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第3章 少年期 学園編

208話 ”フィズィ“ 第三者 視点

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リーダー格「おやおや、そう焦らずとも、今から分かりますよ。あなた方は今からこれまでにない歴史的瞬間に立ち会えるのですから!!」

帝国王太子「歴史的瞬間だと!?」

リーダー格「そう!この世界の神々の破滅の瞬間を見せて差し上げます!!」

「「「「「何っ!?」」」」」ドヨッ!

 リーダー格の男が高らかに宣言した言葉に、礼拝堂内に動揺が走った・・・・

大司教「何を言っているのです。我々、人がいと尊き神々を破滅させるなど、出来はしない。今からでもいいのです、神々に許しを乞い、心を改めてそのような考えを捨てるのです」

 リーダー格の男の発言にこの神殿の長である大司教が無謀なことはやめ、悔い改める様に諭す。

リーダー格「はぁ?何故そんな事をしなければならないのですか?私達はあの神々に奪われた祖国のための復讐をしようとしているのです!それなのに何故、憎き神々に許しを乞わなければならない!?お前達が崇め奉る神々が誰にも正しく清廉であるなどと、思い込むのは勝手ですが、あの神々は“ほんの少しの行き違い“で国一つを滅ぼす様な残忍な神であることも忘れてはなりませんよ!!」

 ザワッ!「「「??」」」「何のことだ?」「神々に滅ぼされたって・・・」ザワザワッ「あの国のことか?」「でも、あの国は・・・」「主神様の警告を無視して・・・」ザワザワッ「何の関係があるんだ?こんな所で復讐するのは間違ってる・・・」「関係のない子供まで巻き込んでまで・・・」「それに、あれは自業自得・・・」ザワザワッ

 リトス教の神殿の礼拝堂内で堂々と、その主神の行いを否定し貶す言葉を発する男に、周囲は困惑、その中で男の言っている滅びた国に心当たりがある者は、その国が滅びた原因も、もちろん知っていて、それが神の忠告を無視して与えられた神罰によるもので、それが“ほんの少しの行き違い“で起こった事だったなどと絶対に信じてはない。“しかるべきしてなされた神罰だった。“それがこの世界の国々の代表である要人達の共通認識だ。

大司教「貴方の言い分は分かりました。ですが、それと、この度の“儀式“での乱入と関係はあるのですか?神を破滅させると言う目的の中で、幼い命を奪うのは、何が関係があるのです?あなた方は心が痛まないのですか?それに、あなた方はそちらのズューウスの元第五王子とどのような関係がお有りで?」

 大司教は男の話を聞いても、まだ冷静に男の所業を嗜め諭そうとした。そして会話の中で少しでも情報を集めようとする大司教に、各国の要人達は心の中で賞賛を送っていた。

リーダー格「ははははっ!何故今だったかと!?そんなの決まっているではないですか!我が祖国が神々に阻止されて失敗した“神を頼らない勇者召喚の儀式“を成功させ、その勇者候補達が返す“儀式“を使って、我が祖国を滅ぼした“力“を私達が掌握し、神々からこの世界を統べる権利を剥奪するのです!!
 “勇者召喚の儀式“は多数の国の文献に残っていましたので、原理を理解し研究すれば“召喚“には成功しましたが、流石に聖教国が厳重に秘匿している“勇者送還の儀式“の情報はほとんどない中で、予想するしかなかったのですが、そこで気づいたのです!“召喚“に成功した“勇者候補達“をお渡しして、実際の“儀式“の場を用意していただいてはどうかと!それがうまく行ったので、今、この場をお借りしているのです。おかげで、実際の“儀式“の魔法陣を見れましたし、これからする事にこれといった問題は生じないでしょう、むしろ予想の範囲内で収まってよかったです。それも“フィズィ様“のお力添えがあってのことですが・・・」

 大司教の言葉に男は誇らしげに自分達の研究結果の成功やこれから成し得る理想を語りだし。

大司教「なっ!?“勇者送還の儀式“に使われる魔法陣が目当てだったと!?」

 男の計画の一部に今回の“勇者送還の儀式“が元々組み込まれていた事に驚き、そして、男達が実行しようとしていることが、この世界の“力“の掌握にあった事に大司教は眉を顰めた。確かにこの“勇者送還の儀式“に使用されている魔法陣は特別なもので、聖教国内でも門外不出のものだ。その魔法陣を利用して、神々しか操ることができないとされている。“儀式“に必要な“力“を恐れ多くも“人“が操ろうとしているなどと、大司教はじめ、この場にいた神官達は思いもよらなかった。

リーダー格「でもまぁ、私達の予想に反し、聖教国ではなく、この国の神殿で行われるとは思いませんでしたけどね?その過程で“フィズィ様“のお気に入りの子供が関わっていたのはむしろ行幸でした。“心が痛まないか?“と言うご質問には、むしろ私達は“フィズィ様“に恩をお返しできて、そちらの“憎き神々の愛し子殿“には感謝しかございませんね」

「「「何だと!?」」」「「そんな・・・」」「貴様っ!!」「行幸だと!?」「ふざけるな!!」

 “勇者送還の儀式”が通例通り聖教国で行われると予想していた男は、この国で行われるに事になってアメトリンの存在は丁度良かったと言った風の口調で、これっぽっちも良心の呵責や罪悪感を感じさせず、心の底から感謝さえしている態度に、アメトリンの家族や身内は今にも男を殺そうと殺気立ち、飛びかかろうとしているのを必死に堪えていた。そして元第五王子に関しては何一つも語らなかった事に誰もが違和感を感じた。
 
サフィアス王「その“フィズィ“とは何者だ?先程そこの元第五王子の事をそう呼んでいたが、そなたが言う“フィズィ“とは同じ人物か?」

 サフィアス王はその誰もが感じた違和感に容赦なく切り込んでいき、同じような疑問を持った人達も男の反応に注目した。

リーダー格「えぇ、そうですよ。ですが、貴方が“フィズィ様“を呼び捨てにするんじゃありまれんよ!このお方はあなた方のような低脳な人間達には計り知れないほどの知識と力をお持ちなのです!この度の計画もこの“フィズィ様“あっての事、“儀式“で発動させる結界の欠点なども全てお見通しだったのですよ!まぁ、“フィズィ様“が最初からずっといた事さえ気づかないあなた方には思いつきもしないでしょう!」

 男の反応に注目を向けていた人達は男が元第五王子を“フィズィ“だとあっさり認めた事に驚いたが、男にとってあの元第五王子の容姿をした少年は“フィズィ“であって、それ以上でもそれ以下でもない、そう言うものだと言う認識なのだとも分かった。そうなると、この少年は本当に元第五王子なのか?とう言う疑念も生まれた。

「「「「「!!」」」」」

サフィアス王「!!…“儀式“が始まる前からこの神殿に入っていたと?」

リーダー格「ふふふっ、あの程度の警備と身元確認など“フィズィ様“にはあってないようなものです。ふふふっ」

「どう言うことだ⁉︎」「入る時はステータス鑑定の魔道具と幻術勘破の魔道具の両方で確認をとられたんだぞ!」「それをどうやって誤魔化したんだ!?」「見た目は変えれても、ステータスは変えれないだろう!?」

 男はこの神殿の警備体制はあの元第五王子、いや、“フィズィ“には意味がないと言った。だが、神殿に入る際のセキュリティはこの国ができる最大のものだった。アメトリンが開発した“簡易鑑定の魔道具“に性能の高いダンジョン産の“幻術勘破の魔道具“を使用した上、神殿の玄関をくぐる時には悪意を感知する“神器“さえも秘密裏に使用されていた。そんな中に平然と侵入し、この男にここまで大規模な襲撃をするための知恵を授けた、この“フィズィ“と呼ばれる存在は、本当に見たまんまの姿の少年なのか?とさらに疑念が膨らみ周囲の人達は疑いを強めた。
 早い段階で、あの少年が本物の元第五王子ではないかもしれないと疑っていたこの国の重鎮達は、二つの仮説が浮かび上がっていた。一つは単純に他人の空似、もう一つは“フィズィ”が元第五王子の身体を乗っ取っている、と言うもの、現段階で可能性が1番高いのは後者の方だ。身体は元第五王子だが、中身が得体の知れない人物が入っていると言った方が、今の状況ならしっくりくると考えているのだ。

前国王(そして、予想が正しければ、元第五王子の身体に入っているのは“邪神“であろうな。我々の警備や備え付けられた“神器“をも誤魔化すことができるほどの存在など、人であるはずが無い。今もこうして、神々の叡智で組み上げられた魔法陣に易々と干渉しているのだから…ここにいる各国の代表達は、今ここにいる侵入者達が“邪神教“の信徒達だと気づいているのはどれぐらいいるか分からんが、今はそれでいい、それよりここで“邪神“の正体を晒すことができれば、主神様が神罰を下してくださるはずだ、サフィアス、もっとアヤツから情報を引き出すのだ、そうすればアメトリンを救う手立ても見えて来るはず・・・)

 今はまだ、ここに入ってきた侵入者達は自分達が“邪神教“の信徒だとは一度も名乗っていない。“フィズィ“のことを全知全能の神だ何だと言ってはいたが、周りにいる各国の要人達の中ではおそらく亡国の生き残りが、神々に対して無謀な復讐を行おうとしているとしか考えてはいないだろうと、先代のウェルセメンテ国王は察してはいた、だからと言ってそれを教えても混乱を招くことが目に見えている事から、率先して知らせるより、“フィズィ“の正体を見極めることに注力した方がいいと判断した。その事を我が息子である現国王に視線で知らせ、アメトリン奪還のチャンスを作ろうと考えた。

サフィアス王(分かっていますよ、父上。アメトリンの救出は今の1番の重要事項ですからね。じゃないと、デューキス家の者達が今にもあいつらを八つ裂きにしそうな雰囲気ですから・・・)

 父親の視線の意味を正しく受け取り、それを実行する意思を小さく頷くことで返したサフィアス王は少し焦っていた。何故なら溺愛するアメトリンが傷ついたことで、アメトリンの母親であるシトリスは、涙を流しながら“フィズィ“を射殺さんと殺気を含んだ目で睨みつけ、デューキス家の家族全員が今にも侵入者達に飛びかかりそうになっている。家族愛が強いデューキス家の人達が今はまだ飛び出さずにいるのは、アメトリンが誰も突破できない結界の中にいるからであって。その結界が無くなったならばどうなることかと、サフィアス王は戦々恐々としているのである。

サフィアス王(せめてその前に“邪神フィズィ“とやらの正体が判明するまでは待ってほしい・・・)*切実・・・

 “フィズィ“が“邪神“だろうと見当はついても、まだ本当の正体がはっきりと判明したわけではない、向こうも堂々と“邪神“の事を“フィズィ“と呼んでいるが、神々が何の反応も示さないのはそれが“真の名“ではないからだろう。姿も元第五王子の身体を乗っ取る事で本来の姿を巧妙に隠している。あの“邪神“は自分が排除される条件を熟知しているのだろうと思ったサフィアス王。
 彼が、いや王族の血筋を持つ者達がこの条件を知っているのは、この国の王家が元聖教国の神官の家系であったことが理由だ。
 この世界に生息する人種以外の生物などは産まれた瞬間に精霊が見つけて祝福をさずける、すると神からも祝福が送られる、だが邪悪な心の根を持って産まれた生物は、祝福を嫌がる、精霊からの祝福を拒否すると神からも祝福を貰えず、人知れず消えて行く運命になる、だが、稀に外的要因から力を得て、人に害をなす様になる、害を及ぼすようになる原因が人であることが大半であるため、その邪悪な生物を排除するのもまたこの世界の人の手で行うべきものだとされている。
 それでも力をつけ過ぎた邪悪な生物にこの世界の人では排除できない場合は神の助力を得て、別の世界の存在の力ある勇者を召喚する事で、邪悪な生物を排除することができる。

 だが、神は別だ、神は産まれた瞬間から“真なる名“があり、その名を体現するような姿形があると言い伝えられていて。神が新たに生まれると主神様の前で自分の“真の名“を明かし、この世界を守る神となる事を誓い、主神様に認めてもらうことで、この世界の神として正式に他の神々と一緒に全国の教会に名を記され、人に知恵や加護を与えたりすることができ、より純粋な信仰心を集めることができるようにもなる。
 主神様の許可を得ずに必要以上に人に関わった神は、せっかく生まれ持った神格を落とすことになり、いずれは神聖な気を保てず“邪神“となって人の心の害となる“邪気“を放ち、世界の均衡を崩す存在と化せば、主神様から神罰が下されるのだ。“神に下す神罰“にはそれ相応の条件があり、“邪神“に神罰を下す為には“真の名“、もしくはその名を体現した本来の姿を主神様が確認する必要になる。

 ようは、人の手で起こった事柄ならば人の手で解決し、神の手で起こった事柄ならば神が対処するべき。と、そう言う教えが古くから残っているのだ。

 そう言う理由で“フィズィ”の“真の名”を探る事は重要なのだ、だが今回だけ、神々も色々と苦戦しているため、サフィアス王達にも協力して貰っているのだが、それにはちょっとした理由があった、それは簡潔に言うと、今までとは勝手が違ったからだ。
 以前に人から崇められて“神“として生まれたものが“邪神“と化して、神罰を下され排除された“神“は多少なりと存在した、そもそもの話し、神に昇格させる程の信仰心を持つ“もの“が稀であり、そのような強い信仰心を集める宗教の“神“は生贄を求めるものが多く、産まれた側から主神様に神罰を下され排除されてきた。何故、以前は簡単に排除が可能だったかというと、今までは人に崇められた時の名や姿がそのまま“真の名“と姿となって産まれてきた神なので、神として産まれる前にはすでに“真の名“や姿が公になっている事が大半だったため、主神様が一々、“真の名“や姿を調べる事はなかった、なので、“邪神“と化して世界の均衡に影響を及ぼす前に排除されていった。

 だが、今回は神罰を下したい“邪神“の“真の名“や姿の情報が何故か全くもってないのだ。だから主神様が神罰を下すためにも情報を手に入れたい。何としてもリーダー格の男に“フィズィ“の情報を吐き出してほしい、その思いがあるため、サフィアス王はデューキス家の人達が暴走するのを恐れていた。

 だがデューキス家の人達が今、飛びかかって男を斬り殺したいと思っていてもしないのは、ひとえに、アメトリンの魂がまだそこにあると言った“フィズィ”の言葉に希望を見たからだ。もしかしたら、まだアメトリンは生きているかもしれない、相手の隙を見て取り戻せるかもしれない、デューキス家の人達だけではなくアメトリンを知る誰もがそう思っているから。だが、何故そう信じれるのか?“フィズィ”の言葉もあるが、それよりももっと信じられる希望がまだ、残っているからだ・・・

 まだ、あの方達が動いてない、アメトリンの事に関して1番に動くあの方達が、静かにこの状況を見極めようとしているから・・・

サフィアス王(とりあえず、あのリーダー格の男は口が軽そうだ、できるだけ情報を吐いてもらおう・・・)

 アメトリンの生存に一縷の望みを賭け、サフィアス王はあの方々が動き出すその時まで、少しでも相手の気を引いて時間を稼ぎ、正確な情報を引き出す為に、国王と言う身でありながら危険だと分かってはいてもそちらを選んだ。

サフィアス王「ふむ、では、そこまでの腕をそこの“フィズィさま“とやらは持っているのだな?ならば何故、そなた達は別の方法でこの神殿に入ってきたのだ?そこまで腕が立つならそなた達も最初から一緒に侵入すればよかったではないかな?」

 お腹真っ黒な思惑を表に出さずにサフィアス王は“フィズィ“の反応を見ながら男に質問を続ける。

リーダー格「それは“フィズィ様“が我々人には無い特別な力を持った、い「黙れっ!!」っ!も、申し訳ありません!“フィズィ様“」

フィズィ「其方は、口が軽すぎる、そして、そこのお前は命を縮めたいのなら止めはせんぞ?」

リーダー格「も、申し訳ありません!“フィズィ様“私ごときが調子に乗りました。これ以上は口を慎みます。何卒ご容赦を・・・」

 かなりの気圧を纏った視線にリーダー格の男は先程までの饒舌さを失い、顔色を悪くして怯える様に“フィズィ“に謝罪した。同じ様に威圧を受け、釘を刺されたサフィアス王は表面上は平気そうな顔をして、笑いながら“フィズィ“に話しかけた。

サフィアス王「ほぅ、ではそこから出てきて私の相手をしてくれるのか?でも、良いのか?そこから出て、どうやら其方は本性を知られるのが怖いようだが?」

 今度はわざと相手を煽って、情報を引き出そうと試みるサフィアス王に、

リーダー格「ふんっ!そのような安い挑発に乗るわけがないだろう?お前如きに我が手を下さずとも、我の言う事をよく聞く信徒達に命令すれば済む話だ。それにな、我をいくら詮索したとて、この結界がある限り無意味なものとなる、お前達の頼みの綱である聖獣共も役には立たんぞ?今、この光景が見えていたとしても手を貸す事ができない神々も同様だ」ハッ

 と、嘲笑うように言い放った。

「「「「っ!!」」」」

 自分達の思惑に気づかれていた、その上で神々や聖獣様は自分を排除することはできないとまで言い切った。その驚きは隠せなかった、だが“フィズィ“はその言葉の真偽は定かではない、諦めるのはまだ早い、何故なら聖獣様方の瞳はまだ何も諦めてはないからだ・・・・
















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