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時和雪

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 俯き考え込んでいると、ふと誰かの影が重なった。

「あ……」
「どうも。こんにちは」

 それは水墨画に描かれる渓流のような長髪に、唐紅の瞳を持った人物だった。
 彼の名は、ジゥレイ。彼はチーム老虎のナンバー2に最も近い人物であり、実質このチームの副大将だ。

「いつも色々と手伝ってくださって、ありがとうございます。あなたの働きぶりについて聞き及んでいますが、皆揃って評価していますよ。私としても、あなたがこのチームに貢献してくれて、非常に助かっています」

「は、はあ……」

 大したことは何一つしていないのだが、どうやらチーム内における俺の評価はまずまずといったところらしい。
 時々じっと観察されているような視線があったから、まるでモルモットにでもされたような気分になっていたのだけれど、とりあえず合格点はもらえたようだ。

 レイさんがまた口を開こうとする。すると、レイさんのすぐ後ろから下っ端の誰かが近づいてきた。

「レイさん。リーダーが呼んでます」
「……分かりました。すぐに向かいます。アキラ、また話しましょう」
「あ、はい」

 レイさんは部下とともに、廃工場の奥へと引っ込んでいく。
 彼は去り際にもう一度こちらを振り返って、微笑んでいた。

「お前随分とレイに気に入られたな」
「え? そうですか?」
「ああ。あれは何か裏があるかも」

 フゥリが、レイさんの去って行った方をねめつける。でも仮に何か裏があったとしても、一体どんな理由で俺を構っているというのだろう。
 俺が悩んでいる間にフゥリはようやく警戒を解き、洗濯物の山へと視線を戻した。

「アキラ。レイにはあまり近づくな」
「は、はい……」

 俺自身レイさんにはかなり苦手意識があったので、素直に頷いた。

 チーム内に粗暴な人が多い中、レイさんは驚くほど繊細な外見をしている。言動も穏やかかつ丁寧なため、初対面の時は、なぜこの人がこのチームに所属しているのか不思議でならなかった。

 けど他のチームを出し抜くためにあれこれと画策し、メンバーに指示を出している様は、さながら悪の参謀といった風格だった。

 そして何食わぬ顔で、しれっと暗殺を提示する姿に、俺は戦慄した。

(そのあと穏やかに話しかけれても、ただのホラーだったし……)

 フゥリにこの話をしたら、「あいつは蛇みたいな男だから」と言ってため息を吐かれた。
 利害が一致しているうちはいいが、気を抜いた途端、たとえ仲間であっても首を絞めてきかねないそうだ。ようするに侮れない相手という意味だろう。

 そんな危険人物に気に入られても、正直あまり嬉しくはない。
 でもそれと同じか、もしくはそれ以上に危険人物といえば、やはりリュウだろう。
 こんな荒くれものが集うチームで、ボスの地位を獲得したような男だ。彼もまた、俺に見せていない恐ろしい一面があるに違いない。

 でも、不思議とリュウのことは苦手と思わなかった。
 普段はカウチに寝そべって報告を聞くか、もしくはだるそうに指示を出していることが多い。
 けれど、たまに俺のところへやって来て、何か不自由はしていないかと様子を見に来てくれたりするのだ。

 元の世界に帰る方法を一緒に考えてくれたり、時には冗談を言って、場を和ませようとしてくれたり……本人には悪いけど、まったく場は和まなかったが。
 
(リュウのことは信じたいな。俺の話を真剣に聞いてくれるし……)

 それにはじめて会ったあの日。
 俺を乱暴に扱った部下を止めて、手錠を外してくれたのはリュウだ。
 それこそ単純だと笑われてしまうかもしれないけれど、俺にとってそれは、この世界に落ちてきて、はじめて安心した瞬間でもあったから。
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