63 / 85
3章:セロウノ大陸編
王妃の正体と最悪な事態
しおりを挟む(んー……何だか温かい)
とても、優しい温もりに私の身体が包まれている───幸せ!
(これが……本当の幸せ)
───ずっとずっと私の心はどこか満たされないままだった。
お母さんの顔色と機嫌だけを窺って生きていたあの頃。
伯爵家に引き取られてからは「使えない」「ダメな子」「役立たず」散々、罵られた。
少しでも褒めて貰えるようにと頑張ったけど、なかなか思うようにはいかなかった。
全ての記憶が繋がってから、私にとっての幸せだった時を思い出そうとすると、そこにはあの男の子───カイザルがいる。
(初めてのお友達……)
愛とか恋とかはよく分からなかった。
それでも、私はカイザルと会っていたあの短い日々が楽しくて大好きだった。
(ありがとう、カイザル───)
「……眩し…………朝?」
そんな幸せな気持ちで私は目を開ける。
陽の光がかなり眩しい。
もしかしてこれは結構いい時間なのでは?
(今、何時かしら? どうして誰も起こしてくれな───)
「ん?」
そこで自分の身体に巻きついている腕が目に入った。
「ひっ! 腕……人間の腕、よね?」
最初に私は自分の腕の確認をした。間違いなく私の腕──はここにある。
「これは…………ハッ!」
そこで、ようやく昨夜のことを思い出した。
初夜が延期になったはずなのに、カイザルは部屋に戻らず私をベッドに押し倒して──
(たくさんキスをされた気がする! それで、私……頭の中がトロンとして……)
「え……まさかの寝落ち?」
そうとしか思えなかった。だってそこから先の記憶が無い。
そうなるとこの腕、それとこの温もりは───
(一晩中、抱きしめてくれていたのかしら?)
私を包むカイザルの温もりが、とにかく“私のことを大好き”と言ってくれているみたいで幸せな気持ちになれた。
「うっ……ん…………」
「は! カイザルもお目覚めかしら?」
私は慌てて後ろを振り向きカイザルの顔を見ようとした。
「…………コ、レット…………シェイ、ラ……」
「…………」
すごいわ。ベッドの上で私を抱きしめながら、二人の女性の名前を寝言で呼んでいる。
とっても不誠実な発言のはずなのに、ただの一途になっているという……
私はそっとカイザルの頬に手を触れる。
そしてそこに自分の顔を近づけてチュッと彼の頬にキスをした。
「カイザル───ありがとう」
シェイラを強く想ってくれて。
そして、コレットを見つけてくれて───
────
「……ん? コレット?」
「───おはよう、カイザル」
どうやらカイザルの目も覚めたらしい。
だけど、少し寝ぼけているのかどこか焦点の合わない目で私をじっと見る。
「可愛い可愛い俺のコレットがいる……」
「カイザル?」
「夢の中でもコレットが俺の腕の中にいたのに、目が覚めてもコレット……」
「……コレットです」
私がそう答えると、カイザルがへにゃっと笑った。
「──!?」
これまで見たことのないその笑顔? に私は大きく戸惑った。
(……もう! 本当にカイザルがわけ分からないわ!)
小説では、愛してもいない私を娶りお飾りの妻として冷遇するはずのカイザル……
今はこんなにヘニャヘニャの笑顔を見せている。
小説と現実は違うのだと、すでにたくさん実感させられてきたけれど……
(……あの妙に無口な日々はなんだったの?)
そのことも聞きたいと思っていたのに、まだ聞けていなかったことを思い出した。
「ねぇ、カイザル!」
「ん~? コレット?」
「……っ」
カイザルがへにゃっとした笑顔のまま私の名前を呼ぶ。
ちょっと今聞いても大丈夫かな? と思ったけれどやはり忘れないうちに聞いておこうと思った。
「……どうしてあなたずっと無愛想で無口だったの?」
「……無口?」
「私の記憶の中のカイザルも、それに昨夜のあなたもよく喋る人だったわ」
「……よく喋る?」
「なのに、結婚してから……いいえ、顔合わせの時もね? あなたはびっくりするくらい無口だった。どうして!?」
私が勢いよく訊ねると、カイザルはしばらく考え込んでから、ボンっと顔を赤くした。
「え……」
何故ここで顔が赤くなる?
「そ、そ、そそそれは……」
「それは?」
躊躇うカイザルに私はグイッと迫る。
「……」
「カイザル!」
「う! ………………から」
ようやくカイザルは観念したのか、ポソッと言った。
「シェイラが……」
「シェイラ? どうして私?」
「────シェイラが言ったじゃないか!」
「ん?」
私は首を傾げてカイザルの次の言葉を待った。
「しつこい男や口うるさい人は嫌われる……」
「え!」
「男の人は少し無口でミステリアスな人がカッコイイと!」
「…………あ!」
そう言われてカイザルとの会話を思い出した。
あの頃は“ミステリアス”がよく分からなかったけど確かにその話をしていた。
───よく分からないが、男は無口な方がカッコイイ……というわけか
───そうみたい
───ふーん……
(も、もしかして、あの時のカイザルの「ふーん……」は……興味のないふーんではなく……)
「え! そ、それで……?」
「……」
私がびっくりしてカイザルの顔を見たら茹でダコになったカイザルが頷く。
そして必死な顔で私に言った。
「───す、好きな人にはカッコイイと思って貰いたいじゃないか!」
「!」
「シェイラ……いや、コレットに少しでも俺をカッコイイと思って、それで俺を好きになってもらいたかったんだ!!!!」
(────やだ、可愛い!)
そんなカイザルの言葉に私の胸が盛大にキュンとした。
カイザルが望んだカッコイイではなく可愛い……でだけれど。
「それであんな態度を?」
「…………ミステリアスだっただろ?」
「……」
いや、ただのコミュ障だったわよ……とは言えない。
だけど、なんて不器用な人なの……そんな無理しなくても私は───
「……カイザルのことが好き」
「え?」
「無口だろうとお喋りだろうと関係ないわ? 私はあなたが好きよ」
「コレット……」
カイザルの目が大きく見開かれる。
「シェイラも…………あなたが好きだったわ、カイザル」
「シェイラ……も?」
「ええ! 毎日毎日あなたに会えるのが楽しみだったわ───」
と、そこまで言ったらカイザルがギュッと私を抱きしめ、あっという間に唇が塞がれた。
「んっ……」
(カイザルは可愛いけれど、手が早い……)
なんて思った。
───
そんな熱いキスをこれでもかとたくさん贈られた後にカイザルは私の耳元で言った。
「いいか、コレット。医者の許可がおりたら覚悟しておいてくれ。俺を煽ったのは君だ!」
────と。
今度は私が茹でダコになって頷く番だった。そして───
「ちょっ……カイザル……擽ったい」
「だめ?」
「んん……ダメじゃない、けどぉ……!」
何故かとっくに朝のはずなのに誰も部屋に起こしに来ない。
なので、カイザルからのキス攻撃が止まらない。
お互いの気持ちを確認しあえたことから、カイザルの中に遠慮という物が無くなった気がする。
(は、話を変えるのよ……)
イチャイチャな雰囲気じゃない話に! そうすれば……
と、そこで私はもう一つ浮かんだ疑問を訊ねることにした。
「そ、そうよ! カイザル」
「んー……?」
「あ、あなたがシェイラにくれようとしていた、た、誕生日プレゼントって何!?」
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

死んで生まれ変わったわけですが、神様はちょっとうっかりが過ぎる。
石動なつめ
ファンタジー
売れない音楽家のフィガロ・ヴァイツは、ある日突然弟子に刺されて死んだ。
不幸続きの二十五年の生に幕を下ろしたフィガロだったが、音楽の女神から憐れまれ、新たな人生を与えられる。
――ただし人間ではなく『妖精』としてだが。
「人間だった頃に、親戚に騙されて全財産奪い取られたり、同僚に横領の罪を被せられたり、拾って面倒を見ていた弟子に刺されて死んじゃったりしたからね、この子」
「え、ひど……」
そんな人生を歩んできたフィガロが転生した事で、世の中にちょっとした変化が起こる。
これはそんな変化の中にいる人々の物語。
※小説家になろう様にも投稿しています。

無能と呼ばれた魔術師の成り上がり!!
春夏秋冬 暦
ファンタジー
主人公である佐藤光は普通の高校生だった。しかし、ある日突然クラスメイトとともに異世界に召喚されてしまう。その世界は職業やスキルで強さが決まっていた。クラスメイトたちは、《勇者》や《賢者》などのなか佐藤は初級職である《魔術師》だった。しかも、スキルもひとつしかなく周りから《無能》と言われた。しかし、そのたったひとつのスキルには、秘密があって…鬼になってしまったり、お姫様にお兄ちゃんと呼ばれたり、ドキドキハラハラな展開が待っている!?
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

異世界へ五人の落ち人~聖女候補とされてしまいます~
かずきりり
ファンタジー
望んで異世界へと来たわけではない。
望んで召喚などしたわけでもない。
ただ、落ちただけ。
異世界から落ちて来た落ち人。
それは人知を超えた神力を体内に宿し、神からの「贈り人」とされる。
望まれていないけれど、偶々手に入る力を国は欲する。
だからこそ、より強い力を持つ者に聖女という称号を渡すわけだけれど……
中に男が混じっている!?
帰りたいと、それだけを望む者も居る。
護衛騎士という名の監視もつけられて……
でも、私はもう大切な人は作らない。
どうせ、無くしてしまうのだから。
異世界に落ちた五人。
五人が五人共、色々な思わくもあり……
だけれど、私はただ流れに流され……
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

念動力ON!〜スキル授与の列に並び直したらスキル2個貰えた〜
ばふぉりん
ファンタジー
こんなスキルあったらなぁ〜?
あれ?このスキルって・・・えい〜できた
スキル授与の列で一つのスキルをもらったけど、列はまだ長いのでさいしょのすきるで後方の列に並び直したらそのまま・・・もう一個もらっちゃったよ。
いいの?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる