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第3章 少年期 学園編
29話 冒険初日!6 討伐
しおりを挟む気合を入れて走り出した、僕の後ろで誰かが叫んでいたけど何を言っていたか分からないままガチガチッと顎を鳴らしながら近づいて来るアーミーアントの進路を塞ぐように立ち素早く太刀を抜き構えた。
シャリンッ チャキッ
(あー、そう言えば蟻って“蟻酸“っていうの持ってたよね?あの蟻 斬ってこの刀 溶けたりしない?)
天華『そうですね、この刀はアダマンタイトで出来ているのでそう簡単には溶かされたりはしないとは思いますが…』
*アーミーアントとは・・・・・
全長約50センチほどの大きな蟻でアント系の魔物の中では平均的な大きさの種類で好戦的なのが特徴だ、通常は女王蟻を中心に群れをなし大群で行動する事からこの名前が付けられたと言われている。
女王蟻はクィーンアーミーアントと呼ばれそれ以外にも色々と役割を持ったアーミーアントの種類がある、今回 討伐依頼になったアーミーアントはソルジャー種で正式にはソルジャーアーミーアントと名付けられたアーミーアントの群れの中では1番多く弱い部類になる、だが全てのアント系には共通で“蟻酸“と言われる物を溶かし又は毒にもなる体液を保有しているので要注意。
(うーん、溶けたりしたら嫌だから一応 魔力でコーティングしとこう、それなら確実だよね)
天華『はい、それなら大丈夫ですよ』
(うん、じゃあ行きますよっ)
スゥ リィーンッ!構えた太刀に一瞬で魔力を纏わせると、刀から綺麗な鈴の音が鳴った。
(春雷が喜んでる?)
天華『アトリーの魔力が刀に宿っている春雷に力を与えているのでしょう、アトリーの魔力は精霊には良いご褒美ですからね』
(そうだった猫まっしぐらだったね)
天華『例え方っ!それよりっ前っ!もう迫って来てますよ!』ダダダダダダダダダダダッ! 近づいてくる足音に気づき教えてくれる天華
ギギギッ!目の前にいる僕に食らいつこうと顎を大きく開き蟻酸を滴らせながら走って来た。
(はい、よっと)ジリッ・・・タッ! フワッ・・・ 真っ直ぐ突進し迫り来るアーミーアントをあと数十センチの所でヒラリと回避し
スタッ!「ふっ!」 その真横に回り込み構えていた太刀をアーミーアントの首元を狙い、素早く振り下ろした スパッ!
軽く振り下ろしただけなのに斬った感覚が殆どなく溶けかけのアイスクリームを掬うような感触しかなかった、それなのに切れ味は抜群で切口は綺麗なものだった。
ゴンッ! ズザッザザザァザァーーーーッ! 切り取られた頭が下に滑り落ち 突進していた勢いで地面を滑るアーミーアントの体、それを見届けると僕は刀の血振りをして納刀した。
ヒュンッ シュルンッ チンッ
(うーん、予想以上の斬れ味…これは学園では使えないね、打ち合った相手の剣を斬りかねない…、うん、予備の刀をハント親方に売って貰おう!)
天華『それが良いでしょうね、このままだと剣ごと相手を切りかねませんし…』
(はははっ、だよね・・・それにしてもこのアーミーアントなんか手当たり次第って感じだったね、最初は僕達を標的にしてたっぽいのに途中から後ろにいた動物達を標的にしてたし、お腹空いてたのか?)
ソル「アトリー様‼︎」
「あ、ソル」
倒したアーミーアントを“収納“していると後ろから呼ばれてパッと振り返るとソルが僕に追いついて来ていた。
ソル「「あ、ソル」じゃありませんよ!なぜ勝手に飛び出していくんです⁉︎危ないじゃないですか!何処か怪我はされてないですか⁉︎」
「へ?、あ、えっと、怪我はしてないよ、ごめんね心配させて、でもあのままだと僕について来ちゃった動物達が危なかったから、“先に攻撃しなくちゃって思って“つい体が動いちゃった」
矢継ぎ早に怒られ心配されて少し戸惑ったもののそれに対してちゃんと答えて言い訳をすると。
ソル「動物達の心配も分かりますが、まだ敵との距離はあったんですから相談するか一言告げるなりしてから行って下さいっ」
「はい、ごめんなさい…」
(お、怒られた・・・)
夜月『今のはアトリーが悪いぞ』
(はい、反省します…)
ジュール『ねぇ、アトリー、さっきの身体強化のスキル使ってないよね?』
(ん?うん、使ってないよ?それがどうしたの?)
ジュール『イネオス達がアトリーが身体強化スキルを使ったって勘違いしているみたいだから、自分達も使えばアレぐらい動けると思ったりしてたら危ないんじゃないかなっと…』
(あー確かにそれは危ない、無茶する予感しかないね、教えてくれて有り難うジュール)
へティの横から離れてゆっくりこちらに来ている夜月にも指摘され深く反省していると、ベイサンの横にいたジュールからイネオス達の勘違いを報告された。
「ソル、イネオス達がどうやら僕が身体強化スキルを使っていると勘違いしているみたい、だから 森に行くまでの間でイネオス達と身体強化の使い方の訓練をしよう」
ソル「!、それは基礎の身体能力の重要性を教えるためにですね?」
突然の僕の提案の意味をすぐに理解するソル。
「そう、スキルレベルの差は理解できても3年訓練した肉体と7年訓練した肉体の身体能力で使用した“身体強化“の効果の差は体験しないと分からないからね、それに今の僕の動きが身体強化を使ってないとちゃんと正しく認識してないと後々その勘違いで大怪我をするかもしれないから今のうちに認識を改めて貰わないと」
(僕の動きを見て、自分も出来るはずと思ったら意外とできなかった、なんて事になりかねない、そもそも僕とソルの身体能力が高すぎることもあるんだけど鍛え方も鍛えた年月も違うから、身体強化を使っても見ようみまねで僕達の動きは身体強化に慣れてないとそう簡単に真似はできないからなぁ)
ソル「そうですね、イネオス達の安全のためにもその方がいいでしょう、ですがどうやって教えるのですか?」
「うーん、どうしようか、あっちから身体強化の話題を振ってくれたら良いんだけど…、あ、じゃあ お遊び程度に僕達とイネオス達で走って競争してみるのはどう?」
ソル「うーん、そうですねぇ、それしか無いですかね?」
「まず、素の身体能力での駆けっこしてみる?距離を決めて」
ソル「そうしますか、それなら差が分かりやすくて良いですし」
「よし、じゃあそれで行こう」
イネオス達がいる場所まで戻ってみると、イネオス達の方から身体強化についての話題を振られたので先程の打ち合わせ通り軽く走って見てから訓練をしようと提案した、イネオス達は快く提案を受け入れてくれたので まず イネオス達と僕とで駆けっこしてみる事に。
ソルと夜月には先行して500メートルほど距離をとってもらいゴール地点の役割をして貰った、その間に僕は動物達にもう心配はないから巣に帰るようにと天華に言って貰って走る用意をした。
「よし、3人とも まず “身体強化なし“での素の身体能力で走る速さを見てみるよ」
「「「はい!」」」
「じゃあココにいる天華とジュールがいる所の間に真っ直ぐ横一列に並んで天華が合図をしたら出発でそれから全力で走ってソルと夜月の間を通ったら終着ね、それで誰が1番早く走れるか競争だよ♪」
イネオス「分かりました!」
ベイサン「1番を取りに行くよ!」
へティ「私も精一杯頑張りますわ!」
(気合十分で何より、さて、いっちょやりますか…天華、合図よろしく)
天華『了解です』
気合十分の3人の鼻っ柱を折りに行くのは心苦しいが必要な事と割り切って皆んなと横一列に並んだ。
「天華いつでも良いよ」
天華に合図を託し僕はゴールを見据えた
天華「スゥー・・・・、キュゥーッ!」
ドンッ! タタタタタタタタタタタッ! ザーッ!
天華の可愛い鳴き声を合図に一気に飛び出した僕達は全力で走りゴールを目指した、僕は文字通り今の自分の全力を出して走り一気に他の3人を置き去りにしてオーバーラン気味にいち早くゴールした。
(おっとと、ちょい行き過ぎた、さて、3人は、っと)
後ろを振り返ると驚いた表情で走って来てイネオス、ベイサン、へティ、の順にゴールした。
イネオス「はぁ、ア、アトリー様、い、今のは“身体強化なし“でのスピードですか⁉︎」
「うん、そうだよ」
走ったことで呼吸が乱れる中、さすが3人の中で1人だけ小さい頃から剣術を習っていただけあって他の2人より早く回復して僕に質問して来たイネオスに僕は息切れも無く答える。
イネオス「で、では先程のアーミーアントを討伐された時の速さは身体強化“無し“で走って行かれたんですか…?」
「うん、そうだね、刀身に魔力を纏わせる以外では何の魔法もスキルも使ってないよ」
ベイサン「す、凄すぎる・・・」
へティ「はぁ、はぁ、ど、どうすれば そんなふうに息切れも無く、は、走れるんですか?」
だいぶ回復して来たベイサンとまだ少し苦しそうなへティ、ベイサンの言葉にイネオスは同意のようで小さく頷いているだけで へティには向上心が見え僕にアドバイスをお止めてきた。
「どうって言ってもね…、そうだね、3人は僕とソルが日頃 朝早くから色々と訓練しているのは知ってるよね?」
「「「は、はい…」」」
「ん、でね、僕達がそれを始めたのって3歳ぐらいの時なんだ」
「「「は、・・・はぁ⁉︎」」」
「ま、まぁ、最初は無理せず軽い追いかけっこで屋敷の敷地を走るだけで、その内 走る距離や時間が長くなって最近じゃあ屋敷の敷地内にある建物や木々を使った障害物競争みたいになってね、ここ2週間ぐらいはオーリー達専属の使用人相手に“スキルを使わないかくれんぼ“しながら訓練をしてるんだ」
「「「っ・・・・・」」」
「うん、まぁ、何が言いたいかって言うと、日頃からのスキルを使わない基礎訓練の継続が大事って事なんだ、もちろんスキルを使った訓練は大事だけど それとは別にスキルに頼らない訓練があればイネオス達の体力や持久力、身体能力の全てが底上げされるんだよってこと」
「「「・・・・・・」」」
「それに、このスキルを使わない基礎訓練にはちゃんと意味はあってね、自分の基礎の身体能力が高ければ高いほど“身体強化や他の支援スキル“を使用した時の効果がとても高くなるんだ」
「「「え⁉︎」」」
「元々、“支援スキル“って使用者の能力をある程度補助するものではなく、本来は使用者の能力を限界まで底上げするためにあるんだ、でも鍛えてない身体に限界まで能力を底上げすると体がその力に耐えきれなくなって逆に身体を悪くするから、その身体に合わせた限界値までの能力の底上げしかしないんだって、だから身体を鍛えれば鍛えるほど身体能力が底上げできるから 基礎訓練が重要なんだ、これは他のスキルとかにも有効だからね」
「「「へ~」」」
「まぁ、簡単に言うとスキルを有効活用したいなら頑丈な肉体が必要ってことだね」
イネオス「そうなんですね!初めて聞きました!じゃあ今度からは体をもっと鍛えて基礎能力の向上に力を入れますっ!」
ベイサン「僕ももっと体力をつけて体を鍛えますっ!」
へティ「凄いですね、スキルを使うにあたってそんな差があったなんて知りませんでした…、私でも出来るでしょうか…」
「へティ、そんなに難しい事じゃないよ、ほら、僕達も最初は追いかけっこから始めたからへティも最初は無理せず自分にできる事からして行けば良いんだよ、長く無くても良いから軽く走り込みするとかね」
へティ「はいっ、じゃあ私はまず長く走れるようになる所から頑張りますっ!」
「うん、それで良いと思うよそれが出来るようになったらまた別の目標を決めればいいさ」
「後、スキルの訓練だけど日常の中でスキルを使うとスキルレベルが速く上がるよ、僕は訓練以外でもスキルや魔法を多用してるから実感してるよ、皆んなも試してみてね」
「「「はいっ!」」」
こうして話している間に驚かれ、ドン引かれたりしたけど 概ね予想通りの反応でちゃんと鍛え方と鍛えた年月の違いと基礎訓練の重要性も知ってもらえたので当初の目的はクリアした、今は最初のフォーメーションを保って身体強化を使いながら泉のある森に向かって走っている最中だ。(僕とソルは身体強化を使ってない)
ソル「アトリー様、森の入り口が見えて来ました」
「りょーかい、速度をゆっくり落として止まるよー」
「「「「はい!」」」」
丁度、森の入り口前で止まるようにスピードを落とし止まった、止まった直後にイネオス達3人は肩で息をしているヘティに至ってはその場で屈み込んでしまった。
「はい、お疲れ様、少し休憩して、装備をチェックしてから森に入ろうか」
僕の言葉に息切れしながらも頷いて返事を返して座ったイネオスとベイサン。
「へティ、ここに座りなよ少しは楽になるよ」
ポケットに入れていたハンカチを近くにあった倒木にかけへティをエスコートして そこに座らせた。
へティ「はぁ、はぁ、んぐっ、あ、有り難う御座います、はぁ、はぁっ、ア、アトリー様」
「無理に返事をしなくて良いよ へティ、飲み物は持って来たかな?水分をとった方が良いよ、まだ暫くは動かないからね、でも索敵は止めたらだめだよ?」
へティは小さく頷くと装備しているアイテムリングから筒状のポットみたいな物(水筒みたいな魔道具)を取り出し喉を潤した。
イネオス達もそれぞれ持ってきた飲み物を取り出し飲んでいた、僕も収納に入れていた水筒(自作)を取り出して蓋の方をコップがわりに水筒に入れてきたレモン水(スポーツドリンクもどき)を注ぎゆっくり飲んだ。
(ジュール達はなんか飲む?)
ジュール『私はだいじょ~ぶ!』
夜月『私も今はいい』
天華『私も大丈夫です』
(そう?何か飲みたい時はいつでも言ってねぇ~)
『はーい』『あぁ』『はい』
ソル「アトリー様、昼食はどうなさいますか?」
「え、もうそんな時間?」
水分補給の終わったソルが時計を片手に近づいてきて今日のお昼ご飯の相談をしてきた。
ソル「まだ11時半頃ですが場所を決めておいた方が良いかと思いまして」
「うーんそうだね、ここで食べるのも良いかもしれないけど森の中に泉があるって言ってたから景色も良さそうだし、そこの近くで開けた場所があったらそこで食べよう」
ソル「分かりました、良い場所がると良いですね」
「うん、そうだね、もう少し休憩してから行こうか・・・あ、動物達、着いて来ちゃったんだね」
森の中で昼食をとることに決めて、そろそろ出発する準備をしようかと周りを見渡すと、草原の背の高い草むらから少しだけ顔を出している動物達を発見した。
最初はいつもの様に撫でて欲しくて集まって来ていたのかと思っていたが、今回はいつもと違って僕の足元まで来なかったから武器を装備していたから遠巻きに見ていたのかなっと考えていたんだけど、実際はアーミーアントから逃げて来ていたみたいで助けて欲しくて近くに来ていたようだ、だけど、アーミーアントは討伐していなくなったにも関わらず、なぜか動物達は僕を追いかけて来たらしい。
ソル「その様ですね、でも先程よりはだいぶ少なくなってますよ」
「そう?でも、これはどうしたものかな…」
ソル「着いて来てしまうのはどうしようも無いと思いますよ、森に入ればまた同じ様に動物達は集まって来ますし」
「あー、確定なんだね・・・、分かった、もう そのまま好きにさせよう、満足したら帰るだろう・・・多分」
ソル「はい、多分・・・」
「うんっ、よしっ!森に入る前に武器と装備の点検をしようか」
夜月『くくっ素早い現実逃避だな』
(聞こえなーい)
夜月にチャチャを入れられながら自分の装備の点検をする、イナオス達も休憩して息が整ったのか自分達の装備を点検し出した。
「さて、じゃあ、行くよっ」
「「「「はいっ!」」」」
装備に不備がないのを確認し、いよいよ泉がある小さな森に入る・・・・
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