を残していたのだった。
「まぁ、こんなものかのぅ」
エリスはゆっくりと腕を下ろす。
乾いた風が、彼女の髪を揺らした。
エリスは魔力の残量を確認する。
精霊の協力のおかげでギリギリ魔力枯渇には至らず済んだようだったが、エリスは少し不満顔だった。
――精霊に手伝わせても、ほぼ空っぽか。前世ではこんなもの、一人でバカスカ撃てたのじゃがなぁ。
ふぅ、とため息をつくが、すぐに頭を切り替える。
今は他にやることがあるのだ。
「一介の小娘が極大魔法を使ったなど、バレたらマズイ。たまたま雷が落ちて助かった、ということにせねばな。まぁ、屋敷の者どもを誤魔化すくらい、ちょろいものじゃ」
しかし。
浮遊した身体をコントロールし、ふわりとテラスに着地したところで、エリスの耳に聞こえてきたのは。
割れんばかりの、大歓声だった。
「なんじゃ!?」
エリスが慌ててテラスの下を覗くと、そこにいたのは……
屋敷の庭を埋め尽くすほどの、人、人、人。
「な、何じゃこやつらは!?」
皆、テラスから顔を見せたエリスに向かって、笑顔で手を振り、声を張り上げている。
その全てが、感謝と賛辞の言葉だった。
「エリスお嬢様!ありがとうございます!助かりました!」
「すごいです!!あんな魔法を使えるなんて、全然知りませんでした!」
「なんて美しい魔法なんでしょう!!光の柱だったわ!神秘的!!」
「なななななな、何を言っておるのじゃこやつらはああああああ!!!!」
――まさか、わらわがアレを放つところを見られたのか!?こんな大人数に?!
エリスは顔面蒼白になって戦慄する。
その時、部屋のドアがノックされた。
「なんじゃ!?」
ゆっくりとドアを開けて入ってきたのは、眼から滝のように涙を流している、執事のじいやだった。
「お嬢様……見事、見事でございます……。まさかご自身の力であの大暴走をお止めになるとは……」
「ええい、じいや!涙を拭かぬか!あの、下の連中は何なのじゃ!」
「はっ。お嬢様が、『皆の避難は任せる』とおっしゃいましたので、大暴走に追われて逃げてきた民を全て敷地内に入れ、保護しておりました」
「な、な、な……」
「領民の安全を第一に気遣う、まさに領主の鑑……。このじいや、お嬢様のご成長を大変嬉しく思います……」
――なんじゃそりゃああああああ!!!!
心の中で絶叫しながら、エリスは膝から崩れ落ちた。
……目立たず騒がず人間社会潜伏計画!の企ては、こうして、いきなり綻びを見せることになる……。
――今のわらわの魔力は、昨日の経験から、おおよそ大魔法二発分。そして大魔法程度ではあの大群には焼け石に水じゃ。となれば……これしかあるまい。
「【アートール・ミルマ・ガータ シ・トルテ・イ・ルーヴォ 焔と雷の精霊よ 我が呼び声に応えよ】」
エリスの口から詠唱が紡がれる。
詠唱とは、周囲の精霊たちの力を借りて魔法を発動するための、謂わば交渉の儀式である。
精霊の助力を得られれば、自身の魔力消費を大きく抑えることが可能となる。
――詠唱は面倒じゃし時間がかかるから好きではないのじゃが……まぁ、今はそうも言っていられんからな。
詠唱を続けるエリスの身体が、ふわりと浮き上がる。
それに合わせるように、エリスの真上の空が、その表情を急速に変化させ始めた。
突如吹き始めた猛烈な風が、周囲から雲という雲を引き寄せ、渦巻く黒雲を生じさせる。
それはやがて、屋敷はおろか、見渡す限りの土地を覆うほどに巨大な、黒いドームへと変貌した。
大気が震え、まるで竜の巣が如く、ドームの至る所で雷が閃光を放ち始める。
大地が裂けたかのような雷鳴が響き渡る中、桁外れのエネルギーがドームの中心に向かって凝縮されていく。
超々高密度に集中し、練り上げられた力がピークに達した時、突如、時が止まったかのような静寂が生まれた。
暴れ竜のようだった雷光は鳴りを潜め、ドームの中心、その一点に、輝く白い球体が現れる。
神々しいまでの輝きの中に、圧倒的な暴力を詰め込んだそれは、静かに、ただ、浮かんでいた。
そして、エリスがゆっくりと眼を開く。
木々や建物を薙ぎ倒し、猛烈な勢いで爆進していたモンスターの群れが、もう少しで屋敷の門に到達しそうといったところで、急激にその速度を緩めるのが見えた。
「……今更慌ててももう遅い。喧嘩を売る相手を間違えたようじゃな」
もはや個々のモンスターが目で識別できる距離まで近づいた群れに向かって、エリスは右腕を伸ばした。
「【豪天雷迅鎚】!!」
エリスの最終詠唱。
直後、空に浮かぶ白い球体が、自身の内包する全エネルギーを解き放った。
生み出された衝撃波が、周囲にあった黒のドームを爆散させる。
そして、まるで世界樹の幹のように太く巨大な光の柱が、モンスターの群れを直撃した。
世にも恐ろしい炸裂音を轟かせながら、大地が震撼する。
目も眩むような激しい光を放つ雷の柱は、ふた呼吸の時間ほども、猛烈なエネルギーを地面に激突させ続けた。
まるで大地の戒めから解き放たれたかのように、モンスターたちが天高く吹き飛ばされていく。
焼き尽くされた身体は殆どが炭と化していて、そのまま空中で粉々になり、突風に巻かれて消えていった。
数百はいたであろう、大小様々なモンスターたちは、最期の悲鳴すら轟音にかき消され、続々と数を減らしていく。
……まもなく、焔と雷の精霊たちの狂宴が終わりを迎えると、無惨に黒く焦げた大地だけがその姿を残していたのだった。
「まぁ、こんなものかのぅ」
エリスはゆっくりと腕を下ろす。
乾いた風が、彼女の髪を揺らした。
エリスは魔力の残量を確認する。
精霊の協力のおかげでギリギリ魔力枯渇には至らず済んだようだったが、エリスは少し不満顔だった。
――精霊に手伝わせても、ほぼ空っぽか。前世ではこんなもの、一人でバカスカ撃てたのじゃがなぁ。
ふぅ、とため息をつくが、すぐに頭を切り替える。
今は他にやることがあるのだ。
「一介の小娘が極大魔法を使ったなど、バレたらマズイ。たまたま雷が落ちて助かった、ということにせねばな。まぁ、屋敷の者どもを誤魔化すくらい、ちょろいものじゃ」
しかし。
浮遊した身体をコントロールし、ふわりとテラスに着地したところで、エリスの耳に聞こえてきたのは。
割れんばかりの、大歓声だった。
「なんじゃ!?」
エリスが慌ててテラスの下を覗くと、そこにいたのは……
屋敷の庭を埋め尽くすほどの、人、人、人。
「な、何じゃこやつらは!?」
皆、テラスから顔を見せたエリスに向かって、笑顔で手を振り、声を張り上げている。
その全てが、感謝と賛辞の言葉だった。
「エリスお嬢様!ありがとうございます!助かりました!」
「すごいです!!あんな魔法を使えるなんて、全然知りませんでした!」
「なんて美しい魔法なんでしょう!!光の柱だったわ!神秘的!!」
「なななななな、何を言っておるのじゃこやつらはああああああ!!!!」
――まさか、わらわがアレを放つところを見られたのか!?こんな大人数に?!
エリスは顔面蒼白になって戦慄する。
その時、部屋のドアがノックされた。
「なんじゃ!?」
ゆっくりとドアを開けて入ってきたのは、眼から滝のように涙を流している、執事のじいやだった。
「お嬢様……見事、見事でございます……。まさかご自身の力であの大暴走をお止めになるとは……」
「ええい、じいや!涙を拭かぬか!あの、下の連中は何なのじゃ!」
「はっ。お嬢様が、『皆の避難は任せる』とおっしゃいましたので、大暴走に追われて逃げてきた民を全て敷地内に入れ、保護しておりました」
「な、な、な……」
「領民の安全を第一に気遣う、まさに領主の鑑……。このじいや、お嬢様のご成長を大変嬉しく思います……」
――なんじゃそりゃああああああ!!!!
心の中で絶叫しながら、エリスは膝から崩れ落ちた。
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