天振の賽

しろくま

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二章 進化の賽

100マスバックギャモン

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時々父の賭博場に訪れる大道は、その度に賽を振り、その圧倒的な賽力により、あらゆるギャンブラーをギャンブルの闇に葬ってきた。そして、度重なる勝負の中で賽のなんたるかを少しずつ学んでいった。

大道の噂はすぐに広まり、天災の災と賽の賽を掛けて天賽なんて呼ばれたりした。

そしてある日、とある男が大道にギャンブルを持ちかけてきた。
男の名は坂上徹。

実はこの男 なかなか有名なギャンブラーだった。彼はギャンブルの世界へ入ってすぐに有名になるような いわゆる天才を狩るギャンブラーだった。
そして持ちかけてくるギャンブルから、ザ・バックと呼ばれていた。

坂上に呼ばれた大道は父と共に坂上宅へ出向いた。彼の家は想像とは随分違い、案外平凡な家だった。
「さあさあお二人ともこちらへどうぞ」
家の中もごく普通だった。本当にこの人がザ・バックなのだろうかと大道は疑った。
が、その疑いはすぐに吹き飛ばされた。

彼は茶色のドアを開けると、そこには地下へ続く階段があった。階段を降りると黒くて重厚な扉があり、その先はなんとカジノになっていた。
そう、彼は自宅の地下にカジノを設けていたのだ

カジノに入るとカジノの客たちがざわめいた。
そして一人の男の
「あれだ!あれがくるぞ!」
という言葉と共に歓声が響いた。その中を坂上はどんどん奥へ、カジノの奥の部屋へ入った。

すると中は闘技場のような部屋になっていた。
そして部屋の中央には大きな机があった。
「これが俺の十八番 100マスバックギャモンだ。」

バックギャモンとは西洋で生まれた双六である。
そのルールは、一本道の24個のマスをお互いに反対方向に攻めていき、先に自分の15個の駒を全てゴールに入れたほうが勝ちというもの。

このゲームの特徴的なところは、
まず、相手の駒と自分の駒が同じマスにいることはできないこと。
次に、相手の駒が一つだけのマスに自分の駒を進めると、その相手の駒は一度ゲームから追放されてしまい、追放された駒がある状態で盤上の駒を進めることはできず、真っ先に追放された駒をゲームに復帰させないといけないこと。
それと、サイコロを二つ使うところである。
ああ、あと全ての駒の初期位置がスタートではなく、自分から見て1マス目、12マス目、17マス目、19マス目に任意の数の駒が置かれる。

しかし、この100マスバックギャモンは
まずマスが100マスで、駒の初期位置が全て1マス目であること。
それとこのゲームで最も特徴的なのが、賽が途中で変わることである。
使う賽は7種類。
4面賽、6面賽、8面賽、10面賽、12面賽、20面賽、2桁10面賽である。
2桁10面賽は10面賽の目を10倍にしたものである。
相手の駒を追放する度に賽の面が大きくなっていくが、逆に自分の駒を取られると4面賽に戻ってしまう。如何に相手に駒を取らせないかが勝負のカギとなるゲームである。

「そして今回は特別ルールを設けさせてもらう」
坂上がそう言ってポケットから取り出したのはゾッキヘドロンと言われる100面賽。
その姿は賽というよりかは、数字の書かれたボールに近い。
「俺の賽が上がる度に、この賽をお前には振ってもらう。そしてこの出目の数×10000だけ、賭け金が上がるというルールだ。」

坂上は大道の噂を聞いて思った。あらゆるギャンブルに使われる賽。その目を操れるとなれば、いつか大道はギャンブルの世界の頂点に立つような存在になるかもしれないと。
今まで坂上が狩ってきた天才も、心理戦の天才や、勝負の展開を予想する天才など、能力の限られた天才だった。だが、賽の天才となればもはや次元が変わってくる。だから坂上は大道が子供のうちに息の根を止めておかなければならない。
そう思ったのだ。
「それと、始めの賭け金も100面賽で決める」

こうして坂上との変則異例の100マスバックギャモンが幕を開けた。




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