6 / 6
05
しおりを挟む
俯き考え込んでいると、ふと誰かの影が重なった。
「あ……」
「どうも。こんにちは」
それは水墨画に描かれる渓流のような長髪に、唐紅の瞳を持った人物だった。
彼の名は、九レイ。彼はチーム老虎のナンバー2に最も近い人物であり、実質このチームの副大将だ。
「いつも色々と手伝ってくださって、ありがとうございます。あなたの働きぶりについて聞き及んでいますが、皆揃って評価していますよ。私としても、あなたがこのチームに貢献してくれて、非常に助かっています」
「は、はあ……」
大したことは何一つしていないのだが、どうやらチーム内における俺の評価はまずまずといったところらしい。
時々じっと観察されているような視線があったから、まるでモルモットにでもされたような気分になっていたのだけれど、とりあえず合格点はもらえたようだ。
レイさんがまた口を開こうとする。すると、レイさんのすぐ後ろから下っ端の誰かが近づいてきた。
「レイさん。リーダーが呼んでます」
「……分かりました。すぐに向かいます。アキラ、また話しましょう」
「あ、はい」
レイさんは部下とともに、廃工場の奥へと引っ込んでいく。
彼は去り際にもう一度こちらを振り返って、微笑んでいた。
「お前随分とレイに気に入られたな」
「え? そうですか?」
「ああ。あれは何か裏があるかも」
フゥリが、レイさんの去って行った方をねめつける。でも仮に何か裏があったとしても、一体どんな理由で俺を構っているというのだろう。
俺が悩んでいる間にフゥリはようやく警戒を解き、洗濯物の山へと視線を戻した。
「アキラ。レイにはあまり近づくな」
「は、はい……」
俺自身レイさんにはかなり苦手意識があったので、素直に頷いた。
チーム内に粗暴な人が多い中、レイさんは驚くほど繊細な外見をしている。言動も穏やかかつ丁寧なため、初対面の時は、なぜこの人がこのチームに所属しているのか不思議でならなかった。
けど他のチームを出し抜くためにあれこれと画策し、メンバーに指示を出している様は、さながら悪の参謀といった風格だった。
そして何食わぬ顔で、しれっと暗殺を提示する姿に、俺は戦慄した。
(そのあと穏やかに話しかけれても、ただのホラーだったし……)
フゥリにこの話をしたら、「あいつは蛇みたいな男だから」と言ってため息を吐かれた。
利害が一致しているうちはいいが、気を抜いた途端、たとえ仲間であっても首を絞めてきかねないそうだ。ようするに侮れない相手という意味だろう。
そんな危険人物に気に入られても、正直あまり嬉しくはない。
でもそれと同じか、もしくはそれ以上に危険人物といえば、やはりリュウだろう。
こんな荒くれものが集うチームで、ボスの地位を獲得したような男だ。彼もまた、俺に見せていない恐ろしい一面があるに違いない。
でも、不思議とリュウのことは苦手と思わなかった。
普段はカウチに寝そべって報告を聞くか、もしくはだるそうに指示を出していることが多い。
けれど、たまに俺のところへやって来て、何か不自由はしていないかと様子を見に来てくれたりするのだ。
元の世界に帰る方法を一緒に考えてくれたり、時には冗談を言って、場を和ませようとしてくれたり……本人には悪いけど、まったく場は和まなかったが。
(リュウのことは信じたいな。俺の話を真剣に聞いてくれるし……)
それにはじめて会ったあの日。
俺を乱暴に扱った部下を止めて、手錠を外してくれたのはリュウだ。
それこそ単純だと笑われてしまうかもしれないけれど、俺にとってそれは、この世界に落ちてきて、はじめて安心した瞬間でもあったから。
「あ……」
「どうも。こんにちは」
それは水墨画に描かれる渓流のような長髪に、唐紅の瞳を持った人物だった。
彼の名は、九レイ。彼はチーム老虎のナンバー2に最も近い人物であり、実質このチームの副大将だ。
「いつも色々と手伝ってくださって、ありがとうございます。あなたの働きぶりについて聞き及んでいますが、皆揃って評価していますよ。私としても、あなたがこのチームに貢献してくれて、非常に助かっています」
「は、はあ……」
大したことは何一つしていないのだが、どうやらチーム内における俺の評価はまずまずといったところらしい。
時々じっと観察されているような視線があったから、まるでモルモットにでもされたような気分になっていたのだけれど、とりあえず合格点はもらえたようだ。
レイさんがまた口を開こうとする。すると、レイさんのすぐ後ろから下っ端の誰かが近づいてきた。
「レイさん。リーダーが呼んでます」
「……分かりました。すぐに向かいます。アキラ、また話しましょう」
「あ、はい」
レイさんは部下とともに、廃工場の奥へと引っ込んでいく。
彼は去り際にもう一度こちらを振り返って、微笑んでいた。
「お前随分とレイに気に入られたな」
「え? そうですか?」
「ああ。あれは何か裏があるかも」
フゥリが、レイさんの去って行った方をねめつける。でも仮に何か裏があったとしても、一体どんな理由で俺を構っているというのだろう。
俺が悩んでいる間にフゥリはようやく警戒を解き、洗濯物の山へと視線を戻した。
「アキラ。レイにはあまり近づくな」
「は、はい……」
俺自身レイさんにはかなり苦手意識があったので、素直に頷いた。
チーム内に粗暴な人が多い中、レイさんは驚くほど繊細な外見をしている。言動も穏やかかつ丁寧なため、初対面の時は、なぜこの人がこのチームに所属しているのか不思議でならなかった。
けど他のチームを出し抜くためにあれこれと画策し、メンバーに指示を出している様は、さながら悪の参謀といった風格だった。
そして何食わぬ顔で、しれっと暗殺を提示する姿に、俺は戦慄した。
(そのあと穏やかに話しかけれても、ただのホラーだったし……)
フゥリにこの話をしたら、「あいつは蛇みたいな男だから」と言ってため息を吐かれた。
利害が一致しているうちはいいが、気を抜いた途端、たとえ仲間であっても首を絞めてきかねないそうだ。ようするに侮れない相手という意味だろう。
そんな危険人物に気に入られても、正直あまり嬉しくはない。
でもそれと同じか、もしくはそれ以上に危険人物といえば、やはりリュウだろう。
こんな荒くれものが集うチームで、ボスの地位を獲得したような男だ。彼もまた、俺に見せていない恐ろしい一面があるに違いない。
でも、不思議とリュウのことは苦手と思わなかった。
普段はカウチに寝そべって報告を聞くか、もしくはだるそうに指示を出していることが多い。
けれど、たまに俺のところへやって来て、何か不自由はしていないかと様子を見に来てくれたりするのだ。
元の世界に帰る方法を一緒に考えてくれたり、時には冗談を言って、場を和ませようとしてくれたり……本人には悪いけど、まったく場は和まなかったが。
(リュウのことは信じたいな。俺の話を真剣に聞いてくれるし……)
それにはじめて会ったあの日。
俺を乱暴に扱った部下を止めて、手錠を外してくれたのはリュウだ。
それこそ単純だと笑われてしまうかもしれないけれど、俺にとってそれは、この世界に落ちてきて、はじめて安心した瞬間でもあったから。
0
お気に入りに追加
3
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
王道にはしたくないので
八瑠璃
BL
国中殆どの金持ちの子息のみが通う、小中高一貫の超名門マンモス校〈朱鷺学園〉
幼少の頃からそこに通い、能力を高め他を率いてきた生徒会長こと鷹官 仁。前世知識から得た何れ来るとも知れぬ転校生に、平穏な日々と将来を潰されない為に日々努力を怠らず理想の会長となるべく努めてきた仁だったが、少々やり過ぎなせいでいつの間にか大変なことになっていた_____。
これは、やりすぎちまった超絶カリスマ生徒会長とそんな彼の周囲のお話である。
せっかく美少年に転生したのに女神の祝福がおかしい
拓海のり
BL
前世の記憶を取り戻した途端、海に放り込まれたレニー。【腐女神の祝福】は気になるけれど、裕福な商人の三男に転生したので、まったり気ままに異世界の醍醐味を満喫したいです。神様は出て来ません。ご都合主義、ゆるふわ設定。
途中までしか書いていないので、一話のみ三万字位の短編になります。
他サイトにも投稿しています。
囚われた元王は逃げ出せない
スノウ
BL
異世界からひょっこり召喚されてまさか国王!?でも人柄が良く周りに助けられながら10年もの間、国王に準じていた
そうあの日までは
忠誠を誓ったはずの仲間に王位を剥奪され次々と手篭めに
なんで俺にこんな事を
「国王でないならもう俺のものだ」
「僕をあなたの側にずっといさせて」
「私の国の王妃にならないか」
いやいや、みんな何いってんの?
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる