上 下
15 / 22

ブラホモ(ブラザーホモ)の本領発揮!

しおりを挟む
「兄さんお帰りなさい!!」

「おう、ただいま~」

 都内の整形外科にて軽い打撲と切傷だと診断され、ようやく解放された俺は二日ぶりに帰宅した。
 玄関で弟の進に出迎えられる。
 俺に会えて嬉しい様を隠すこともなく、仮にしっぽがついてたら確実にブンブン振ってるだろう。

 進はまだ小学五年生である。
 性の分化があまり進んでおらず、見た目はかなり中性的だ。はっきりとした二重の大きな目は、長めのまつ毛も相まって一層目力を強調している。さらさらの髪は肩程まで伸びており、ブリーチしているため(母親の趣味による)かなり明るかった。身体付きは華奢で肩幅は狭く、身長は130㎝ほどしかない。
 近所では「フランス人形さん」と呼ばれ、軽くアイドル扱いされていた。
 肉親の俺がいうのもなんだが、ほんとに血がつながってるのか怪しいぐらいの美少年といえよう。
 性格は内気で大人しく、趣味は家事で得意なことは料理と、およそ男らしさの欠片も感じられないが、その容姿もあってか周りの大人たちからよくチヤホヤされていた。
 年齢不相応な聡明さを持ち、かつそれを鼻にかけることもないため、分別のある本当にいい子、というのが世間からの評判だ。
 掛け値なしで自慢の弟と言えよう。
 だがこんな表向きの紹介はほぼ無意味だ。
 彼を構成するもの、その因子のほぼすべては「俺」への苛烈な愛で満たされている。哀しいことに、その歪み方も尋常ではない。
 そう。最近は東条に接近されてることもあり、かなり。包丁が飛んでくることもあり、部屋に監禁されかけたこともある。俺に対する独占欲が凄まじい。
 また俺の身体に対する心配も常軌を逸している。風邪でも引こうものなら一緒に学校を休み、看病を徹底してくる。そうなったら最後、解熱するまで俺の傍を片時も離れない。それどころか風邪が移るから離れるようにいっても「俺も兄さんと同じ苦しみを味わいたい」といって積極的に移されようとする。
 だから! だから、である。
 今回林間学校にて谷に落下したなどと口が裂けても言えないのだ。結果として軽傷で済んだというのは通用しない。二度と家から出られないよう、鎖でつなぎとめられる可能性もある。
 そういうこともあり、この日、俺は暑かったが擦り傷がみえないように長袖のシャツを着用していた。決してバレてはいけない。

「ああ兄さんだ。兄さんだ」

 三日分の寂しさを発散するように進は俺に抱きついてくる。すんすんと匂いをかがれてる気配があり、少し恥ずかしい。

「ちょっと汗かいてるからやめろよ~」

 やんわりと進を身体から引き離す。焦ってはいけない。冷静に、あくまで自然体で。

「あれ? なんか湿布の匂いがしたんだけど……?」

 やばいやばいやばい。
 まだ変なスイッチは入っていないが明らかにいぶかしんでいる。

「あ~、これだよ。山道で滑って転んじゃってさ」

 少しだけ腕をまくり、湿布された部分を見せる。
 俺は一部を晒すことで全体を隠す作戦に出た。これぐらいなら心配はされるだろうが誰かが血を流すことはあるまい。

「大変じゃないか!! もう! 兄さんはほんとドジなんだから。ちゃんと治療してきたの??」

 すごい剣幕でにじり寄ってくる。

「保健室の先生も同行してたからな。ちゃんと処置してもらったし、念のためってことでさっき整形にも行ってきたから大丈夫だよ」

「ほんとに大丈夫? もう痛くない?」

 進は目を潤ませながら俺を見上げてくる。本当に心配してくれているのだろう。その頭に手を乗せて撫でてやる。

「心配してくれてありがとな。ほんとに大丈夫だからさ。それより進の美味しい料理食べさせてくれよ」

「お昼まだなんだ? まっかせて!! ハンバーグ作っちゃうから!」

 上機嫌になった進は鼻歌混じりにリビングへ。キッチンに向かったのだろう。危なかった。
 俺は荷物を持って自分の部屋へ。荷ほどきをしているうちに重大なことに気が付いてしまった。

 ――お土産を忘れた!!

 というか買う隙なんてこれっぽっちもなかったのだから仕方ない。
 だがこういう時にお土産を欠かしたことのない俺は追求されるだろう。進とはそういう人間だ。いつもの俺の振る舞い、そこに僅かでも差があろうものなら、そこから俺に何があったのかを推測しようとする。そしてかなりの精度で当ててくる。

「兄さーん! 洗濯物出しておいてね~。あと冷蔵庫に麦茶冷やしてあるから」

 進の声がリビングの方から聞こえてくる。もう料理に取り掛かっているのだろう。

「はいよー」

 適当な相槌を打ちつつ洗濯物をまとめる。奇跡的に鞄の中にお土産になるようなものが入っていないか確認するがあるはずもない。普通はこのまま気付かれないことを祈るのだろうが、これこそが進にとっての違和感となるのだ。
 どこかで落としたことにしようそうしよう。
 ガチの狂人を前には誠意などは通じないのだ。優先すべきは教職員たちの命であり俺の日常であり、もはや手段を選ぶ余地はない。黙ってキッチンへと向かう。

「進ごめん!!」

 それ以上は何も言わずにハンバーグをこねていた進を後ろから抱きしめる。

「ちょ、ちょっと兄さん急にどうしたの??」

 俺の接近に気付いていなかったのか、進は嬉しそうにしつつも流石に困惑しているようだった。

「お土産どこかで落としちゃったみたいなんだ」

「……なんだそんなことか。別にいいよお土産なんて」

「今度進の欲しいもん買ってやるから、な? な?」

「なんか怪しいなぁ。ま~いいけど。そのままハンバーグできるまでギュッってしててね」

「いやいや流石に邪魔だろこれじゃ」

「ふふふ」

 小悪魔のように笑った進の顔を見るに何とかごまかせたようだった。冷蔵庫から麦茶を取り出しリビングでくつろぎながら料理の完成を待つことにした。
 20分後。完成されたハンバーグとご飯、トマト・レタスの付け合わせが食卓に並ぶ。
 進自慢の絶妙な比率で合い挽きされた肉のハンバーグは店で食べるより遥かに旨い。その上今日はチーズが内蔵されており、溢れる肉汁とのコラボを前に俺の胃袋は完全に白旗を挙げていた。

「やっぱ進のご飯が一番だよ」

「でしょ~? 駄目だよ変な女につかまったりしたら~」

 微妙に気持ち悪い会話をしつつ平和的に過ごす。はず、だった。
 その瞬間までは……。

「兄さん……これ、なに?」

 贅沢な食事を終え、コーヒーを飲みながらソファで一服しているとリビングの扉の前で進が佇んでいた。
 すでに瞳のハイライトが消えている。
 つまりはアウト。試合終了ゲームセットノーサイド。諦めるしかない。終わった。さようなら。悲~し~みの~という幻聴が聴こえてくる。

「ど、ど、どうした?」

 どうしたもこうしたもない。
 進が手に持っているのはボロボロになった俺のTシャツとジーンズ。ところどころ血もついているオマケつき。昨日山道から落下したときに着用していたものだ。
 おかしい。あれは洗濯物に出さずに鞄に入れておいたはずなのに。

「ねぇこれどうゆうこと?」

「え~っと……なんだろなそれ。兄さんもちょっとわからない、かな。ハハッ」

 空笑いとともに冷や汗が全身から噴き出す。鳥肌が肉眼で視えるぐらいにたっていた。これなら霊能力者を名乗れるかもしれない。

「なぁんかおかしいなぁとは思ってたんだよねぇ。お土産がどうの言ってた時」

 やっぱりバレてたかーーー! 
 でもなんでそれだけで鞄が怪しいってすぐわかるわけ? 
 ねぇなんで? 進君はエスパーなの?

「兄さん俺に嘘……ついたんだ? 騙されるのが一番嫌いだってこと、知ってるよね?」

 皆さん見てください。ここに悪霊がいますよ? 
 ほら見てくださいこの鳥肌を!
 
 進がじりじりと間合いを詰めてくる。
 すでに片手にはスタンガンを装備しており、黙秘は許されない。
 駄目だよあれは! あれやられるとほんとに意識が飛ぶんだから!!

 ……本当の本当にヤバイのは東条でも、番長でもなく、一番身近にいたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

【完結】試される愛の果て

野村にれ
恋愛
一つの爵位の差も大きいとされるデュラート王国。 スノー・レリリス伯爵令嬢は、恵まれた家庭環境とは言えず、 8歳の頃から家族と離れて、祖父母と暮らしていた。 8年後、学園に入学しなくてはならず、生家に戻ることになった。 その後、思いがけない相手から婚約を申し込まれることになるが、 それは喜ぶべき縁談ではなかった。 断ることなったはずが、相手と関わることによって、 知りたくもない思惑が明らかになっていく。

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

夫は平然と、不倫を公言致しました。

松茸
恋愛
最愛の人はもういない。 厳しい父の命令で、公爵令嬢の私に次の夫があてがわれた。 しかし彼は不倫を公言して……

[完結]貴方なんか、要りません

シマ
恋愛
私、ロゼッタ・チャールストン15歳には婚約者がいる。 バカで女にだらしなくて、ギャンブル好きのクズだ。公爵家当主に土下座する勢いで頼まれた婚約だったから断われなかった。 だから、条件を付けて学園を卒業するまでに、全てクリアする事を約束した筈なのに…… 一つもクリア出来ない貴方なんか要りません。絶対に婚約破棄します。

【短編集】勘違い、しちゃ駄目ですよ

鈴宮(すずみや)
恋愛
 ざまぁ、婚約破棄、両片思いに、癖のある短編迄、アルファポリス未掲載だった短編をまとめ、公開していきます。(2024年分) 【収録作品】 1.勘違い、しちゃ駄目ですよ 2.欲にまみれた聖女様 3.あなたのおかげで今、わたしは幸せです 4.だって、あなたは聖女ではないのでしょう? 5.婚約破棄をされたので、死ぬ気で婚活してみました 【1話目あらすじ】  文官志望のラナは、侯爵令息アンベールと日々成績争いをしている。ライバル同士の二人だが、ラナは密かにアンベールのことを恋い慕っていた。  そんなある日、ラナは父親から政略結婚が決まったこと、お相手の意向により夢を諦めなければならないことを告げられてしまう。途方に暮れていた彼女に、アンベールが『恋人のふり』をすることを提案。ラナの婚約回避に向けて、二人は恋人として振る舞いはじめる。  けれど、アンベールの幼馴染であるロミーは、二人が恋人同士だという話が信じられない。ロミーに事情を打ち明けたラナは「勘違い、しちゃ駄目ですよ」と釘を差されるのだが……。

貴方を捨てるのにこれ以上の理由が必要ですか?

蓮実 アラタ
恋愛
「リズが俺の子を身ごもった」 ある日、夫であるレンヴォルトにそう告げられたリディス。 リズは彼女の一番の親友で、その親友と夫が関係を持っていたことも十分ショックだったが、レンヴォルトはさらに衝撃的な言葉を放つ。 「できれば子どもを産ませて、引き取りたい」 結婚して五年、二人の間に子どもは生まれておらず、伯爵家当主であるレンヴォルトにはいずれ後継者が必要だった。 愛していた相手から裏切り同然の仕打ちを受けたリディスはこの瞬間からレンヴォルトとの離縁を決意。 これからは自分の幸せのために生きると決意した。 そんなリディスの元に隣国からの使者が訪れる。 「迎えに来たよ、リディス」 交わされた幼い日の約束を果たしに来たという幼馴染のユルドは隣国で騎士になっていた。 裏切られ傷ついたリディスが幼馴染の騎士に溺愛されていくまでのお話。 ※完結まで書いた短編集消化のための投稿。 小説家になろう様にも掲載しています。アルファポリス先行。

【完結】婿入り予定の婚約者は恋人と結婚したいらしい 〜そのひと爵位継げなくなるけどそんなに欲しいなら譲ります〜

早奈恵
恋愛
【完結】ざまぁ展開あります⚫︎幼なじみで婚約者のデニスが恋人を作り、破談となってしまう。困ったステファニーは急遽婿探しをする事になる。⚫︎新しい相手と婚約発表直前『やっぱりステファニーと結婚する』とデニスが言い出した。⚫︎辺境伯になるにはステファニーと結婚が必要と気が付いたデニスと辺境伯夫人になりたかった恋人ブリトニーを前に、ステファニーは新しい婚約者ブラッドリーと共に対抗する。⚫︎デニスの恋人ブリトニーが不公平だと言い、デニスにもチャンスをくれと縋り出す。⚫︎そしてデニスとブラッドが言い合いになり、決闘することに……。

処理中です...