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2章:悪役子息な俺
魔力操作を学んだ
しおりを挟む「イザーク?」
間近の、幼馴染の端整な顔をリアは、瞬いて見た。
「私もあなたを信頼しているし好きよ?」
彼は呟く。
「俺の好きはそういうのじゃなくて……」
「え?」
「……いや」
「ドレス、押さえているからもう大丈夫よ」
「ああ」
彼は腕を解いて離れた。
「……着るの手伝うよ。リボンを付ければいいのか?」
「ええ」
彼はリアの後ろに回り、ドレスのリボンを結んでくれ、言った。
「ちゃんとできてるか、わかんないけど」
リアは鏡で、背を映してみる。綺麗にまとまっていた。
「ありがとう、イザーク。助かったわ」
これで帰れる。
「私、屋敷に戻るわ。メラニー様に、帰ったと伝えておいてくれる?」
「了解。馬車まで送るよ」
それでリアは、彼と部屋から出た。
お茶会でジークハルトと顔を合わさずにすみ、残念に思うのと安堵が入り混じっていた。
ジークハルトと会えば、感情が揺れて仕方ないのだ。
※※※※※
メラニーは目の前の少年を熱い眼差しで見つめる。
「ふうん、そうなんだ。姉上と君の兄上がね……」
「はい」
(ああ、今日もなんて素敵なのかしら。カミル様……)
メラニーは、リアの弟──カミル・アーレンスに、恋焦がれていた。
名門アーレンス公爵家は、美貌の血筋で有名だ。
彼の父も年齢を感じさせない若々しさで、美青年と呼べるほどだし、カミルの叔母も、月の女神と評された綺麗な女性で、現皇帝が皇太子だったときに、一目惚れして婚約が決まったらしい。
アーレンス家の血を引く、オスカーとカミルの二人は、女性人気が凄まじい。
メラニーも彼らを慕う一人である。
オスカーもカミルもメラニー好みだ。どちらも大好きだが、特に弟のカミルが好きだった。
カミルと庭園の彫像前で落ち合い、今日あった出来事を報告していた。
彼は柔らかい雰囲気の少年で、姉──といっても従兄弟──と似ていない。
彼ら同様、リアもアーレンス家の人間なので、綺麗だ。だが美少女すぎ、纏う空気が冷たくみえ、悪役っぽい。
そのため誤解されやすい。
メラニーが、リアにいじめられたと周囲にほのめかせば、信じてもらえる。
皇太子に近づく女性──特にメラニーをリアがいじめているという噂を、メラニーはせっせと広めていた。
だがさすがに、リアと一緒に暮らしているカミルやオスカーには嘘だとバレてしまう。前にちらりとそれらしいことを話したら、日頃声を荒げないカミルに叱責されてしまった。
だから、そういったことは話していない。
カミルには事実のみを告げている。
(ジークハルト様も素敵だし、皇太子という唯一無二の存在だけど、威圧感があるし)
一つ下のカミルは母性本能を擽られる可愛らしさと、どこか小悪魔的な婀娜っぽさがある。
そんな彼にメラニーは夢中だ。
数年前、カミルからジークハルトに近づいてほしいと言われたときはショックだった。
だがカミルの言う通りにすれば、彼と接点をもてる。
報告する際、他の幾多のライバルを押しのけて彼と話ができる。
それに皇太子であるジークハルトに気に入られれば、正妃は無理だとしても愛妾になれるかもしれない。
それはそれで魅力的だ。
メラニーはカミルの言葉に従い、彼の喜ぶ顔もみたくて、逐一報告していた。
カミルの兄オスカーは、リアと結婚をしたいらしく、ジークハルトとリアの仲をこわすよう、弟のカミルに命じているらしい。その手助けをメラニーはしているのだ。
「ん、ありがとう。よくわかったよ」
にっこりとカミルは天使のような笑顔を浮かべた。
「ということは、君は殿下に求婚されたってことだね」
「そうです」
「おめでとう。幸せになってね」
彼はとても嬉しそうで、メラニーは複雑な心持ちとなる。
愛妾でも、と思っていたところ、ジークハルトに結婚を考えると言われ、歓喜したが、メラニーが恋しているのはカミルなのだった。
「でもわたしが本当に好きなのは……」
カミルと結ばれるのが、メラニーの最上の願いだ。
カミルは小首を傾げ、人差し指をメラニーの唇の前に柔らかく立てた。
彼は優しく囁く。
「君は帝国において、将来、最も高貴な女性となるんだ。何も口にしないで。ね」
メラニーはぽうっとする。
「じゃあね」
笑顔で優雅に立ち去るその姿を、メラニーはうっとりと見送った。
間近の、幼馴染の端整な顔をリアは、瞬いて見た。
「私もあなたを信頼しているし好きよ?」
彼は呟く。
「俺の好きはそういうのじゃなくて……」
「え?」
「……いや」
「ドレス、押さえているからもう大丈夫よ」
「ああ」
彼は腕を解いて離れた。
「……着るの手伝うよ。リボンを付ければいいのか?」
「ええ」
彼はリアの後ろに回り、ドレスのリボンを結んでくれ、言った。
「ちゃんとできてるか、わかんないけど」
リアは鏡で、背を映してみる。綺麗にまとまっていた。
「ありがとう、イザーク。助かったわ」
これで帰れる。
「私、屋敷に戻るわ。メラニー様に、帰ったと伝えておいてくれる?」
「了解。馬車まで送るよ」
それでリアは、彼と部屋から出た。
お茶会でジークハルトと顔を合わさずにすみ、残念に思うのと安堵が入り混じっていた。
ジークハルトと会えば、感情が揺れて仕方ないのだ。
※※※※※
メラニーは目の前の少年を熱い眼差しで見つめる。
「ふうん、そうなんだ。姉上と君の兄上がね……」
「はい」
(ああ、今日もなんて素敵なのかしら。カミル様……)
メラニーは、リアの弟──カミル・アーレンスに、恋焦がれていた。
名門アーレンス公爵家は、美貌の血筋で有名だ。
彼の父も年齢を感じさせない若々しさで、美青年と呼べるほどだし、カミルの叔母も、月の女神と評された綺麗な女性で、現皇帝が皇太子だったときに、一目惚れして婚約が決まったらしい。
アーレンス家の血を引く、オスカーとカミルの二人は、女性人気が凄まじい。
メラニーも彼らを慕う一人である。
オスカーもカミルもメラニー好みだ。どちらも大好きだが、特に弟のカミルが好きだった。
カミルと庭園の彫像前で落ち合い、今日あった出来事を報告していた。
彼は柔らかい雰囲気の少年で、姉──といっても従兄弟──と似ていない。
彼ら同様、リアもアーレンス家の人間なので、綺麗だ。だが美少女すぎ、纏う空気が冷たくみえ、悪役っぽい。
そのため誤解されやすい。
メラニーが、リアにいじめられたと周囲にほのめかせば、信じてもらえる。
皇太子に近づく女性──特にメラニーをリアがいじめているという噂を、メラニーはせっせと広めていた。
だがさすがに、リアと一緒に暮らしているカミルやオスカーには嘘だとバレてしまう。前にちらりとそれらしいことを話したら、日頃声を荒げないカミルに叱責されてしまった。
だから、そういったことは話していない。
カミルには事実のみを告げている。
(ジークハルト様も素敵だし、皇太子という唯一無二の存在だけど、威圧感があるし)
一つ下のカミルは母性本能を擽られる可愛らしさと、どこか小悪魔的な婀娜っぽさがある。
そんな彼にメラニーは夢中だ。
数年前、カミルからジークハルトに近づいてほしいと言われたときはショックだった。
だがカミルの言う通りにすれば、彼と接点をもてる。
報告する際、他の幾多のライバルを押しのけて彼と話ができる。
それに皇太子であるジークハルトに気に入られれば、正妃は無理だとしても愛妾になれるかもしれない。
それはそれで魅力的だ。
メラニーはカミルの言葉に従い、彼の喜ぶ顔もみたくて、逐一報告していた。
カミルの兄オスカーは、リアと結婚をしたいらしく、ジークハルトとリアの仲をこわすよう、弟のカミルに命じているらしい。その手助けをメラニーはしているのだ。
「ん、ありがとう。よくわかったよ」
にっこりとカミルは天使のような笑顔を浮かべた。
「ということは、君は殿下に求婚されたってことだね」
「そうです」
「おめでとう。幸せになってね」
彼はとても嬉しそうで、メラニーは複雑な心持ちとなる。
愛妾でも、と思っていたところ、ジークハルトに結婚を考えると言われ、歓喜したが、メラニーが恋しているのはカミルなのだった。
「でもわたしが本当に好きなのは……」
カミルと結ばれるのが、メラニーの最上の願いだ。
カミルは小首を傾げ、人差し指をメラニーの唇の前に柔らかく立てた。
彼は優しく囁く。
「君は帝国において、将来、最も高貴な女性となるんだ。何も口にしないで。ね」
メラニーはぽうっとする。
「じゃあね」
笑顔で優雅に立ち去るその姿を、メラニーはうっとりと見送った。
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