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第4章 少年期〜青年期 学園3学年〜卒業編
19話 アメトリンの居場所
しおりを挟む母親のシトリスは息はしているが目を覚さないアトリーを抱え込み泣きながら頬を撫で、父親のアイオラトは悔しげな表情で使用人を急かせた。他の家族やソルドアも心配そうにアトリーを見ている中、彼を守護する聖獣達が動き出した・・・
夜月:『鎮まれ!!』
と、すべての人々に聞こえるように声を発した・・・・
「「「「「!??」」」」」
サフィアス王「い、今のは・・・」
アイオラト「ヤヅキ様・・・」
サフィアス王「ヤヅキ様!?だと!?・・・・・デューキス公爵、聖獣様方はいつ、アトリー以外ともお話なされるようになったんだ?」
アイオラト「はぁ・・・最初からですよ」
王族一同「「「「「なっ!?」」」」」
サフィアス王「何故それを最初から報告しなかった!?」
前国王ロブル「なんと、最初からとはな・・・・」
第三王子「今まで我ら王族を欺いていたとは、これは明確なる叛意では無いですか!?」
アイオラト「第三王子殿下、下手な勘ぐりはやめて頂きたいですね。報告しなかったのでは無いです、できなかったんですよ・・・」
サフィアス王「?、どう言うことだ?」
凄みのある表情でアイオラトを問い詰めるサフィアス王、そんなサフィアス王に問い詰められても、焦るどころか今は煩わしいと言わんばかりの表情でそう返答するアイオラト。そんな素っ気ない態度のアイオラトに詰め寄ろうとした時・・・
夜月:『やめぬか!「っ!」それは我らが他言無用としたからだ。そんなことより、今はアトリーの事だ、今、起こった現象は本来、人間達の前で起こり得ることではない、ちょっとした手違いで起きた、神々の連絡手段での伝言の失敗、誤作動のようなもの、先程の音声はこの世界の主神であらせられるリトスティーナ様宛の伝言だ、送り主は其方達に言っても理解はできないだろうから詳しく話はしないが、簡単に説明すると“他世界の上級神“からのものだ、なので其方達に関係のない話なので気にする必要はない。そして1番重要なアトリーの容体だが今はただ寝ているだけだ、その内すぐに目を覚ますので心配しなくていい。「「「「「ほっ・・・」」」」」それより、其方達はそのまま予定通りに結婚式を進めよ。もしこの場で取り止めになったりすればアトリーが深く悲しむことになるからな・・・』
デューキス家一同「「「「「!!」」」」」
サフィアス王の言及を止めた夜月に言われた言葉で、アトリーの家族は安堵した後すぐに表情を変え気を引き締めた。
アイオラト「そうですね、分かりました・・・、カイ、お前はそろそろ正面玄関から馬車に乗り込まねばならないだろう、パティ嬢を連れて先に行きなさい、私達もお前達を見送った後すぐに屋敷の方に戻るから・・・」
カイヤト「はい、アトリーに私達の新たな門出を見送ってもらえないのは残念ですが、他の招待客の方々を待たせる訳にも行きませんからね・・・」
アイオラト「そうだね、それは仕方ない、それよりアトリーが披露宴を楽しみにしていたから、それを取り止めにする訳にはいかない・・・」
カイヤト「分かってます、では父上、先に表に出ますね。・・・パティ、すまないね、説明は後でちゃんとするから、今は結婚式の続きをしてくれるかい?」
新婦シンパティア「はい、カイ様」にこっ
急な方向転換について行けてない王族一同や新婦側の親族達を置いてきぼりにして、サクサクと話を進めるアイオラトと新郎のカイヤト、その話を聞いた使用人達はすぐに動き出し、各々すべき事を手際よく進める。
あるものはポカンッと呆けていた神殿の神官達を正気に戻し、出立の手順を確認したり、フラワーシャワーの準備の確認を取ったり、あるものは招待客が全て揃っているかの確認をしに表へ行き、ソルとアトリーの専属達はアトリーが楽に寝ることができるようにネクタイなどを解いたりして、すぐに馬車に寝かせる算段を立てたりしていた。
また、他にもデューキス家の家族がのる馬車の準備を急いだり、屋敷の方へ今までの経緯の説明と披露宴会場となる庭園の現状確認のために先に屋敷に戻る人員を選抜し送り出している者達もいた。
そんな慌ただしくなって来た周囲に慌てることなく、カイヤトの言葉だけで笑顔で全てを受け入れた新婦のシンパティアは、物凄く器が大きい女性だと、この場にいた誰もが思ったであろう・・・
サフィアス王「・・・・・!!、ちょ、ちょっと待て!?」
カイヤトが新婦を連れて神殿入り口に向かっていなくなった後、やっと動き出したサフィアス王、未だ困惑した様子で、同じように新郎新婦を見送るため神殿入り口に移動しようとしていたデューキス家に待ったをかけた。
アイオラト「!?、陛下、どうなさったんですか?もう移動しませんと、見送りに間に合いませんよ?コミス家の方々も・・・」
サフィアス王「いやいやいや!今はそんな場合ではないだろう!?ヤヅキ様がお喋りになった事はこの際良いとして、先程の“他世界の神“からの伝言の内容に何か意図を感じなかったのか!?そんな重要なことよりアメトリンが起きた後の反応を気にするのか!?」
今起きた事で気にする優先順位がおかしいと訴えるサフィアス王に・・・
アイオラト「?、当たり前ではないですか?我が家の可愛い息子は何よりも家族との思い出を大切にしているのです。それが自分のせいで取りやめになったとしたら、どれだけ落ち込み、後悔するか、そんなアトリーの心境を考えただけで胸が張り裂けそうです。アトリーにそんな思いをさせないためにもこの結婚式は中止できないのです」
何の迷いもなく、当たり前のようにそう理由を話すアイオラト。
サフィアス王「!・・・・それは国の存亡がかかっていてもか?・・・」
アイオラトのその返答にサフィアス王は今回の事で、アトリーが目当ての神がこの国にどんな影響をもたらすかと心配して、今からでもその事について緊急で重鎮達を招集し議論をするべきと言いたい様だった。
アイオラト「陛下、私達は何も、国を蔑ろにしている訳ではありません。ただ、聖獣様方も今はアトリーの心を1番に考えているのです。“神々への伝言“のことはヤヅキ様が仰ったように我らには関係がない事なのです。だから先程の事で国の存亡がかかるような事態にはなりませんよ。もしそのような事になるのなら聖獣様方はアトリーを守るため、アトリーを連れてもうすでにこの場にはいないでしょう。ですが、聖獣様方はまだこの場に居られる。だから私達は慌てず、今できることをしているのです」
サフィアス王は国を1番に考える国王だ、だからこそ、その優先順位にちゃんと理解しているアイオラトは、自分達が国を蔑ろにしている訳ではない事も含め、今、自分達がしていることがどういった理由で決めたか簡潔に話した。
サフィアス王(そうは言っても、この世界にこれから訪れるかも知れない未知の“神“に対しての対策を話し合うより、アメトリンを悲しませないという理由だけで結婚式を続ける、その理由が私には理解できないな・・・)「・・・・何としても、聖獣様方やお前達はアメトリンを優先すると言うのだな?・・・」
国が危機的状況ではないとは分かったが、聖獣達やデューキス家の人々がアトリーをそこまで優先する心情が理解できないといった表情で聞いてくるサフィアス王にアイオラトは・・・
アイオラト「・・・陛下、まず、前提として、アトリーは全てにおいて特別な存在です。私達の大切な家族としても、神々や聖獣様方の愛し子としても、・・・だが、あなた方はまだこの子の事をまるで理解していないようだ。
アトリーは全てにおいて自由を保障されているのです。いつでもこの国を出ていくことができるんですよ?あの子は何者にも縛り付ける事などできない存在なんですから・・・でも、そんなアトリーがなぜ今もこの国に、この場にいるのか、それはひとえに私達、家族という存在いるからなのです。あ、もちろん、私達はあの子を故意に縛り付けているわけではありませんよ?
私達家族はあの子がどんな存在になろうとも、普通の我が子として愛し続けているのです。またアトリーも私達に同じように家族として愛を返してくれています。そして、何があろうともあの子と私達は家族である事は揺るぎない真実です。だからこそ、あの子も信頼を持ってこの場に留まっているのです。ですがもし、あの子がこの国を出ていく時が来て、どこか遠くへ行こうとも迷わないように帰ってくる居場所であり続けるために、今、必要なことをしているだけのことです」
(・・・・あの時“自分が自分でなくなりそうだ“と言ったアトリーの不安を少しでも和らげるなら、家族との思い出と言う“鎖“で繋ぎ止める、その為なら私達はこの先どんな事でもすると決めた、これはデューキス家全員の決定事項だ)
アイオラトはサフィアス王に分かりやすく説明するように話し出した。
まず、前提が間違えているのだ、アトリーはこの世界の主神から自由に生きていい権利を与えられている、それが意味することは、アトリーがこの国にいる必要性を感じなければ、いつでもこの国から出ていく事はできたということ・・・
だが、今までそれをしなかったのは、この国が自分の生まれ故郷として認識していて、家族が住んで生活している場所だから、家族と過ごしたいとアトリーが思っているから、しなくてもいい勉強や守らなければならない規則を律儀に守っているのは、家族である自分達の常識にアトリーが自ら合わせているからであって、強要した訳ではない。
自分達はアトリーを普通の子供として扱い愛情を注いできた。アトリーも普通に家族に深い愛情を持っている、だから、自分達の存在が大きいのだと理解している。
だからこそ、アトリーはまだこの国を出て行ってはないし、ちゃんと常識に則り、規則に準じて生活していると、自惚れではない明確な理由と強い意志を持って、今まで通りアトリーに家族として愛を注ぎ、いつでも帰れる居場所であり続けると・・・
その為には多少の優先順位の変動は致し方ないとも思っているといった意味を含め、堂々とサフィアス王に言い放ったアイオラトの姿は、何の迷いも無く揺るぎない決意に満ちて、やましい事も、後ろめたい事もないと、ただ、ひとえに家族としての愛を示し続けるだけだと心の底から表明していた。
サフィアス王「・・・・ふぅ・・・、お前が親バカだったのを忘れていたよ。そして、アメトリンが家族思いだという事も・・・」
(確かに、事実として、アメトリンの今までの行動の起源は実に明快で、自分の大切なものか否か、ただその一点で行動を決めている。自分の帰るべき場所も自分の守るべきものとして認識している・・・それを理解しているからこそ言葉には出さなかったが、アイオラトは自分が国にできる最大限の貢献をしていると言いたいのだろうな・・・私達は、いや、この国はアメトリンがこの地にいるだけで有りとあらゆる恩恵が受けられているのだから・・・・はぁ、至らぬ問いをしてしまったなぁ・・・)
後悔先に立たずとはよく言ったもので、自分がした質問でデューキス家また聖獣達との関係がギクシャクしてしまうのではないかと、心の中で盛大に後悔のため息を吐いたサフィアス王だった・・・・
何はともあれ、もう少しでデューキス家と王家が対立関係になりそうな場面だったが、サフィアス王がその険悪な空気を親バカと家族思いという言葉だけで無理やり誤魔化し、その場は明確な対立関係とはならなかった。後にその事で王家は心底そんな事にならなくて良かったと、密かに深い安堵の息を吐いたのは王家の人間の間だけの秘密だ。デューキス家と事を構えるということは、一国をも簡単に滅ぼす事のできる聖獣達と神になり得る力を有したアメトリンを敵に回すと同義だったのだから、もう少しで国の形が変わるところだったとはその時は誰も思いもしてなかったのだ・・・・
夜月『アトリーだったら、わずかな犠牲をも出さずにこの国の土地を奪い、デューキス公爵領を独立させて、自らの居場所をそつなく確保しただろうからな・・・・』
と、少々怖い予測を立てた夜月の言葉は王族達には届かなかったはずだが、不思議と王族達全員が同時期に寒気を感じて身震いをしたのだった・・・
その後すぐに準備を急いでいた神官達が礼拝堂に入って来て、新郎新婦の出立の準備が整ったので、全員神殿入り口まで出てくるようにと言われ、各々速やかに移動を始めた。
今回の話で納得のいかない部分は多くあり、あの空から降ってきた伝言に至っては全くもって理解がいかず、モヤモヤした気持ちの者達がたくさんいた、でも、その後も詳しい説明は夜月からされる事もなかった。そもそも、夜月はアトリーとアトリーが気を許した人間以外と喋るつもりがなかったことを、ちゃんと説明してもらった訳でもなく、そのことに関してはただ疑問が残った王族達だった。そして、これまでの全てのことに関して新婦側の親族、コミス家の人達は完全に蚊帳の外で、今起きたことも、今までの話の内容も何が何だか全く理解不能だった事だろう、だがただ一つこれだけは理解できた、今、見聞きしたことは全て他言無用、誰にもしゃべってはいけない事だと・・・・
ちなみに、神殿所属の神官達は今の事は大司教によって口止めされ、本国に簡単な報告だけが上げられた、後々その報告が大変な事態を招くとも知らずに・・・
この時、寝ているアトリーは、ソルと他の使用人達の手で神殿の裏手に準備されたデューキス家の馬車に移動させられ、聖獣達とそこで待機となり、そして後に、新郎新婦のフラワーシャワーの見送りが終わり次第、すぐに乗り込んでくる両親をのせて屋敷に向かう事になっていた。
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